関西の一行の食事が始まるのを見届けると木乃香達は寮に帰りさよとタマモは二階に上がることになる。

流石に少女達ではこれ以上付き合えないが、後はお酒のお代わり程度なので横島一人でも大丈夫なのだ。

まあ横島にしても関西の一行を気遣ってか、厨房に篭ったまま後片づけと明日の仕込みをしていたが。


「ここ数日いいものを食い過ぎていたからホッとするな。」

今日の料理は横島がサポートに周り木乃香が味付けを決めていたので、どちらかといえば京都の近衛本家の味に限りなく近い物だった。

馴染み深い味に一行はホッとしたような気持ちを感じ食が進む。

麻帆良に来て以降関東側が食事にも気を使ってくれたのは関西側も理解しているものの、少しいいものを食べ過ぎていたというのが関西側の本音にチラリとあった。

贅沢な悩みと言えばそうだが枕が変わると眠れないという人もいるように、慣れ親しんだ味が一番ホッとするのが人間の本音なのだろう。


「次回は我らがもてなす側だ。 少し考える必要があるだろうな。」

東西協力の交渉は何も今回の交渉で全て決まる訳ではない。

今回の麻帆良での交渉から二週間後には早くも京都で二度目の交渉が行われる予定になっている。

丁重にもてなすことには変わらないが、何処かでホッとするような時は作るべきかもしれないと一行は考え始めていた。


「それにしても、難しいな。 いっそ近衛家が力で押しきれば早いものを。」

「それをやると後々に凝りが残るからな。 近右衛門様は自分の代で過去の問題にけりをつけたいのだろう。」

慣れ親しんだ料理と酒で一行は饒舌になり始め東西交渉の問題点というか愚痴をこぼし始めるが、年配者の一人は暴論ではあるものの近衛家がもっと力で押しきれば早いのだと口にする。

元々明確な上下関係がある関西とすればどうせやるならもっと近衛家の指導力を発揮して欲しいのが本音だろうが、現状の近右衛門が力押しすると旧関東魔法協会を運営していたメガロメセンブリアのやり方と重なるものもあった。

強い指導力があるトップか協調性を重んじるトップか、どちらも一長一短があり上手くはいかないとしみじみと感じる。

まあ東西の間に凝りを残したくない近右衛門の気持ちも関西側は十分理解はしているからこその愚痴だが。


一方刀子の父直人はそんな仲間たちの愚痴を聞きながらも、その思考は娘である刀子と主家の娘である木乃香との関係や近衛家が私的に雇っているという横島との関係に向いていた。

本来ならば近衛家の子供にはもっと家柄のいい人間が守役として着くはずで、刀子が現在事実上の守役なのは木乃香を東西の争いに巻き込みたくない両親の意向なのだ。

いろいろ不安だったがそんな娘と木乃香の関係が良好なことには、父として心底ホッとしている。

ただ同時に横島に対してはもしかすると同僚以上の感情を持ってる可能性をも見抜いていた。


(やはり魔法協会など抜けてしまえば良かったな。)

思えば妻にも娘にも今までには魔法協会の絡みでいろいろ苦労をかけたことを思い出すが、そもそも直人は好き好んで魔法協会に所属している訳ではない。

刀子から見て祖父母にあたる直人の両親が魔法協会に所属していた為に、物心着いた時から魔法協会に仕えるように育てられていたのだ。

別にそれは関西では珍しいことではなく当然のことであったが、自身の結婚の時や娘である刀子の結婚と離婚の時には魔法協会を抜けることを考えたこともある。

特別な力や技術を継承してるといえば聞こえがいいが、この現代日本において旧来の伝統と技術は正直無ければ無くても困らない。

少なくとも個人としては。

くだらない組織の対立に巻き込まれた娘が人としての幸せを壊された時など、父として直人がどれだけ後悔したかは娘である刀子も知らないことだった。

だが親戚縁者が魔法協会に多い葛葉家において魔法協会を抜けることは、親戚縁者と絶縁するということに等しい。

直人自身や妻に刀子は別にそれでもいいだろうが、昔の人間である直人の母はそれを受け入れられないだろう。

結果として何も出来ぬまま現在に至る父に出来ることは、娘の幸せを祈ることと次に何かあれば娘の為に魔法協会を抜けるという覚悟だけである。