龍に触れたその先に(5)
初めのうちは「禍祓い」の(依頼)相談コーナーに書いてあったものと同じような内容だった。
孫に犬のぬいぐるみをあげたこと。そのぬいぐるみが孫を襲ったかもしれないこと。孫の母である嫁に突き返されてしまったこと。
「その、ぬいぐるみがお孫さんに噛みついたって証拠はあるんですか?」
名千さんが尋ねると、女性は小さなバッグからスマホを取り出しある画像を見せたようだった。
「うええーっ!!ホントだ噛まれとる!なんかいっぱい噛まれとるじゃん!!」
「レッドくん!声が大きいて!」
「これは嫁から送られてきたものなんですが、本当にぬいぐるみがやったんでしょうか?私と孫を引き離すために嫁がわざと怪我をさせたんじゃないでしょうか?」
女性が持っていたハンカチを握り締める。
「もしそうだとしたら話が違ってくるし俺はこの依頼を受けとりませんよ。「禍祓い」じゃなくて児童相談所や警察にお願いせんといかんヤツです。」
けど、と続ける。
「なんで今になって“お嫁さんがやったかも“なんて思ったんです?」
女性は言おうか言うまいか悩んだらしくしばらく沈黙していたが、名千さんの視線に耐えられなかったのかおずおずと話し始めた。
「…お恥ずかしい話ですが、嫁とは少々折り合いが悪くて、孫にもなかなか会わせてもらえないのです。なので、せめてプレゼントだけでもと思ってこのぬいぐるみを贈ったのですが、“マンション住まいで部屋も狭いのに、こんな大きなものは要らない“と言われまして。」
「うん、確かにでっかい!」
「レッドくん、悪気がないのは分かっとるけど今それを言っちゃかんてっ」
名千さんが慌ててレッドくんをたしなめる。
「昔は嫁とも上手くいってたんです。なのに最近は忙しいと言って会わせてくれなくて寂しくて。私はただ、孫が喜ぶと思ってっ良かれと思って贈ったのにっ!孫に会いたくて一緒に遊んだりお出かけしたいだけなのにっ!」
レッドくんの言葉にショックを受けたのか、女性の声が涙声になり段々と大きくなっていく。
「嫁が邪魔するのが悪いのよっっ!」
「ちょっ、落ち着いてください!」
あ。
<紫音。気づいたか。>
『うん。ヤバいな。』
女性の悲痛な叫びに呼応して、風呂敷の中のぬいぐるみから黒い霧のようなものが立ち昇ったのが見えた。獣のような臭いもする。どちらも普通の人が感じることはないものだが、名千さんは感じたようだ。
「とりあえずここを出ましょう。レッドくん、ぬいぐるみ持ったげて。」
三人の次にお会計をしてもらって店を出た。
自分の上半身より大きな風呂敷を抱えたレッドくんと、まだ興奮気味の女性を宥めながら店を出ていく名千さんの姿を見失わないように、でも気づかれないように距離をあけてついていく。日も暮れてきたせいか観光客の姿もまばらだ。
「名千!なんかこれ重たくなってきとる!あとなんかクサい!」
「そりゃいかん。ちょっと急がなかんわ。」
年配の女性を気遣いながらも早足で歩いていく。向かった先は大須の中心部から少し離れた神社のさらに奥の森のようなところだった。人の姿はない。気付かれないように木々に隠れながら追いかける。
(メイン通りしか行ったことなかったからこんな静かなところがあるなんて知らなかった…)
「もう無理だあーっ!重たいっっ!!」
レッドくんが風呂敷を置いた瞬間、結び目がほどけてぬいぐるみが飛び出てきた。思ったよりさらに大きい……え?
