雑記
トリュフチョコレート作りをする幼稚園児バツ配
2024/03/26 04:25pixivにはバレンタイン4種とホワイトデー2種の詰め合わせを投稿予定。モチベーションアップに幼稚園児ver.だけ先に載せます。
【幼稚園児なバツ配がトリュフチョコレートを作る話】
2月のある日、ビクターがガンジと園庭で砂遊びをしているとふいにチョコレートの香りが漂ってきた。ガンジは鼻をひくひくさせるとあっと声をあげて興奮ぎみに喋りだした。
「ビクター、チョコレートのおだんご作ったことあるか?」
「ううん、ないよ」
「おれ、この前お店にあるの見た。『とりふ』ってお名前バッジついてた。はな組さんだった」
「こんど一緒に作ろ? おれ、おかーさんにお願いしとく!」
「うん」
そして、休日の午前11時。
「おかーさんっ! おてて洗った!」
エプロン姿で母親に向かって掌を出すガンジにならってビクターも洗った両手を前に出した。よくできましたと言われキッチンへ促されると、ボウルや泡立て器の並んだ調理台と踏み台に二人してきゃあっと声をあげた。
「ゆっくりー……ゆっくりー……できたー!」
「できたー。ガンジ君やったぁー」
ビクターが計量カップを支えて目盛りを指し、ガンジが声を出しながら生クリームを注ぐ。控えめに注がれた生クリームは子どもの手でもビクターの指の位置を越えることなく計量できた。次の指示が出たので二人一緒にチョコレートのボウルを持ち湯煎用のボウルに入れる。お風呂?お舟?と言いながら重なったボウルをしげしげ眺めているとチョコレートがゆっくり溶けだしたのでまた二人できゃあきゃあと歓声をあげた。
今度はガンジが器を支える番。ビクターが計った生クリームをチョコレートのボウルに注いで細身の泡立て器でゆっくり混ぜる。10回ずつの約束通り、じゅう、と数え終わるといそいそとガンジと代わった。
「いーち、にーい、さーん……」
「……きゅーぅ、じゅー!」
混ぜ終わった生クリームを冷やす時間のうちに昼食を食べる。ビクターの母親が持ってきたおかずとガンジの母が作ったパンを前に、二人は興奮がさめる気配がなかった。ガンジは大きくて強い、王様のトリュフチョコレートを作るのだとビクターに野望を語っている。ガンジがあまりにも楽しそうなので、ビクターも仕上がりが楽しみだった。
一つ分のお手本を眺めて確認するや否や、ガンジは一口サイズになるよう格子に切り分けられたチョコレート片を何個も小さな手いっぱいに取って丸めだした。だが、大きくて扱い難いのがわかったのか表情が曇りだした。母親が小さく分けてやろうと声をかけるが首を横に振る。
「だって……おっきいの……強いおうさま……」
泣くまいと堪えながら、けれど、チョコレートを持て余しているガンジに向かってビクターは咄嗟に声をかけた。
「ガンジ君ちょっと待ってて!」
「はい! ぼく、お手伝いする!」
おっとりとした喋り方をするビクターにしてはずいぶんとハキハキと言い切り、丸めていたトリュフチョコレートを仕上げて皿に置くと、両手をお椀のようにしてガンジの方へと差し出した。ビクター自身も『大きくて強い王様のトリュフチョコレート』を諦めたくなかったからだ。園児の小さな手でも、片手と両手では変わる。ビクターの両手にガンジの両手を被せるようにしてチョコレートを丸め、皿に置くと二人で今日一番の歓声をあげた。
チョコレート作りの数日後、ビクターが母親と買い物に出掛けた際にふとチョコレートの香りがしたので視線を向けた。バレンタイン商品を並べた棚のうち、花形のカードにトリュフチョコレートと記されたものをビクターは見つけた。
――ガンジ君の言ってた、はな組さんのトリュフの子だ。
――頑張って、大きく、強くなってね。
ビクターは声に出さずにトリュフチョコレートに語りかけると、小さく手を振って視線を外した。あの日、最後には食べ難いからと砕いたのだが、二人で作った大きなトリュフチョコレートはココアパウダーを纏って王の貫禄たっぷりで達成感をこれでもかと与えてくれたからだった。
fin.
