“陰“と“陽“の狭間にあるもの
しゃらしゃら回る万華鏡。
くるくる変わる色や形は、心の奥底にある模様を映し出す。
今。
あなたにはどんな模様が見える?
________________________________________________
いつ来てもカオスだな。
名駅近くでちょっとした用事を済ませて、せっかくだからと大須にも寄ってみた。
商店街は平日であるにも関わらず観光客で賑わっていた。それに加え、学校帰りの学生や普通に夕飯の買い物に来ている人たちもいる。日常と非日常が交錯して、何とも言えない奇妙な空気が漂っている。
初めて二人を見つけた時は日中のお祭だったこともあってか、とても明るくて賑やかで陽気な混沌さだったけれど、今は夕暮れ。だんだんと陽が落ちて闇に染まる前の、陰りが少しずつ濃くなる頃だ。
ひっそりと隠れていたものが顔を出し始めるような、妖しげな“陰“と“陽“の狭間の刻。
そっか。
“逢魔が刻“だ。
相変わらず窮屈そうに囲われている白い龍の足元に腰かけて、行き交う人たちを眺めながらふわふわと考える。
知らないうちに、この世ならざるものが混ざっていても不思議じゃない。
それこそ“鬼“がいても誰も気にしないかもな。
“鬼“というには邪気のない、眩しい金の瞳と二本の角を持った少年の元気な姿を思い浮かべる。
あれ以来、龍導院のお寺からも名千さんからも連絡は来てない。……ってか、連絡先を書いてないの、名千さんは気づいてないんだろう。だからといって私からするのも違う気がする。
蒼い瞳と銀髪の、大柄で強面なのにしなやかで柔らかな人。やらかしに気がついた時にわたわたする姿がちょっとだけ想像できてしまって口元が緩む。
『二人とも元気かなあ…』
ふうっとため息をつきながら呟くと、自分の内でごそごそと動く気配を感じた。
<紫音。用事は終わったのか?>
『終わったよー、隠れとってくれてありがとね』
<あまりに退屈だったんで寝ちまってたぜ>
紅音がうーんっと伸びをしてる感覚がした。用件自体は大したものではなかったけれど少しばかりややこしい相手だったんで、変に気取られて絡まれないよう紅音には潜ってもらっていたのだ。
<で。なんでここにいるんだ??>
『んー?近くまで来たからってのもあるけど、レッドくんに会えたらラッキーかなあって思ってさ』
「禍祓い」の日時を掴むために来てた時も、このくらいの時間にレッドくんを見かけることが多かった気がする。
<会って何か話すことでもあるのか?>
『話したいことがあるってより、名千さんに連絡先のことを伝えてもらえたら助かるなって』
あとは名千さんの近況が聞けたら、なんであんな夢(?)を見たのかも少しは分かるかも知れない。紅音には話してないけれど何かは感じているんだろうと思う(私の源なんだから当たり前っちゃ当たり前だ)。でも、無遠慮に踏み込んでこないのも知ってるのでそこは信頼できる。
深くて重い【孤独】を抱えた、小さな銀の万華鏡を持つ幼子。
歳を重ねた“今“でも、痛みと重さに耐えながら消えない【孤独】を抱えているのだろうか。
物思いに沈んでいた私の耳に音が聞こえた。
“てんっ“
夢で聞いた音。二人を見つけた時に聞こえた音。
ふふ。ラッキーだ。
白龍を見上げる。ゆっくりと、音のした方を見つめる。
そこには、ノースリーブの派手な和服を着て、腰に龍の飾り物をつけた小柄な少年が立っていた。
___________________________________________________
買い物の途中なのか、大きな袋を持ったレッドくんがメモか何かを確認しながらキョロキョロと辺りを見回していた。
名千さんがいないからかも知れないけれど、何となく居心地が悪そうで心許なく見える。その姿が何だかとても寂しげで、心配になって声をかけようと立ち上がると私の視線に気づいたのかふっとこっちを向いた。
ひらひらと小さく手を振ると、訝しげに細められていた瞳がぱあっと大きくなって、ぶんぶんと手を振り返してくれたかと思ったらそのまま結構な勢いで向かってきた。
観光客や学生たち、自転車に乗った買い物帰りのおばちゃんをひょいひょいと避けて走ってくる。
すげーな、あの厚底の靴であんな上手いことかわして走れるんだ…っと感心してるうちに、きらっきらした金の瞳が目の前にあった。
