二年目の春

「横島君の料理と比べると美味しくないだろうけど、みんなもたくさん食べてね。」

タマモ発案のサプライズが本当にサプライズとなり、予期せぬ形で両親と一緒に誕生日を過ごすことになった木乃香は友人や両親に誕生日を祝ってもらい心から嬉しそうにしている。

この日の料理は珍しく横島ではなく詠春と穂乃香夫妻が腕を振るっているので、穂乃香は横島と比べて味が落ちると少し申し訳なさげに料理を勧めるが味は言うほど悪くはない。


「そんなことないですよ。 美味しいです。」

ただ実は穂乃香ばかりか詠春も決して料理は下手ではなく、家庭料理で考えると上手い方だった。

穂乃香は麻帆良育ちなので京都に行く前は普通に料理をしていて、詠春も割りと早い段階から麻帆良で独り暮らししていたので最低限自炊をした経験がある。

それに詠春に関しては赤き翼で旅をしていた頃も他にまともな料理を作れる者が居なかったので、ほとんど詠春が食事を作っていたなんて裏話もあった。

正直なところ横島のような個性はないが家庭のパーティー料理としては普通に美味しい。


「本当にビックリしたわ。 ありがとうな、タマちゃん。」

一方サプライズを見事に成功させたタマモは、木乃香・穂乃香・詠春の親子に感謝の言葉をかけられて満足げな笑みを浮かべてうんうんと頷いている。

驚いた木乃香は元より穂乃香と詠春も一緒に娘を祝えることを心から喜んでいて、久しぶりに一緒に誕生日を祝えるきっかけを作ってくれたタマモに本当に感謝していたようなのだ。


「京都から麻帆良に魔法で来るのってそんなに難しいの?」

「横島君はいつも気軽に使うけど本来の転移系の魔法はそれだけで難易度が桁違いなのよ。 基本的に距離や一度に転移する人数というか質量によって難易度は更に上がるらしいわ。 多分大人二人連れて京都から麻帆良に来れる魔法使いは関東や関西でも何人も居ないわ。 しかも転移魔法って失敗したら何処に飛ばされるか分からないから怖い魔法なのよ。」

そして他の少女達は詠春と穂乃香が横島の力で京都から麻帆良に来たと聞かされて少し不思議そうにしている。

元々少女達は魔法を明かした直後に簡単に異空間アジトに瞬間移動したし、横島は異空間アジト内の移動で割と普通に瞬間移動を多用しているのでその難易度を理解してなかった。

刀子はそんな横島の非常識さに慣れてる少女達に少し苦笑いを見せつつこの世界の一般的な転移魔法について語るが、転移魔法はとにかく難易度が高い上に失敗の危険もあるので普通は転移魔法を使える者でもよほど緊急時でもなければ使わないらしい。


「どこ〇もドアみたいな道具はないのかぁ。」

「転移魔法のお札はあるわよ。 貴重品だから一枚で五十万以上するけど。」

「ゲッ、そんな高いの!?」

「作れる人が少ないのよ。」

ただ一部の少女達はそれでも横島ならば簡単に瞬間移動出来るアイテムでも持ってるんじゃないかと気楽に期待するが、刀子が何気なく語る転移札の金額にその貴重性をようやく理解して驚いてしまう。

ちなみに横島が現時点で瞬間移動するアイテムは持ってないと明言したことで少女達は少しがっかりするも、そもそも横島は自分で瞬間移動が簡単に出来るので誰でも瞬間移動出来るアイテムなど作る意味がなかったのである。

本音を言えば少女達に渡した腕時計型通信機の魔法機能に転移魔法をプログラムすれば誰でも瞬間移動出来るように出来なくもないが、流石の横島も少女達に自由に転移魔法を使わせるのはいろんな意味で危ないと感じたのか黙ったままだった。


98/100ページ
スキ