【幼稚園児なバツ配がトリュフチョコレートを作る話】
2月のある日、ビクターがガンジと園庭で砂遊びをしているとふいにチョコレートの香りが漂ってきた。ガンジは鼻をひくひくさせるとあっと声をあげて興奮ぎみに喋りだした。
「ビクター、チョコレートのおだんご作ったことあるか?」
「ううん、ないよ」
「おれ、この前お店にあるの見た。『とりふ』ってお名前バッジついてた。はな組さんだった」
「こんど一緒に作ろ? おれ、おかーさんにお願いしとく!」
「うん」
そして、休日の午前11時。
「おかーさんっ! おてて洗った!」
エプロン姿で母親に向かって掌を出すガンジにならってビクターも洗った両手を前に出した。よくできましたと言われキッチンへ促されると、ボウルや泡立て器の並んだ調理台と踏み台に二人してきゃあっと声をあげた。
「ゆっくりー……ゆっくりー……できたー!」
「できたー。ガンジ君やったぁー」
ビクターが計量カップを支えて目盛りを指し、ガンジが声を出しながら生クリームを注ぐ。控えめに注がれた生クリームは子どもの手でもビクターの指の位置を越えることなく計量できた。次の指示が出たので二人一緒にチョコレートのボウルを持ち湯煎用のボウルに入れる。お風呂?お舟?と言いながら重なったボウルをしげしげ眺めているとチョコレートがゆっくり溶けだしたのでまた二人できゃあきゃあと歓声をあげた。
今度はガンジが器を支える番。ビクターが計った生クリームをチョコレートのボウルに注いで細身の泡立て器でゆっくり混ぜる。10回ずつの約束通り、じゅう、と数え終わるといそいそとガンジと代わった。
「いーち、にーい、さーん……」
「……きゅーぅ、じゅー!」
混ぜ終わった生クリームを冷やす時間のうちに昼食を食べる。ビクターの母親が持ってきたおかずとガンジの母が作ったパンを前に、二人は興奮がさめる気配がなかった。ガンジは大きくて強い、王様のトリュフチョコレートを作るのだとビクターに野望を語っている。ガンジがあまりにも楽しそうなので、ビクターも仕上がりが楽しみだった。
一つ分のお手本を眺めて確認するや否や、ガンジは一口サイズになるよう格子に切り分けられたチョコレート片を何個も小さな手いっぱいに取って丸めだした。だが、大きくて扱い難いのがわかったのか表情が曇りだした。母親が小さく分けてやろうと声をかけるが首を横に振る。
「だって……おっきいの……強いおうさま……」
泣くまいと堪えながら、けれど、チョコレートを持て余しているガンジに向かってビクターは咄嗟に声をかけた。
「ガンジ君ちょっと待ってて!」
「はい! ぼく、お手伝いする!」
おっとりとした喋り方をするビクターにしてはずいぶんとハキハキと言い切り、丸めていたトリュフチョコレートを仕上げて皿に置くと、両手をお椀のようにしてガンジの方へと差し出した。ビクター自身も『大きくて強い王様のトリュフチョコレート』を諦めたくなかったからだ。園児の小さな手でも、片手と両手では変わる。ビクターの両手にガンジの両手を被せるようにしてチョコレートを丸め、皿に置くと二人で今日一番の歓声をあげた。
チョコレート作りの数日後、ビクターが母親と買い物に出掛けた際にふとチョコレートの香りがしたので視線を向けた。バレンタイン商品を並べた棚のうち、花形のカードにトリュフチョコレートと記されたものをビクターは見つけた。
――ガンジ君の言ってた、はな組さんのトリュフの子だ。
――頑張って、大きく、強くなってね。
ビクターは声に出さずにトリュフチョコレートに語りかけると、小さく手を振って視線を外した。あの日、最後には食べ難いからと砕いたのだが、二人で作った大きなトリュフチョコレートはココアパウダーを纏って王の貫禄たっぷりで達成感をこれでもかと与えてくれたからだった。
fin.