さっきまでの不安そうな雰囲気が消し飛んで、全身から溢れんばかりのエネルギーを放ったレッドくんが満面の笑顔で立っていた。
「こんにちはっっ!!!!」
『こんにちは。私のこと、覚えとる??』
「うんっっ!!おれ覚えとるよっっ!!紫音さん!!!」
『おお、覚えとってくれたんだ、嬉しいな。お買い物中?』
「そうっ!!名千に頼まれたっっ!!!」
やっぱり名千さんと一緒にいるのか……と考えていると、レッドくんのお腹がぐう…っと鳴った。
『……お団子食べる??』
「食べるっっっ!!!」
『よし!じゃあ買いに行こっか』
私の方も小腹が空いてきてたし喉も渇いてたので丁度いい。
「やったああっっ!!おれっ!でらうまなトコ知っとるもんで、そこのヤツ食べたいっっ!!!」
何とも元気なレッドくんに腕を引っ張られながらお団子屋さんに向かった。
___________________________________________________
レッドくんおすすめのお団子屋さんでみたらし団子を買って、小さな古墳のある公園のベンチに腰を落ち着けた。丁寧に包んである竹の皮をめくり、レッドくんにお団子を渡して自分も一本つかむ。
「いたーだきますっっっ!!」
『いただきます』
ひとくち齧ると名古屋特有(なのかな?)の醤油の香ばしいしょっぱい味が口の中いっぱいに広がる。
「でらうまああっっっ!!!」
『美味しい!』
口の周りに醤油タレをつけながらモリモリ食べるレッドくんを見てるのはとても楽しい。
「これねっっ!!名千にも買ってもらったことあるっ!!!」
『そうなんだ』
「あっっそうだっっっ!!!こないだはありがとうっっっ!!!」
レッドくんに突然頭を下げられてびっくりした。こないだって…「禍祓い」の時のことかな?
『あれは名千さんが頑張ってくれたからね。名千さん、すごいね』
「うんっっ!!名千、悪者やっつける時ビカビカーって光っとるしっっっ!!!パンチとかキックとかすごいんだっっっ!!!」
金の瞳をキラキラさせながら熱弁してくれるのが何とも微笑ましい。
『名千さんはお元気??』
「だいたい元気っっっ!!!」
『だいたい?』
「たまに“仕事がーーっ!!“って言っとる!!!」
…お忙しいのかな?
「時々“俺の五万円返せえーっっ!!“って叫んどる!!!」
…うん、パチかスロで負けたんだな。
「……あと」
ふと、元気いっぱいに答えてくれてたレッドくんの表情が曇った。
「円覚さんトコに行った時、なんか…なんか夜中に唸っとる」
『円覚さん??』
初めて聞く名前だ。
「えっとねっっ!でらハゲとるっ…じゃなかったっっ!!!て、テイハツ??しとる人!!」
『剃髪…龍導院のお坊さまかな??』
「そうっっっ!!この服買ってくれたっっ!!んで、たまにお菓子とかご飯とか食べさしてくれるっっっ!!」
……この人だ。
レッドくんの話を聞いてピンとくるものがあった。…ってことは。
『その“円覚さん“ってお坊さまが、名千さんに悪者退治を頼んでくるの?』
「ええっっっ!!!なんで知っとるのっっ??!!」
やっぱりそうか。この“円覚“ってお坊さまが「禍祓い」を取り仕切ってる人なんだ。お寺のサイトを運営してるのも多分この人なんだろう。…それから。
『名千さんが唸ってるって、なんか困ったりしてる感じ??』
「すぐ部屋に入ってまうもんで分かんないっっ!!…けど」
『けど??』
レッドくんがお団子を持った手をぎゅっと握って胸にあてる。
「それ聞くと、ここがすげー痛くなる」
一瞬、時が止まった気がした。
しゃらん。
くすんだ色の歪な形をした模様が、まわる。
_________________________________________________
「あっっっ!!!遅なってまったっっ!!名千が帰ってきとるかもしれんっっっ!!!」
慌てたようなレッドくんの声に驚いて時間を確認すると、けっこうな遅い時間になってしまっていた。
周りを見るとポツポツと街灯が灯り始めていて、人の行き来もまばらになっている。
『うわ、私も帰らんと!』
残ったみたらし団子を包み直してレッドくんに渡す。
『これ、良かったら名千さんと食べてね』
「いいのっっ!!??ありがとうっっっ!!!」
『あと、お願いしてもいい??』
買い物袋にお団子を入れて走っていこうとするレッドくんを引き止める。
「なに??」
