平和な日常~冬~5

そしてケーキを食べ終えるとこの日の最後は誕生日プレゼントを渡してお開きとなるが、今回タマモとさよが用意したのはハニワ兵に手伝ってもらい手作りしたエプロンであった。

千鶴は週に何日かは保母さんのボランティアをしてることから、日常的によく使うエプロンを選んだらしい。

大きなポケットとデフォルメした動物達が印象的な実用的なエプロンで、タマモは主にデザインを決めてさよとハニワ兵が縫ったものである。

だいぶ可愛らしいエプロンになったがタマモの中での千鶴のイメージは、大人の色気より可愛らしいエプロンが似合う人なのだろう。

次に横島が用意したプレゼントは春物のコートであった。

こちらも夕映の時と同様にハニワ兵によるオーダーメイドである。

正直プレゼントに関しては夕映の時と違い魔法の存在を明かして異空間アジトにも連れていったので、もっと自由に他では手に入らない物や女性が喜びそうなブランド品にでもしようかと考えはしたのだが木乃香達から普通の方がいいと言われ結局無難なものにしていた。

横島にしても下手なものをあげてタンスの肥やしになるくらいならば使える物がまだいいとも考えたし、夕映のコートに関して本人は元より周囲でも評判が良かったことも選んだ理由にあるが。


「実は宇宙旅行と最後まで迷ったんだよな。 ただ宇宙行っても何にもないしさ。」

横島やタマモ達に続き少女達や両親までもがプレゼントを渡すが、そんな中千鶴に喜んで貰えた横島はホッとしたからかまた妙なことを口走って周囲の注目を集めてしまう。

実は横島がオーダーメイドのコートと最後まで迷ったのは宇宙に連れていくことだったりする。

天文部にて星を見るのが好きな千鶴に宇宙で星を見せれば喜ぶんじゃないかと考えたらしいが、実際宇宙に行っても本当に星を見るだけで何にもないので止めたらしい。

というかこれからも周囲の少女達の誕生日は来るので、あまりハードルを上げると後で困ると流石に横島も気づいていた。


「宇宙ですか?」

「マスターって魔法ってよりSFの世界の人みたいね。」

ハニワの国に行ける横島ならば別に宇宙に行っても驚きはしないが、横島を見てると魔法というよりSFの世界の人みたいだとみんな思うようだ。


「いいわね。 宇宙人と宇宙戦争が始まるのね! 地球を救うために旅立つのよ!!」

「はいはい、その辺にしときましょうね。」

ちなみに宇宙と聞いて何故かハルナのテンションが上がってしまい、宇宙戦争やら銀河を股にかける宇宙海賊やら不思議な樹と共に宇宙の半ばを支配する王家の名前を口走るが明日菜によって軽く流されて終わっている。

非日常のスリルとサスペンスに一番飢えてるのはやはり彼女なのかもしれない。


「宇宙も一度は行ってみたいわね。」

「そうか。 なら今度連れていってやろう。 半日も居れば飽きるけどな。」

そして肝心の千鶴はやはり宇宙に興味があるらしく一度は行ってみたいと夢を語るようにつぶやくも、横島は近所に遊びに行く感覚で連れていくことを簡単に約束する。

その言葉に刀子は若干呆れていたが、意外にも他の少女達や那波家の面々は興味があるようで自分達も行きたいと言い出す始末だった。


「神様や魔王の話よりリアリティがあるんですよね。」

正直宇宙の話は魔王の遺産やら先程のアルテミスの話よりはよほどリアリティがあり、本来ならばあり得ないことでも普通のように感じてしまうと夕映はのどかと顔を見合わせ笑ってしまう。

結局横島はそのうち宇宙に行こうかと相変わらずのいい加減な約束をして終わることになるが、千鶴にとって忘れられない誕生日になったことは確かだろう。

アルテミスの話や宇宙の話など少女達にとって事の真偽が分からない話も多かったが、少しずつではあるが横島の過去が明らかになりつつあるのは嬉しいことであった。

そして何よりこうして一緒の時間を重ねて馬鹿話を出来ることがある意味少女達にとって一番の願いでもある。

まあ大人の色気があった千鶴が少女のように笑う姿に、横島の人たらしとしての恐ろしさを感じた者も何人かいたが。

ともかく夢と希望に満ちたまま千鶴の誕生日は終わることになる。
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