龍と鬼の休息〜side名千・レッド〜(2/2)

仕事部屋にあるパソコンを立ち上げ、円覚からのメールを開く。三つほどファイルが添付されていた。今回の報酬明細と依頼者からのお礼メールは分かるが、もう一つは何だ??途中でブチ切ってまったもんで聞けんかったやつかな?…とりあえず順番に開けていくか。
報酬明細はさっきATMでチェックしたで軽く確認するだけでOKだな。次にメールを開く。
丁寧な挨拶文から始まり、近況報告と感謝の言葉が並んでいた。あれからちゃんとお嫁さんと話せたようだ。
寂しさが高じて嫁への憎しみに変わってしまったこと。それがぬいぐるみに乗り移って孫を傷つけてしまったけれど、お祓いをしてお焚き上げも頼んだこと。
【私のせいで“大切な子供が傷ついた“ときつく責められるのも覚悟の上でしたが、嫁も“忙しいのは自分のせいなのにお義母さんに責任転嫁していた。八つ当たりなんて大人げないことして本当にすみませんでした“って言ってくれたんです。“私の方こそごめんなさい“ってお互い譲らずに頭を下げ合って、何だかおかしくなって二人で笑ってしまいました。おかげで変なわだかまりも消えて素直な気持ちを伝えられ、和解することができました。あの女性がおっしゃった通りでした。孫の傷もすっかり良くなりました。この度は龍導院様にお力になっていただき、本当にありがとうございました。】
お礼のメールには和解を証明するような写真も添付されていた。
あれより二回りくらい小さい同じ犬種(お孫さんが好きなんだろう)のぬいぐるみを、満面の笑顔で抱えている可愛い男の子と、その子を膝に乗せて穏やかな笑顔の依頼者。そんな二人に寄り添って明るく笑っている女性。
何とも優しい雰囲気にこちらも自然と笑顔になる。だが、次の一文で真顔に戻ってしまった。
【ただ、あの化け物が言った“自分のものにならない孫は要らない“というのは、私の言葉では決してありません。本当に一瞬たりとも考えたことなど無いのに、なぜそんな言葉を吐かれたのか。それだけが不気味で怖いのです。】
…そうだった。紫音さんも「違う!」っと叫んでいたこの言葉。あのあとバタバタしてすっかり忘れとったが、何が違ったんだ??

メールを見ながらうーん…と唸っていると部屋の扉がばたーんっ!と勢いよく開き、リビングでアニメを観ていたはずのレッドが入ってきた。
「名千!!アニメ終わったっっ!!違うヤツ観たいっっ!!!」
「こら!仕事部屋には入ってきちゃかんていつも言っとるでしょ!」
「だって終わっちゃったんだもん!!…あ!!これこないだのばあちゃん??!でらイイ顔しとるじゃん!!」
パタパタと近寄ってきたレッドがパソコンを覗き込む。
「ちゃんとお嫁さんと仲直りできとったんだな!!良かったなああっっ!!」
ニコニコと写真を眺めている。無邪気だよなあ、ほんとに鬼か??…なんてことを考えながら仕事部屋を出て、リビングにあるテレビのリモコンを操作しアニメをセットする。ついでに胃薬と水を持って戻る。ちょっとモーニング食べ過ぎたかもしれん。
「違うアニメをセットしてきたで観てこやあよ」
「やったあっっ!!」
入ってきた時と同じように、パタパタと部屋を出ようとしたレッドがくるっと振り向いた。
「そういえばさあ!紫音さんって名千の友達なのっ??」
「ブフォオッッ!!ちょっっなっ?!は??!!」
急な問いかけに口に含んでいた胃薬を吹き出してしまう。水飲む前で良かった、パソコンが大惨事になるとこだった…。
「わあっ!きったねえっっ!!口からなに変なモン飛ばしとるんだアッ??!!」
「変なモンじゃなくて胃薬だわ。ティッシュくれティッシュ!っつーか、なんでそんなこと聞くんだ??」
キーボードの上に散らばった胃薬をかき集めながら、ティッシュボックスを持ってきたレッドに訊ねる。
「だって名千の名前呼んどったし、光っとったもん!」
………は???
「光っとった???」
「そう!!名千みたいにビカビカーッとはしとらんかったけど、ほわあってカンジで綺麗だった!!!」
アニメの方が気になり始めたのか、レッドはそれだけ言うとリビングへと走っていった。
「……マジか…俺には全く見えんかったぞ……」
どうしてだか、レッドには俺が時々ピカピカと光っとるように見えるらしい。そういう時は「法力が高まっているかもしれない」と円覚にも言われたが、自分では全く分からん状態なのだ。
「…まあ、自分が光っとるのも分からんなら、人様が光っとるなんて分かる訳ないか…」
自嘲気味になりながらティッシュに包んだ胃薬をゴミ箱に捨てる。胃薬を飲む気力も無くなったが、何とか気を取り直して最後のファイルを開く。それは、“名千の禍祓いグッズが売れたから、一緒に入れるお礼のメッセージカードを書け“という円覚からの依頼メールだった。
俺のグッズを欲しがるなんて変わった人もおるなあと、注文者の名前を見る。…二度見した。
「……マジっすか……」
なぜか敬語で呟いてしまった。
視線の先にある名前は

   “紫音“。

しばらく呆然としていたが、あることに気づいた。
そうか!!これで円覚さんにも状況が説明できる!!
こうして俺はカードに全然お礼じゃないメッセージを書き始めたのだった。

                      【終】
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