『名千さんに、“連絡はどうしますか?“って伝えてくれる??たぶんこれで通じるから』
「わかったっっっ!!!……紫音さん、なんで笑っとるの???」
『ごめんごめん、レッドくんのことを笑っとる訳じゃないよ。名千さんによろしくね』
夕闇に溶けるように帰っていくレッドくんを見送って、再び白龍のところに戻った。
足元から立ち込める霧と、上から降り注ぐ龍の吐息のような霧に覆われて目を閉じる。
レッドくんに会えて話が聞けたのはとても良かったし、レッドくんが私の言葉を伝えたときの名千さんを想像して少し笑ってしまったけれど。
表に出るその姿が“陽“であるとするなら。
夜中に、レッドくんが胸を痛めるほどの嘆きを出してる姿は“陰“だ。
黒く、重い【孤独】を、深い深いところに沈めて抱えている。
わかってた。
美しく優しい籠は、儚く脆いって。
歳を重ねた今の名千さんもきっとわかってる。
幼い頃に言葉にできなかった“もやもや“が【孤独】というものだってことも。
その【孤独】は消えないってことも。
『ねえ紅音』
<なんだ>
私は、傲慢だ。
『名千さんの【孤独】が欲しい』
<……今度こそ戻れなくなるかもしれねーぞ>
『それでもいい。あ、でも連絡が来なきゃどうしようもできないけど』
こうなった時の私は絶対に折れないってことを知っている紅音が、ふううっと深いため息をつく。
<好きにしろ。見届けてやる>
『ふふ、ありがと。名千さんに拒絶されて龍の尾先から飛ばされちゃったら、“つかまえて“ね?』
<おう>
__________________________________________________
しゃらしゃら回る万華鏡。
綺羅綺羅と反射する蒼と銀、紫の光。様々な大きさに変わる、鮮やかな八角形の模様。
「いっしょにきれいなもようを見ようねっ」
うん。私もいっしょに見たいな。
あの時の、幼子との約束。
どうか、守れますように。
“陰“と“陽“の狭間。ほんの少しのきっかけで、どっちにでも傾いてしまう危ういところ。
しゃらん。
ゆっくりと目を開ける。霧のせいか、いつもより淡い光に包まれて揺らめいているように見える白龍に小さく手を振って、駅に向かって歩き出した。
くるくる変わる色や形は、心の奥底にある模様を映し出す。
今。
あなたにはどんな模様が見える?
________________________________________________
いつ来てもカオスだな。
名駅近くでちょっとした用事を済ませて、せっかくだからと大須にも寄ってみた。
商店街は平日であるにも関わらず観光客で賑わっていた。それに加え、学校帰りの学生や普通に夕飯の買い物に来ている人たちもいる。日常と非日常が交錯して、何とも言えない奇妙な空気が漂っている。
初めて二人を見つけた時は日中のお祭だったこともあってか、とても明るくて賑やかで陽気な混沌さだったけれど、今は夕暮れ。だんだんと陽が落ちて闇に染まる前の、陰りが少しずつ濃くなる頃だ。
ひっそりと隠れていたものが顔を出し始めるような、妖しげな“陰“と“陽“の狭間の刻。
そっか。
“逢魔が刻“だ。
相変わらず窮屈そうに囲われている白い龍の足元に腰かけて、行き交う人たちを眺めながらふわふわと考える。
知らないうちに、この世ならざるものが混ざっていても不思議じゃない。
それこそ“鬼“がいても誰も気にしないかもな。
“鬼“というには邪気のない、眩しい金の瞳と二本の角を持った少年の元気な姿を思い浮かべる。
あれ以来、龍導院のお寺からも名千さんからも連絡は来てない。……ってか、連絡先を書いてないの、名千さんは気づいてないんだろう。だからといって私からするのも違う気がする。
蒼い瞳と銀髪の、大柄で強面なのにしなやかで柔らかな人。やらかしに気がついた時にわたわたする姿がちょっとだけ想像できてしまって口元が緩む。
『二人とも元気かなあ…』
ふうっとため息をつきながら呟くと、自分の内でごそごそと動く気配を感じた。
<紫音。用事は終わったのか?>
『終わったよー、隠れとってくれてありがとね』
<あまりに退屈だったんで寝ちまってたぜ>
紅音がうーんっと伸びをしてる感覚がした。用件自体は大したものではなかったけれど少しばかりややこしい相手だったんで、変に気取られて絡まれないよう紅音には潜ってもらっていたのだ。
<で。なんでここにいるんだ??>