むっくりと立ち上がったぬいぐるみは、風呂敷に包まれていたとは思えないくらい大きくなっていた。元はきっと愛らしい“ぬいぐるみだったモノ“は、“穢“のせいで目が吊り上がり裂けた口から牙がのぞいている。
「はあ!!??コイツさっきより大きくなっとる!!」
「何でっっ??!!私が贈ったのはこんなっこんな大きくなかったっっ!」
「危ないで下がっとってください!隠れて!!動かんでください!!!」
名千さんが女性を避難させてる間に、レッドくんが太い枝でぬいぐるみに立ち向かっていた。
「お前はこのレッド様が倒してやるぜ!!!うりゃっっ!!とおっっっ!!!」
戦隊モノの主人公?みたいに枝を剣のように振り回しているが、軽くかわされてなかなか当たらない。当たっていてもあまりダメージを受けていないように見える。
「くっそおっっ!何でこんなフワンフワンしてんだあ??!!」
…そりゃ元々は(ってか今の段階でも)綿が詰まってるだけのぬいぐるみだからね。思わず頭の中でレッドくんの疑問にツッコミを入れてしまう。
<紫音!!こっちに向かってきてるぞ!!>
紅音の声にハッとして顔を上げると、ぬいぐるみに追われたレッドくんがこっちに向かって走ってくるのが見えた。
孫に犬のぬいぐるみをあげたこと。そのぬいぐるみが孫を襲ったかもしれないこと。孫の母である嫁に突き返されてしまったこと。
「その、ぬいぐるみがお孫さんに噛みついたって証拠はあるんですか?」
名千さんが尋ねると、女性は小さなバッグからスマホを取り出しある画像を見せたようだった。
「うええーっ!!ホントだ噛まれとる!なんかいっぱい噛まれとるじゃん!!」
「レッドくん!声が大きいて!」
「これは嫁から送られてきたものなんですが、本当にぬいぐるみがやったんでしょうか?私と孫を引き離すために嫁がわざと怪我をさせたんじゃないでしょうか?」
女性が持っていたハンカチを握り締める。
「もしそうだとしたら話が違ってくるし俺はこの依頼を受けとりませんよ。「禍祓い」じゃなくて児童相談所や警察にお願いせんといかんヤツです。」
けど、と続ける。
「なんで今になって“お嫁さんがやったかも“なんて思ったんです?」
女性は言おうか言うまいか悩んだらしくしばらく沈黙していたが、名千さんの視線に耐えられなかったのかおずおずと話し始めた。
「…お恥ずかしい話ですが、嫁とは少々折り合いが悪くて、孫にもなかなか会わせてもらえないのです。なので、せめてプレゼントだけでもと思ってこのぬいぐるみを贈ったのですが、“マンション住まいで部屋も狭いのに、こんな大きなものは要らない“と言われまして。」
「うん、確かにでっかい!」
「レッドくん、悪気がないのは分かっとるけど今それを言っちゃかんてっ」
名千さんが慌ててレッドくんをたしなめる。
「昔は嫁とも上手くいってたんです。なのに最近は忙しいと言って会わせてくれなくて寂しくて。私はただ、孫が喜ぶと思ってっ良かれと思って贈ったのにっ!孫に会いたくて一緒に遊んだりお出かけしたいだけなのにっ!」
レッドくんの言葉にショックを受けたのか、女性の声が涙声になり段々と大きくなっていく。
「嫁が邪魔するのが悪いのよっっ!」
「ちょっ、落ち着いてください!」
あ。
<紫音。気づいたか。>
『うん。ヤバいな。』
女性の悲痛な叫びに呼応して、風呂敷の中のぬいぐるみから黒い霧のようなものが立ち昇ったのが見えた。獣のような臭いもする。どちらも普通の人が感じることはないものだが、名千さんは感じたようだ。
「とりあえずここを出ましょう。レッドくん、ぬいぐるみ持ったげて。」
三人の次にお会計をしてもらって店を出た。
自分の上半身より大きな風呂敷を抱えたレッドくんと、まだ興奮気味の女性を宥めながら店を出ていく名千さんの姿を見失わないように、でも気づかれないように距離をあけてついていく。日も暮れてきたせいか観光客の姿もまばらだ。
「名千!なんかこれ重たくなってきとる!あとなんかクサい!」
「そりゃいかん。ちょっと急がなかんわ。」
年配の女性を気遣いながらも早足で歩いていく。向かった先は大須の中心部から少し離れた神社のさらに奥の森のようなところだった。人の姿はない。気付かれないように木々に隠れながら追いかける。
(メイン通りしか行ったことなかったからこんな静かなところがあるなんて知らなかった…)
「もう無理だあーっ!重たいっっ!!」
レッドくんが風呂敷を置いた瞬間、結び目がほどけてぬいぐるみが飛び出てきた。思ったよりさらに大きい……え?
むっくりと立ち上がったぬいぐるみは、風呂敷に包まれていたとは思えないくらい大きくなっていた。元はきっと愛らしい“ぬいぐるみだったモノ“は、“穢“のせいで目が吊り上がり裂けた口から牙がのぞいている。
「はあ!!??コイツさっきより大きくなっとる!!」
「何でっっ??!!私が贈ったのはこんなっこんな大きくなかったっっ!」
「危ないで下がっとってください!隠れて!!動かんでください!!!」
名千さんが女性を避難させてる間に、レッドくんが太い枝でぬいぐるみに立ち向かっていた。
「お前はこのレッド様が倒してやるぜ!!!うりゃっっ!!とおっっっ!!!」
戦隊モノの主人公?みたいに枝を剣のように振り回しているが、軽くかわされてなかなか当たらない。当たっていてもあまりダメージを受けていないように見える。
「くっそおっっ!何でこんなフワンフワンしてんだあ??!!」
…そりゃ元々は(ってか今の段階でも)綿が詰まってるだけのぬいぐるみだからね。思わず頭の中でレッドくんの疑問にツッコミを入れてしまう。
<紫音!!こっちに向かってきてるぞ!!>
紅音の声にハッとして顔を上げると、ぬいぐるみに追われたレッドくんがこっちに向かって走ってくるのが見えた。
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