平和な日常~冬~6

「粗方終わったの。」

一方同じ頃近右衛門は魔法協会本部で土偶羅の分体こと芦優太郎と話をしていた。

昨年末に横島側が提供した魔法協会内の問題人物のブラックリストの処理が一ヶ月以上かけてようやく終わっている。

無自覚にブラックリストに乗るようなことをしていた者や、メガロメセンブリアなどの敵対勢力とのパイプ役になろうとして善意で情報を漏らしていた者なんかもいて対応には手こずったというのが実情だった。


「関西の遅れが問題だな。 ワシも向こうには関われんから手助けも出来ん。」

ただ現時点でブラックリストの処理が終わっているのは雪広と那波を含めた関東側であり、関西側は未だにほとんど進んでない。

近代的な組織の関東と違い関西は血縁関係や派閥などが複雑に絡み合う組織だけに、処分するどころか単純な注意すら簡単ではない。


「こればっかりはのう。 仮に先代であるワシの兄上が生きていても、そう上手くはいかんじゃろうて。」

土偶羅としては早く次の問題に取りかかりたいが、関西が足を引っ張っている。

しかし近右衛門はこの件に関しては単純な詠春の力不足ではなく、組織の構造と歴史が問題なのだと考えていた。


「まあいい。 関東側だけで進められることはまだまだある。
とりあえず関東魔法協会にある技術研究部門を大幅に拡充することを検討するべきだ。」

「技術研究部の拡充?」

ただ現時点で近右衛門も土偶羅も関西側への過度な介入は時期尚早と見ていて、土偶羅は近右衛門に新たな提言をする。

それは関東魔法協会にある技術研究部門のことで、ここでは魔法技術そのものはもちろんのこと魔法技術と科学技術を合わせる研究なども行われていた。

学園を包む電力による魔法結界も元はこの技術研究部の開発したものだったりする。


「関東魔法協会は技術者が圧倒的に足りない。 特にこの先のことを考えるなら使える技術者は今から育てなければ間に合わないだろう。 状況によってはこちらから技術自体は提供出来るが、それを扱える人材が居ないのでは話にならん。」

技術研究というのは魔法も科学も問わずとにかく金が掛かるのが現実で、関東魔法協会でもそれなりに技術研究には資金を投入しているが土偶羅いわく技術者の数が足りないらしい。

現実問題として考えて一介の魔法協会で技術研究まで行ってる魔法協会は、実はさほど多くはない。

技術を研究開発するのは必要だが別にそれを特許や商品として商売にして利益が得られる訳ではないので、国家などのバックアップがない関東魔法協会では出来ることに限度があるのだ。


「うむ、しかし予算がのう。」

「予算に関しては幾つか考えがあるが、とりあえず来年度はこちらから資金を回そう。 使えそうな人材を確保するのは急がねばならないからな。」

正直現状の関東魔法では早急な組織の拡大は予算的に厳しいものがある。

だが魔法世界の限界が近い現状では時間こそが貴重であり、当面は土偶羅の方から資金を出しても技術研究部門は強化して欲しかった。


「よかろう。 雪広と那波に話して検討しよう。」

そのまま近右衛門は残りの時間や今後のスケジュールなどを考え悩むが、最悪魔法世界の崩壊を現実のものとして考えるならば必要なことである。

魔法協会員が多数在籍し企業として様々な分野の技術研究をしている雪広と那波に相談の上で、関東魔法協会での技術研究部門の拡充をすることを決断していた。


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