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二年目の春

「八年ぶりなんだ。 木乃香が初等部に入学する前に最後に一緒に誕生日を祝ってから。」

パーティールームでは木乃香を中心に若い少女達が楽しげに騒いでいるが、そんな娘と少女達を見守る詠春は思わず感極まったのか目頭を押さえていた。

近くに居た高畑は今まであまり人には見せて来なかった親としての詠春の素顔に自身も熱い感情が込み上げてくるほどであった。

一年また一年と娘の誕生日を迎えプレゼントを送ることを繰り返していた詠春は、何度関西呪術協会の長を投げ出そうと考えたか分からないほどである。

家族よりも大切なモノなどあるはずがないと考えているのにも関わらず、自分は家族を守るどころか一緒に暮らすことすら出来ない状況に詠春は人知れず憤りを溜め込んでいた。


「お義父さんはどうか分からないが、私は本音では家族を犠牲にしてまで呪術協会を守るつもりはないんですよ。 その為に木乃香を麻帆良に送ったんです。」

無言のまま聞き役に徹していた高畑に詠春は少し複雑そうな笑顔を見せると、関西では決して言えない自身の本音を口にする。

かつてメガロメセンブリアの勢力を追い出したように時には断固たる改革を行う近右衛門に対し、詠春は歴史と伝統を尊重し大きな変革をせぬまま現在を迎えていた。

それが呪術協会の人々の望みだと言えばそうなのだが、仮に東西統合が成されず関西が没落しても仕方ないと何処か冷めた感情で見てる部分もあった。


「あのまま木乃香を関西に置かなくて本当に良かったと、今ならば素直に思えますよ。」

広い京都の屋敷で一人寂しそうに遊ぶ娘を見て詠春は麻帆良に送る決断をしたのだ。

詠春が望めば呪術協会の同年代の子供と遊ばせることも出来たが、二つの世界を知る詠春からすると自ら閉ざした関西の狭い世界で生きる者達よりは開かれた麻帆良で友達を作り広い世界を見て欲しいと思わずにはいられなかった。

その結果が今の木乃香なのだと思うと、詠春は少なくとも自身の選択が完全に間違っていた訳ではないと思うようである。


「しゃしんとるからきて!」

そのまま賑やかな少女達を少し離れた場所で高畑と見ていた詠春であるが、この日はタマモとハニワ兵が撮影係として写真やビデオカメラを回していた。

特にタマモはいつの間にか少女達の輪から離れている二人を見つけると、服を引っ張るように半ば強引に少女達の輪の中へ戻していく。


「ぽー?」

そしてハニワ兵に促されるように何故か家族写真まで撮ることになり、親子三人での写真や近右衛門を加えた家族写が撮影されることになる。

ちなみに何故か途中からタマモも家族写真に加わってしまうとなし崩し的に他の少女達も加わったりして様々な写真が取られていた。

なおタマモとハニワ兵が撮影したビデオカメラの方は、何故か後日編集されて異空間アジト内で《サムライマスターの家族》という題名で映画化されることになる。

その映画の影響で詠春や木乃香には異空間アジトのハニワ兵達からファンレターのような手紙やプレゼントが届き詠春を困惑させることになるが。


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