第六章 カーテンコール

『マルギット、ノア、キャット。諦めろ。マシェリの全権限は、既にこちらに戻ってきた。お前たちのしていることは無意味だ。
 大人しく、己らの滅びの運命を受け入れ、ルカに協力するのをやめろ』

僅かにノイズパターンの入り始めた画面の向こうから、大師がそう言っていくる。が、マルギットは無視して、マシェリの発射装置を取り出そうと四苦八苦するのをやめない。大師が更に苛立ちを募らせていくのを見たノアとキャットは、彼に対して、口を開く。

「そっちから用済みだって切り捨てたくせに、今更、上司ぶって命令しないでよ!マルギットが諦めないなら、オレたちだって諦めるつもりないし!」
「そんなのルカが気になるのなら、お前が手ずから相手をしてやったらどうだ?画面の向こうからしかモノを言えない、全身皺だらけの老体め」

ノアとキャットが口汚いのは、彼らの出身が由来しているものであるが、到底、いっぱしの大人が使う台詞でもなかった。しかし、今はその粗暴さが、マルギットにとっては何よりの心の支えになる。二人が居るから、幸福劇場の特務将軍を拝命した。二人の未来が明るくなって欲しかったから、マルチバースを経て、この地までやってきた。―――だが、現実はコレだ。大師にとって、マルギットたちは捨て駒でしかなく、彼はこの三人を踏み台した挙句、大師自身を神格化・正当化して、この地の蹂躙しようとしている。

このような侵略行為のために、幸福劇場は設立されたわけではない。否、最初から全て、大師が企てた悪事の一端でしかない組織だったと言われれば、そうである。だが、違う。そうじゃない。最早、そういう問題ではないのだ。
マルギットが高速でコマンドを打ち込みながら、大師へと声を上げる。

「我ら、劇場型幸福舞台演出隊列とは―――『幸福劇場』とは、もう、貴方一人が好き勝手に出来る駒の名前ではないのです!
 貴方が無情に捨て去った幸福劇場たる我々は、もう貴方の言葉に耳を貸すつもりはありません!
 故に、今度は我々が無情となり、貴方へ抗う時なのです!!」

マルギットがそう言った瞬間、ずっとエラーメッセージを吐き出し続けていた画面が、突如、正常を示す青色に転じた。署名欄が現れると同時に、無機質なAI音声が響く。


――『マシェリ発射装置、開放。将軍の号令の後、即時発射します』


発射装置が出てきた!全ての権限を奪われたマシェリが、再び、マルギットの手元へと返ってきた!―――だが、どうして?
マルギットは確かに、マシェリを取り返そうとアレコレと試していた。万策尽きかけていた。もうこれが最後のチャンスと、覚えていた限りのコマンドを打ち込み尽くしていた。それが、叶った―――?

『な、なんだ!?お前たち?!ぶ、無礼者め!入るな!下がれ下がれ!!』

突然、大師が酷く慌てふためいた声を出し、座っていたであろう椅子から飛びのいて、画面から消える。その代わりとばかりに、そこに映り込んだ人影が―――!

『トルバドール・セキュリティーだ!大師なる男を確保!』

―――輝であった。剣状態の雷翅の刃先を、床に向けているあたり、その辺に大師が転がっているのだろう。ばたばた!と何かが動く音が聞こえるが、それはきっと、トルバドール・セキュリティーの警備員たちに抑えつけられた大師が、老体に鞭打って虚しい抵抗をしているだけに過ぎないことを示唆している。

『よし、そのまま拘束状態を維持!至急、ヒルカリオ警察保安部へ連行する!』

輝が指示を飛ばし、警備員たちが大師の身体を無理矢理と起こす。離せ!触るな!と喚く老人の声が反響するなか、―――突如、しなやかな女性の声が、割り込む。

『その必要はない、次期社長候補くん。
 ボクがヒルカリオ警察保安部の指揮官として、その容疑者の身柄を、この場でを引き取ろう』

その言葉を聞いた輝が、己の背後を振り向くのと同じくして、画面内に声の持ち主である女性が、入り込んできた。
アメトリンを思わせる、特殊なカラーリングの髪の毛。何処となく威厳を振り撒く、長いコートの裾をはためかせた女性は、真っ直ぐに大師へと歩み寄り、一瞥した後。すぐに、その視線を輝へと移し替えた。

