その少女は最期に何を見たか
「そんな所で何している」
男は木に寄りかかって倒れている少女に声をかけた。少女は気だるそうに男を視認し口を開く。
「何もしてないわ。ただここにいるだけよ」
男は首を傾げた。いくら子供であるとはいえ、ここまで体調が酷くなるまで遊び呆けているだろうか。
「そんな木に寄りかかって何が楽しいか」
男はまた少女に聞いた。そして少女は顔を上げ男を直視した。
「楽しいわけがないでしょう。私だって好きでここにいるわけじゃない」
男は少女の瞳を見て若干の嫌悪を示した。少女の瞳は視点が合っておらず、ギョロリとした瞳をしていた。
「…」
少女は顔を下げ、目を閉じた。しかし何かを思いつき再び男に目を向けた。
「貴方も捨てられたの?」
「捨てられた、と?」
男は単語を繰り返した。
「この山はね、コズテ山っていうのよ」
「コズテ山、と」
木々が茂り動物が生きる素晴らしいこの山はコズテ山というのか、と男は記憶する。
「嫌われた人やいらなくなった子がこの山に捨てられるのよ」
「ほう」
少女曰く、このコズテ山とやらは死人の山でもあるらしいのだ。少女が来る前にも何度も病人や年寄り、呪い子とよばれる子供等がこの山に捨てられたという。
「なるほど。その人間達の血肉がここコズテ山とやらの養分となりて成長させてきたと」
感心したように頷く男に少女は不信感を抱いた。まるで人が死んだことを何とも思ってないような軽々しさを感じたのだ。
「我は神である。自然の神と皆からは呼ばれている」
「…へえ」
少女は余計に不信感を抱き、下を向いた。
「神であるから、我は誰からも捨てられることはない。そなたのような人間とは違うのだ」
春風のような優しい声であったが、それ以上に意味のわからない言葉を話され少女は最早聞く気にすらならなくなっていた。
「そうなの。貴方も熱でやられてるのね」
「酷いことを言うもんだ」
男はカラカラと笑った。
少女はぐったりとした。額には汗が湧き出ており腕は小さく震えている。疲労が溜まっているらしく、その場から動く気力すらないらしい。
男はしばらく少女を眺めていたが、やがて少女から笑いが聞こえた。とても不貞腐れたような、嫌な笑い方であった。
「……神である貴方がそんなもんじゃ、そりゃあ神は私達人間を助けてはくれないわけね」
「なんだ。そんなに我が神らしくないか」
「そうじゃないわよ。神という存在が皆貴方みたいな存在だとしたら、私達人間を助けることは少ないでしょうねってこと」
吹っ切れたようにきいきいと笑い始める少女。
「私という人間が苦しんでるのに、そんな姿を目の前にして哀れむどころか平然と笑うなんて。神は人間を救済などしないのね」
「そうだな。さっき我は確かに笑ったな。それにそなたは助けてほしいなんて一度も言わなかったではないか」
「言わなくても普通状況や見た目でわかるものよ。私の様子が変だ、って」
「そうか」
「そうよ」
そこまで話しきって、少女はついにくたびれ木に寄りかかりため息を付いた。
「でも、死ぬ前に貴方みたいな神に出会ってよかったわ」
この神からしたら、ただ人間一人の死など些細なことであった。
男は少女の元を立ち去ろうとした寸前、少女にそう言われ思わず立ち止まる。
「最期に神に会えるなんて思わなかったし、神に助けを乞うなんていう手段に意味がなさそうなのも分かったから」
「ほう、随分とひどい決めつけだな。我以外の神が助けに降りるかもしれないのに」
「……どうせ死ぬからもう意味無いの」
少女は力なく笑った。唇は震え、目を閉じている。
男は少女を視界から外し、山の奥へ歩み出す。植物や動物を見物し見守る為に。神は、少なくともこの男は一人の人間の最期に興味は無いのだ。
神と名乗った男が山の奥に消えていく姿を、少女は見ることはなかった。目を閉じていたからだ。
日はやがて落ち、宵闇が訪れた。
これから暗くなれば、少し温度は下がるだろう。しかし少女は燃えていた。
少女はさらに衰弱し、目を閉じ眠り続けた。お腹が鳴っても動かず、遠くに動物の目が見えても彼女は動かなかった。否、もうそれらは見えていなかった。
少女は最期に何も見ること無く、山の養分となっていくのだ。それは微生物による分解か、動物による分解か。
山には誰も来ない。来るとしても助けの手ではないだろう。
そしてやはり、少女に対し助けの手は来なかった。
