平和な日常~冬~6

たっぷりと船と海を満喫した少女達であるが、この日の夕食はカニ尽くしである。

常夏の別荘も日が暮れると幾分涼しくなり、少しひんやりとした夜風が気持ちいい。

ただまるで何処かの宮殿のようなエヴァの別荘の屋上にて、相変わらず和食中心のメニューの夕食は少しシュールな光景ではあったが。


「エヴァンジェリンさんも凄い魔法使いなんだね。」

「ああ、悪の魔法使いだがな。」

ちなみにこの日の夕食も食べやすいようにとカニの殻を柔らかくしたりと、部分的に魔法料理の技術を使ってアレンジはしている。

おかげで食べやすくなったと評判がよく、カニを食べても無口にならないため食事中の話題はいつの間にかエヴァのことになっていた。


「悪の魔法使い?」

「欧米人はすぐそうやって勝手な善悪のレッテルを貼るよな。 そんなとこ俺の世界も同じだよ。」

エヴァの正体についてなにも知らない桜子が凄いと褒めるも、エヴァは少し自虐的な笑みを浮かべて自分は悪の魔法使いだと語る。

その表情と言葉に少女達は驚きや困惑気味に静まり返るが、横島は特に気にした様子もなくカニを食べ続けるとよくあることだと言い周囲の視線が集まる。


「欧米系の西洋魔法使いは自分達を正義としてその価値観に合わない存在は悪だとかテロリストだとかよく言うわ。 基本的に悪とかテロリストなんて言葉は権力者に都合よく使われることが多いから精査が必要よ。 彼らは昔は地球側の国家や宗教に王家までも悪だと言ってたらしいしね。」

幾分言葉が足りない横島に対し刀子が引き継ぐように語り出すが、以前にも説明した通りメガロメセンブリア自体が元々はヨーロッパに居た白人が主でありこの世界でもあった魔女狩りなどから逃げた者の子孫であった。

近年では流石にあまり言われなくなったが昔は地球側のヨーロッパ各国とその王家やカトリックなどの宗教まで悪だと断言して恨んでいたなんて歴史がある。

エヴァの存在もまたメガロのいわゆる地球側への影響力拡大などの為の方便として使ったこともあり、実情よりかなり脚色した驚異として伝わってもいた。

確かにエヴァの実力は驚異ではあったが、だからと言って彼女一人でメガロメセンブリアを滅ぼせるほどでもない。


「そもそも善悪で言えば横島さんも結構微妙よね。 魔王の遺産なんか持ってる時点でさ。」

「うんうん。」

闇の福音を始めとする様々な異名を持ち魔王とも言われるエヴァであるが、良いのか悪いのかは別にして横島に比べるとインパクトが薄いのが実情だった。

加えて現代っ子である彼女達は漫画やアニメにドラマや映画ですら、単純な正義や悪なんて鼻で笑うとまではしなくてもいまいち盛り上がらないだろう。


「今時小学生でも高学年になれば正義とか悪なんて信じないわよ。」

「時代の違いだろうな。 少し前なら偉い人が悪だって言えばみんな信じた時代があるんだよ。」

インターネットが普及し情報が溢れているこの時代は、人々に情報を発信する側が必ずしも正しく正確な情報を流してないことを理解させ始めた時代である。

悪や魔王なんて言葉で動じない少女達に横島はふと過去を思い出す。

かつて横島が人類の敵だと言われたのは西暦で言えば、現在の世界の西暦と比べるとほんの数年前のことなのだ。

ただこの数年で世の中にはパソコンや携帯にPHSが劇的に普及しており、情報が多様化したのは横島も理解している。

もしあの時にこんな少女達が当たり前な世界であったら、自分はどう扱われたのだろうかとふと考えてしまう。


「エヴァちゃんも大変だったのね。」

結局横島と刀子の言葉に少女達はどちらかといえばエヴァに同情的になるも、エヴァはそれに怒りを感じるどころか横島と同じく時代の違いを感じることになっていた。

安っぽい同情など不快にも感じるが、世間から隔離したような生活をして居たエヴァは自分が封じられていた十年の間に十代の少女達がこれほど変わったのだと知らなかった驚きも大きい。

まあここで怒って反論しても多分通じないのだろうと思うと反論する気も起きないまま時間は流れていく。
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