『安心したまえ。我々、警察保安部は、ヒルカリオの治安維持と、市民たちの生活の保全を第一としている。それらを脅かしている彼については、―――ボクたちは、一切合切の容赦をしないことを、約束するよ。
 ああ。勿論、手柄を横取りしたり、ましてや独り占めするつもりはないさ。むしろ、分け前を貰うのは、ボクたちの方だからね。
 それでも、今回の容疑者の拠点を、このヒルカリオ内から探し出し、容疑者を此処まで追い詰めてくれた、きみたちへのお礼は、…後ほど、ボクが手ずから、トルバドール・セキュリティー本社へ贈ろうと思っている。これからカタログを捲るのが楽しみだよ。贈り物は選んでいる時間が、一番、楽しい。そう思わないか?』

女性の台詞は長尺で、輝は少し混乱しているようにも見える。だが、他でもない女性自身が、それに気が付き、「ああ、いけない」と話題のレールを元に戻す。

『…おっと、話が逸れてしまった。すまない。…さて、哀れな容疑者を連れて行ってあげるとしようか。
 何もそこまで怯えなくても、大丈夫だ。牢内は日々掃除を欠かしていないから綺麗だし、俗にいう臭い飯だって、我々は配膳したりはしない。正直に、自分の罪を白状してさえくれれば…』

女性はそこまで言うと、画面の向こう、―――つまり、マルギットたちの方を見て、微笑む。そして、口を開いた。

『幸福劇場の皆さん。此処まで、ご苦労様。そちらの現場を片付け終えたら、是非、ヒルカリオ警察保安部まで出頭してくれたまえ。
 きみたちは我が国の現法上、一旦は逮捕される扱いになってしまうが、…ルカ三級高等幹部の気が変わらなければ、きみたち幸福劇場は、ボクたち警察保安部の預かりになった後、―――この地での安住を約束されている。…以上だ。長々と失礼したね。では、ボクは帰るよ。また会おう。

 ―――…ん?なんだ?容疑者が放心状態?…引き摺って行け。彼の脳と口さえ動いてくれれば、証言が取れる。今回のボクたちの仕事は、それで良いんだ』

用件を終えた女性はフェードアウトしていくが、その寸前に、何か生々しいやり取りを残していく。

そして、その場に残された輝と、上手く画面外に待機していたらしい矢槻が、画面内へと映り込んできた。通信が切れかかっているらしく、ノイズパターンが酷くなってきている。それを察知している輝が、マルギットたちへ現状の情報を渡し始めた。

『あの容疑者は―――…大師は、あなたたちを我が国へと送り込んできた直後、自らもヒルカリオに乗り込み、この部屋を拠点とし、幸福劇場の働きを間近で見ていたようです。
 …見事に騙されましたよ。此処は、経済特区と言えるヒルカリオ内で、一番、レートの低いアパートの一室です。下手な高級ホテルなら、言いなりになっていた頃の紫雨首相に協力を打診すれば、いくらでも用意して貰えたでしょうが…、あの男は、最後まで他人を信じなかったんです。だから敢えて、老いた身体をアパートの大家に見せつけ、直談判をし、住むための契約をもぎ取ったのでしょう。
 不審に思った大家のタレコミがなければ、俺たちだって、この部屋を気に留めることはなかったと思えます。
 …とはいえ、この場所が割れた決定打は、大師がペルシのアカウントを持っていたことですね。あのSNSは確かに『完全匿名性』と『IPアドレス非公開』を謳っていましたが、……そのIPアドレスの保管サーバーの設置場所は、弊社(ウチ)だったので…』

輝がそこまで言うと、矢槻が片手に持った、硬質カードをひらひらと振る。ペルシ内のIPアドレスの保管サーバー専用のアクセスカードだ。トルバドール・セキュリティーに保管サーバーの設置を命じた幸福劇場が、保険や交換条件と銘打って渡したモノ。…だがそれも、全ては、大師の筋書きの上だったはず。ということは、大師は自ら敷いたルールの中で、勝手に自滅していったということだ。『策士策に溺れる』…というのは、正しく、このことだろう。