男は木に寄りかかって倒れている少女に声をかけた。少女は気だるそうに男を視認し口を開く。
「何もしてないわ。ただここにいるだけよ」
男は首を傾げた。いくら子供であるとはいえ、ここまで体調が酷くなるまで遊び呆けているだろうか。
「そんな木に寄りかかって何が楽しいか」
男はまた少女に聞いた。そして少女は顔を上げ男を直視した。
「楽しいわけがないでしょう。私だって好きでここにいるわけじゃない」
男は少女の瞳を見て若干の嫌悪を示した。少女の瞳は視点が合っておらず、ギョロリとした瞳をしていた。
「…」
少女は顔を下げ、目を閉じた。しかし何かを思いつき再び男に目を向けた。
「貴方も捨てられたの?」
「捨てられた、と?」
男は単語を繰り返した。
「この山はね、コズテ山っていうのよ」
「コズテ山、と」
木々が茂り動物が生きる素晴らしいこの山はコズテ山というのか、と男は記憶する。
「嫌われた人やいらなくなった子がこの山に捨てられるのよ」
「ほう」
少女曰く、このコズテ山とやらは死人の山でもあるらしいのだ。少女が来る前にも何度も病人や年寄り、呪い子とよばれる子供等がこの山に捨てられたという。
「なるほど。その人間達の血肉がここコズテ山とやらの養分となりて成長させてきたと」
感心したように頷く男に少女は不信感を抱いた。まるで人が死んだことを何とも思ってないような軽々しさを感じたのだ。
「我は神である。自然の神と皆からは呼ばれている」
「…へえ」
少女は余計に不信感を抱き、下を向いた。
「神であるから、我は誰からも捨てられることはない。そなたのような人間とは違うのだ」
春風のような優しい声であったが、それ以上に意味のわからない言葉を話され少女は最早聞く気にすらならなくなっていた。
「そうなの。貴方も熱でやられてるのね」
「酷いことを言うもんだ」
男はカラカラと笑った。
少女はぐったりとした。額には汗が湧き出ており腕は小さく震えている。疲労が溜まっているらしく、その場から動く気力すらないらしい。
男はしばらく少女を眺めていたが、やがて少女から笑いが聞こえた。とても不貞腐れたような、嫌な笑い方であった。
「……神である貴方がそんなもんじゃ、そりゃあ神は私達人間を助けてはくれないわけね」
「なんだ。そんなに我が神らしくないか」
「そうじゃないわよ。神という存在が皆貴方みたいな存在だとしたら、私達人間を助けることは少ないでしょうねってこと」
吹っ切れたようにきいきいと笑い始める少女。
「私という人間が苦しんでるのに、そんな姿を目の前にして哀れむどころか平然と笑うなんて。神は人間を救済などしないのね」
「そうだな。さっき我は確かに笑ったな。それにそなたは助けてほしいなんて一度も言わなかったではないか」
「言わなくても普通状況や見た目でわかるものよ。私の様子が変だ、って」
「そうか」
「そうよ」
そこまで話しきって、少女はついにくたびれ木に寄りかかりため息を付いた。
「でも、死ぬ前に貴方みたいな神に出会ってよかったわ」
この神からしたら、ただ人間一人の死など些細なことであった。
男は少女の元を立ち去ろうとした寸前、少女にそう言われ思わず立ち止まる。
「最期に神に会えるなんて思わなかったし、神に助けを乞うなんていう手段に意味がなさそうなのも分かったから」
「ほう、随分とひどい決めつけだな。我以外の神が助けに降りるかもしれないのに」
「……どうせ死ぬからもう意味無いの」
少女は力なく笑った。唇は震え、目を閉じている。
男は少女を視界から外し、山の奥へ歩み出す。植物や動物を見物し見守る為に。神は、少なくともこの男は一人の人間の最期に興味は無いのだ。
神と名乗った男が山の奥に消えていく姿を、少女は見ることはなかった。目を閉じていたからだ。
日はやがて落ち、宵闇が訪れた。
これから暗くなれば、少し温度は下がるだろう。しかし少女は燃えていた。
少女はさらに衰弱し、目を閉じ眠り続けた。お腹が鳴っても動かず、遠くに動物の目が見えても彼女は動かなかった。否、もうそれらは見えていなかった。
少女は最期に何も見ること無く、山の養分となっていくのだ。それは微生物による分解か、動物による分解か。
山には誰も来ない。来るとしても助けの手ではないだろう。
そしてやはり、少女に対し助けの手は来なかった。
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