『んー?近くまで来たからってのもあるけど、レッドくんに会えたらラッキーかなあって思ってさ』
「禍祓い」の日時を掴むために来てた時も、このくらいの時間にレッドくんを見かけることが多かった気がする。
<会って何か話すことでもあるのか?>
『話したいことがあるってより、名千さんに連絡先のことを伝えてもらえたら助かるなって』
あとは名千さんの近況が聞けたら、なんであんな夢(?)を見たのかも少しは分かるかも知れない。紅音には話してないけれど何かは感じているんだろうと思う(私の源なんだから当たり前っちゃ当たり前だ)。でも、無遠慮に踏み込んでこないのも知ってるのでそこは信頼できる。
深くて重い【孤独】を抱えた、小さな銀の万華鏡を持つ幼子。
歳を重ねた“今“でも、痛みと重さに耐えながら消えない【孤独】を抱えているのだろうか。
物思いに沈んでいた私の耳に音が聞こえた。
“てんっ“
夢で聞いた音。二人を見つけた時に聞こえた音。
ふふ。ラッキーだ。
白龍を見上げる。ゆっくりと、音のした方を見つめる。
そこには、ノースリーブの派手な和服を着て、腰に龍の飾り物をつけた小柄な少年が立っていた。
___________________________________________________
買い物の途中なのか、大きな袋を持ったレッドくんがメモか何かを確認しながらキョロキョロと辺りを見回していた。
名千さんがいないからかも知れないけれど、何となく居心地が悪そうで心許なく見える。その姿が何だかとても寂しげで、心配になって声をかけようと立ち上がると私の視線に気づいたのかふっとこっちを向いた。
ひらひらと小さく手を振ると、訝しげに細められていた瞳がぱあっと大きくなって、ぶんぶんと手を振り返してくれたかと思ったらそのまま結構な勢いで向かってきた。
観光客や学生たち、自転車に乗った買い物帰りのおばちゃんをひょいひょいと避けて走ってくる。
すげーな、あの厚底の靴であんな上手いことかわして走れるんだ…っと感心してるうちに、きらっきらした金の瞳が目の前にあった。
さっきまでの不安そうな雰囲気が消し飛んで、全身から溢れんばかりのエネルギーを放ったレッドくんが満面の笑顔で立っていた。
「こんにちはっっ!!!!」
『こんにちは。私のこと、覚えとる??』
「うんっっ!!おれ覚えとるよっっ!!紫音さん!!!」
『おお、覚えとってくれたんだ、嬉しいな。お買い物中?』
「そうっ!!名千に頼まれたっっ!!!」
やっぱり名千さんと一緒にいるのか……と考えていると、レッドくんのお腹がぐう…っと鳴った。
『……お団子食べる??』
「食べるっっっ!!!」
『よし!じゃあ買いに行こっか』
私の方も小腹が空いてきてたし喉も渇いてたので丁度いい。
「やったああっっ!!おれっ!でらうまなトコ知っとるもんで、そこのヤツ食べたいっっ!!!」
何とも元気なレッドくんに腕を引っ張られながらお団子屋さんに向かった。
___________________________________________________
レッドくんおすすめのお団子屋さんでみたらし団子を買って、小さな古墳のある公園のベンチに腰を落ち着けた。丁寧に包んである竹の皮をめくり、レッドくんにお団子を渡して自分も一本つかむ。
「いたーだきますっっっ!!」
『いただきます』
ひとくち齧ると名古屋特有(なのかな?)の醤油の香ばしいしょっぱい味が口の中いっぱいに広がる。
「でらうまああっっっ!!!」
『美味しい!』
口の周りに醤油タレをつけながらモリモリ食べるレッドくんを見てるのはとても楽しい。
「これねっっ!!名千にも買ってもらったことあるっ!!!」
『そうなんだ』
「あっっそうだっっっ!!!こないだはありがとうっっっ!!!」
レッドくんに突然頭を下げられてびっくりした。こないだって…「禍祓い」の時のことかな?
『あれは名千さんが頑張ってくれたからね。名千さん、すごいね』
「うんっっ!!名千、悪者やっつける時ビカビカーって光っとるしっっっ!!!パンチとかキックとかすごいんだっっっ!!!」
金の瞳をキラキラさせながら熱弁してくれるのが何とも微笑ましい。
『名千さんはお元気??』
「だいたい元気っっっ!!!」
『だいたい?』
「たまに“仕事がーーっ!!“って言っとる!!!」
…お忙しいのかな?
