平和な日常~冬~5

さて東西の交渉は一定の情報の共有化と有事の際の共闘など近右衛門と詠春で合意した内容を詰めていくのが交渉団の仕事であるが、やはり細々とした問題の駆け引きは続いていた。

機密を除く一定の情報の共有化は分かりやすく双方に利益があるが、ここで問題となったのは東と西では情報の管理体制からして違うことだろう。

一言で情報の共有と言っても麻帆良と京都間の情報伝達をどうするのかという根本的な問題から、情報が漏洩した場合の原因追求や責任の取り方など決めねばならないことは山ほどある。

ちなみに情報伝達に関しては基本的に情報を人の手で運ばれることになり、当然ながら電話やファックスや電子メールは論外であった。

ただここからがまた難しく運ぶ人間の実力や人数に運搬ルートの選定など決めねばならない。

一部の者からは電話は論外にしても重要機密でないならば普通に電子メールや郵便でいいのではとの声も上がるが、電子メールは国家規模の組織には中身が見られる危険があることや郵便では一般的な魔法関係の工作員でも奪うことは容易いのでダメだということになる。

関西側の交渉団の一部からは神経質になりすぎではとの声も上がるが、それに対して麻帆良側からは外交部門や情報部門からすでに魔法協会も情報戦と経済戦になりつつあるとの現実が関西に知らされることになった。

それと元々魔法協会が国家とは別組織だとの建前は一部の国家以外ではほぼ通用せず多かれ少なかれ所在する国家の影響を受けている為、関西や関東なども公安を始めとする日本の情報機関の調査対象になっている。

東西共に魔法協会は現状では日本政府との関係は良くも悪くもないが、それはそれとして最低限の情報収集はされているのが現実だった。

まあ監視対象になってないだけ政府も魔法協会側には気を使ってはいたが。

関西に関しては今までのように外部との関わりを避けて古くから付き合いのある国内の交流以外持たないなら構わないが、対外的な脅威に対処するには必然的に組織の近代化が必要になってくる。

そもそもメガロメセンブリアが地球側の魔法協会に対し徐々にではあるが経済的な支配に切り替えつつあることは、各国魔法協会がメンツを気にして隠しているので関西が知らないことも無理はなかった。

結局関西は組織を守る為にも時代の流れに乗らねばならなってしまう。


「最早魔法協会の領分を越えてる気もしますな。」

「我々は今まで通りでも可能な気もしますが?」

「経済と情報で他所はもとより東にも負けるというのは事実だろう。 上は隠してるがどの幹部も財政は本当に余裕がない。 それに所属する人員の数が違う。 関東は所属する人員が五万とも十万とも言うが、我々はどんなに盛ってもせいぜい一万人しか居ない。 経済規模は比べるまでもない。」

現状では武力はともかく情報戦や経済戦では関西は遅れに遅れているので、最終的には関西の交渉団はそれを関西に持ち帰り上に報告するしか出来ない。

ただ麻帆良に来た交渉団は、関東が持つ各方面の正確な情報と豊富な人材に関西の遅れを痛感し危機感を覚えていた。

選ばれたのは刀子の父を始めとした東に抵抗感がないメンバーであったが、最早武力による戦いだけでは済まされない事実は彼らをどこまでも悩ませることになる。

基本的に限られた世界で生きてきた関西と、明治以降メガロメセンブリアの支配下にあったとはいえ開かれていた関東では組織としての力がすでに比べようもないほど開いていた。

関西の中には万が一の際には武力で関東を屈服させられると言う者も居るが、仮に武力で関東を屈服させても別に関東の全てが手に入る訳ではないので関西では統治すら出来ないだろうと交渉団の一員は語る。

第一関東ですら財政を握る雪広や那波にそっぽを向かれるとどうしようもないのは、部外者である関西の人間から見ても分かることだった。

結局交渉団はいかにして実利で関西の保守派を宥めつつ関東と協力していくかを自分達も考えねばならなくなる。


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