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雑記

ハロウィン小ネタ(首席顧問と会話禁止組)

2023/11/09 01:33
「…………ポストマン。君のその振る舞いは利敵行為にあたる。十数える猶予を与えるからはやく離れるように」

 新しい衣装でゲームに参加した隠者アルヴァ・ロレンツは困惑を顔に浮かべたままそう告げた。最初に出くわしたサバイバーのポストマンは、ハンターの影を認識すると駆け足で逃げつつ時間稼ぎに供に連れた配達犬をけしかけた。ハンターの動きを見ながら指示を出し、しかしそこでピタリと動きを止め、配達犬がじゃれついて歩行速度が遅くなったアルヴァのもとへ近寄ってきた。幼子のように頬を上気させ目を輝かせて見上げてくる。

「……何を考えている?我々ハンターは、君達サバイバーを狩るのが役目だ。ハンターを模した装いで媚を売ったとして、こちらが聞き入れる謂れはない。この猶予で逃げぬのなら、好機としてそのままロケットチェアで荘園へと送らせてもらおう」

 ……何だこれは。アルヴァは眉と口角を下げてポストマンことビクターを見下ろした。サバイバーとハンターでは体格に大きな差がある。ビクターは首を痛めそうなほどに上を向き、興奮した様子でピョコピョコ背伸びをしている。ああ、やりにくい。アルヴァは内心で大きな溜め息をつくと先日のアンとのやり取りを思い出した。

 ――アルヴァ様聞いてくださいな。私、この前どうしても堪えきれずに利敵を……優鬼してしまったんです。
 ――新しく上等な衣装をいただいたでしょう?あの『ウルタールの来客』です。せっかくだからと着てゲームに出てすぐ、攻撃を失敗してしまって。
 ――相手はビクターさんでした。威嚇による麻痺が収まったあと、同意の身ぶりをしながらこちらへ寄ってきたんです。侮られたのかと思ったら子猫のような綺麗な眼差しで……その愛くるしさに抗えませんでした……。

「……ポストマン」
 呼んでもやはりゲーム中であることは頭から抜け落ちているようだ。もうひとつ気配を感じて視線を向けるとバッツマン、ガンジが構えた状態でじりじりと距離を詰めながら様子を伺っていた。ボールを当てるタイミングではなく、優鬼かどうかを、だ。役目の放棄だなんて冗談じゃない。目を輝かせ、好奇心と興奮にに頬を染めて見上げてくる姿をしばらく睨み付け……きれなかった。
 ハンターの年齢は複雑だが、アルヴァが生まれた年から経過した年数は成人した子がいてもおかしくはない。すっかり父性が湧きあがってしまい目線を合わせるようにしゃがんだ。          
その瞬間、わっと気色ばんで息をのんだビクターが抱きついて頬擦りする。今さら殴れないアルヴァは小さい背に腕を回してよしよしと撫でた。
 ガコンと音を立てて2ヶ所の暗号機がほぼ同時に灯りをつけた。バットを構えるのをやめたガンジがすぐ近くまで来ていたので表情だけはハンターらしくとしながらアルヴァは顔だけで振り向いた。
 ……可愛らしい。そんな形容詞がアルヴァに浮かんだ。いくらガンジが逞しい体つきだろうが、ハンターには鳩尾ほどの背丈でしかない。初めての真髄で一緒になったときは作業服姿だったガンジは、今はドーナツ柄の衣装を着ている。グローブはミトン型になっていて手が丸い。
 少しの間じっとアルヴァを眺めたガンジはそのまま暗号機の解読に取りかかることにした。そうしている間に残りの二人も合流してきた。イソップはフェニックス衣装でアニーはペーパーウィング衣装だ。ハロウィンをテーマにして衣装を合わせチームを組んだらしい。
「…………頑張って解読しなさい。ポストマン、君もだ。ほら、頑張ったら耳を触らせてあげるから」
 アルヴァは最早『近所の子ども達の面倒をみるおじさん』気分だった。暗号機になけなしのスタンプを貼りビクターの背中を押す。ガンジとアニーの解読している暗号機の空いたスペースに収まり解読を始めるがどうにもソワソワしてこちらを見てくるのでアルヴァは小さく苦笑いをした。
 そして、壁沿いの暗号機でもないのに解読に参加しようとしなかったイソップは、近くの板を次々倒すとスタンプを貼っていた。ハンターが板を壊すのを見るためかと思ったがそうではないらしく何かを探すようにキョロキョロと首を左右に回している。そういえば納棺師は誰かと一緒に解読すると時間がかかってしまうのだったかと思い当たったアルヴァは、3人で解読している暗号機を一番近くの暗号機と繋いでやった。
「あそこにしなさい」
 そう言うと、イソップはペコリと小さくお辞儀をして暗号機へと駆けていった。

 ガンジが始めに解読していた暗号機を最後の1台として終わらせると、ビクターだけがアルヴァに寄ってきて残りの3人は散り散りに駆け出してロケットチェアの前で踞った。ヴィオレッタに聞いたことがある『飛ばされたがり』か。

「私はあと10秒したら投降するつもりだ。だが、君達がゲートを開放して自身の足で脱出するというのなら、後ろで観察でもしようか」

 それを聞いて3人はしぶしぶ立ち上がった。皆を巻き込んだのだから君が開けなさいとビクターの頭を撫でて言うと、ビクターも遂に希望の手紙を手に駆け出した。最後はチラチラと振り返りながらゆっくり出ていく4人の姿をアルヴァはゲート口に立ち見送った。


「あの……アルヴァ様……」
 アルヴァが荘園に戻るとゲームの状況を見ていたらしいアンがおずおずと声をかけてきた。アルヴァは無言で頷いたあとベインとヴィオレッタも誘って4人で茶を飲んだ。話題は言わずもがなだった。

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