「時々“俺の五万円返せえーっっ!!“って叫んどる!!!」
…うん、パチかスロで負けたんだな。
「……あと」
ふと、元気いっぱいに答えてくれてたレッドくんの表情が曇った。
「円覚さんトコに行った時、なんか…なんか夜中に唸っとる」
『円覚さん??』
初めて聞く名前だ。
「えっとねっっ!でらハゲとるっ…じゃなかったっっ!!!て、テイハツ??しとる人!!」
『剃髪…龍導院のお坊さまかな??』
「そうっっっ!!この服買ってくれたっっ!!んで、たまにお菓子とかご飯とか食べさしてくれるっっっ!!」
……この人だ。
レッドくんの話を聞いてピンとくるものがあった。…ってことは。
『その“円覚さん“ってお坊さまが、名千さんに悪者退治を頼んでくるの?』
「ええっっっ!!!なんで知っとるのっっ??!!」
やっぱりそうか。この“円覚“ってお坊さまが「禍祓い」を取り仕切ってる人なんだ。お寺のサイトを運営してるのも多分この人なんだろう。…それから。
『名千さんが唸ってるって、なんか困ったりしてる感じ??』
「すぐ部屋に入ってまうもんで分かんないっっ!!…けど」
『けど??』
レッドくんがお団子を持った手をぎゅっと握って胸にあてる。
「それ聞くと、ここがすげー痛くなる」
一瞬、時が止まった気がした。
しゃらん。
くすんだ色の歪な形をした模様が、まわる。
_________________________________________________
「あっっっ!!!遅なってまったっっ!!名千が帰ってきとるかもしれんっっっ!!!」
慌てたようなレッドくんの声に驚いて時間を確認すると、けっこうな遅い時間になってしまっていた。
周りを見るとポツポツと街灯が灯り始めていて、人の行き来もまばらになっている。
『うわ、私も帰らんと!』
残ったみたらし団子を包み直してレッドくんに渡す。
『これ、良かったら名千さんと食べてね』
「いいのっっ!!??ありがとうっっっ!!!」
『あと、お願いしてもいい??』
買い物袋にお団子を入れて走っていこうとするレッドくんを引き止める。
「なに??」
『名千さんに、“連絡はどうしますか?“って伝えてくれる??たぶんこれで通じるから』
「わかったっっっ!!!……紫音さん、なんで笑っとるの???」
『ごめんごめん、レッドくんのことを笑っとる訳じゃないよ。名千さんによろしくね』
夕闇に溶けるように帰っていくレッドくんを見送って、再び白龍のところに戻った。
足元から立ち込める霧と、上から降り注ぐ龍の吐息のような霧に覆われて目を閉じる。
レッドくんに会えて話が聞けたのはとても良かったし、レッドくんが私の言葉を伝えたときの名千さんを想像して少し笑ってしまったけれど。
表に出るその姿が“陽“であるとするなら。
夜中に、レッドくんが胸を痛めるほどの嘆きを出してる姿は“陰“だ。
黒く、重い【孤独】を、深い深いところに沈めて抱えている。
わかってた。
美しく優しい籠は、儚く脆いって。
歳を重ねた今の名千さんもきっとわかってる。
幼い頃に言葉にできなかった“もやもや“が【孤独】というものだってことも。
その【孤独】は消えないってことも。
『ねえ紅音』
<なんだ>
私は、傲慢だ。
『名千さんの【孤独】が欲しい』
<……今度こそ戻れなくなるかもしれねーぞ>
『それでもいい。あ、でも連絡が来なきゃどうしようもできないけど』
こうなった時の私は絶対に折れないってことを知っている紅音が、ふううっと深いため息をつく。
<好きにしろ。見届けてやる>
『ふふ、ありがと。名千さんに拒絶されて龍の尾先から飛ばされちゃったら、“つかまえて“ね?』
<おう>
__________________________________________________
しゃらしゃら回る万華鏡。
綺羅綺羅と反射する蒼と銀、紫の光。様々な大きさに変わる、鮮やかな八角形の模様。
「いっしょにきれいなもようを見ようねっ」
うん。私もいっしょに見たいな。
あの時の、幼子との約束。
どうか、守れますように。
“陰“と“陽“の狭間。ほんの少しのきっかけで、どっちにでも傾いてしまう危ういところ。
しゃらん。
ゆっくりと目を開ける。霧のせいか、いつもより淡い光に包まれて揺らめいているように見える白龍に小さく手を振って、駅に向かって歩き出した。
1/1ページ
