二年目の春・2

「すいません、ウチバイトもあるし占い研究会と図書館探検部で精いっぱいなんです。」

この日の放課後、木乃香は大学部のスイーツ研究会なるサークルに誘われていた。

昨年の料理大会の覇者にしてクイーン新堂美咲と並んだ木乃香は、あれ以降クリスマスパーティの参加以外は公式に活動してないにも関わらず以前として人気が高いままである。

以前あったような料理勝負を挑む者の他にも大小様々なサークルから誘いを受けていて、中には研究費として木乃香に毎月一定の資金を出すなどかなりの厚待遇を提示したサークルもあるが木乃香は全て断っていた。

理由は単純に忙しいことと横島が居ないサークルに入っても木乃香にとってあまり意味がないからである。


「入るだけで毎月生活が出来そうね。」

研究費もスイーツという分野にも関わらず毎月数万から最高で十万ほど提示されてもいたが、はっきり言って木乃香はそんなお金を貰うほどサークルに貢献できる気がしないし逆に怖くて貰えないのが本音だ。

明日菜なんかはよく勧誘されるところを目撃するのでいい加減慣れているが、中学生の木乃香に所属するだけで数万のお金が貰えるなんてと未だに驚きの方も大きい。


「ああいう大手のサークルは資金が豊富ですからね。 木乃香が所属して知名度が上がるなら月に数万は高くはないのでしょう。」

「ウチそんなお金貰うほど貢献できへんわ。」

ただ最近特に大学部のサークル事情に詳しい夕映いわく、木乃香の知名度だと月に数万くらいならば出すサークルはそれなりにあるらしい。

飲食系サークルは麻帆良祭を始めとした麻帆良でのイベントや祭りに年間を通して参加しているので、下手な個人より資金が豊富なようである。

木乃香が所属して知名度が上がり麻帆良祭やイベントにちょっと顔を出してくれるだけで元が取れるのだろう。


「それに本命は横島さんだから。」

ちなみに彼らが木乃香を勧誘する本命は横島にあったりする。

無論木乃香の人気と知名度も欲しいが、中には木乃香がサークルに加わることでその師匠とも恋人とも言える横島の協力も間接的に得られるとの狙いも透けて見えていた。

実は夕映やのどかの元にはそんなサークルの側の裏情報も伝わっていて、親しい大学生からは気を付けた方がいいと教えて貰っている。

ここのところ四月という年度の始まりという時期なだけに木乃香のような有名人なんかは、サークルによる勧誘合戦が激しくなっていたのだ。


「横島さんとこも最近弟子入り志願者が来てるしね。」

ちなみに四月に入って以降、横島の元にも弟子入り志願者が結構来ていた。

体育祭以降は時々来ることはあったが、最近は年度の始まりということもあり明らかに数が多い。

もちろん横島としては以前面倒を見た宮脇兄妹で懲りたので全員断っていたが。

ただ木乃香が先日新堂美咲に会った際に聞いた話では麻帆良では在学中の弟子入りすることは必ずしも珍しくないらしく、新堂の店にもよく来るらしい。

まあ流石に面倒を見きれないので新堂の店でも基本的には断ってるらしいが。


「横島さん基本的に責任とか嫌いですから。」

結局現状では横島や木乃香のみならず夕映やのどかまでにもどうすれば横島へ弟子入り出来るかという問い合わせや、イベントやサークルに協力して貰えないかとの話などいろいろ舞い込んで来るが横島も暇じゃないので多忙を理由に断るしかない。

元々責任とか面倒が嫌いな横島を木乃香達は知るだけに、現状以上働かせるといい結果にならないのは彼女達も理解している。

ただ世間的に見て横島に弟子入りするには木乃香並の実力が必要なのだと思われることで、かなり抑止力になってるのは木乃香達にとっても幸いだった。





89/100ページ
スキ