―――…何ともお粗末な結果だ。

輝が続ける。

『大師の身柄の拘束と、初動の取り調べは、一旦、ヒルカリオ警察保安部に任せましょう。…どうせ、情報レベルが一定に達すれば、捜査の権限は、ルカ三級高等幹部へ移行します。
 敢えて言及しますが、ヒルカリオ警察保安部は、所詮、本土の警視庁の傘下組織ですので…。どのみち、エミリエ教官…、先ほどの女性指揮官が持つ権力の範囲だけでは、今回の事案の全項目を鎮火することは不可能です。幸福劇場を通して、大師が出した被害は、ヒルカリオだけでは済ませられないのですから…』

輝は自分でも言いながら、呆れ返っているようだ。ただし、その呆れの感情が向いているのは自分ではなく、ましてや、乱入してきたヒルカリオ警察保安部の女性指揮官―――エミリエ教官、と呼ばれているらしい―――でもない。……全ての矢印は、もう連行済みの大師へと突き刺さっていた。
そうこうしているうちに、輝が映り込む画面のノイズパターンは益々激しくなる。ハッと我に返った輝が、最後まで伝えるべきことを伝えるためにと、続けた。

『すみません。通信回路が壊れそうなので、この辺で失礼します。…おそらく、この通信回路が壊れると、割かれていたリソースがそちらに戻り、ルカ三級高等幹部が相手をしている大型兵器が、更に活発化するでしょう。ですが、それはプロバイダーを共有しているマシェリも同じ条件であるはず。…兵器とは、そういうモノです。
 では、ご武運をお祈りします』

その台詞の終わりと共に、輝の声と、彼と矢槻が映っていたホログラム画面が、完全に消失した。回線が壊れてしまったようだ。

……そして、輝が残した予測通り。閉じかけのワームホールから、顔だけを覗かせていた、あの異形の大影が、巨悪な咆哮を上げる。活発化の兆候と言えば、それらしい動きだ。次いで、それの対処していたルカが、一旦、距離を取るためか、地面へと帰る選択肢を取っているのが見える。…というか、今の今まで、それらしいユニットも身に付けず、空中戦を繰り広げていたのか、あの男(ルカ)は…。と、誰もが思った。

「あらら、イイコで寝てた赤ちゃんが起きちゃった~って感じ。でも、レイジが赤ちゃんのときって、こんな気持ちだったっけなあ?
 まあ、少なくとも、アレのように「さっさと壊さないと危ない」なんて思ったコトはないんだろうねえ。そういうログは残ってないからさあ」

ルカが『デカい独り言』を喋ってしまったおかげで、たまたま近くで戦っていたがために、その内容が耳に入ってきてしまったソラは、げんなりとする。ルカがレイジの育ての親であることは、百も承知の事実ではあるものの、……人間の赤子と、あのような異形極まる大型兵器を、同じ土俵で比べないで欲しい。

はあぁーーー、という大きな溜め息を吐いてしまったソラではあるが、その手に握られたアストライアーは、敵の素っ首を綺麗に跳ね飛ばす。相手の造形が、あくまで抽象的な玩具であるから、センシティブ判定を受けないだけで、やっていることは立派な戦争だ。

「あれ?ソラってば、疲れちゃったの?お水でも飲んでくれば?」
「…そんな暇があるように見えるなら、お前はKALASに再収容されるべきだ。中途半端な調整だけで世に放たれて良い存在ではないことを自覚しろ、ルカ」

ルカが茶化して、ソラにジョークを送る。が、物理的にも精神的にも遥か高みにあるはずのルカのことを、ソラは不機嫌丸出しの視線で、ぎろり、と睨みつけた。それを受けたルカが、笑う。

「随分とご機嫌ナナメじゃない?この仕事が終わったら、俺の専属秘書官には、疲れを癒す休養期間をあげないといけないみたいだね~」

これは、高給取りの明細表に対して、更に手当てを上乗せするより、休暇をあげる方が手っ取り早いと判断したがための、ルカの発言であった。が、二千年に一人の天才児は、此処に至るまでに受けたストレスと疲労が限界値に達していたせいで、とうとう直属の上司にして、史上最強の軍事兵器、そして今回のソラのストレスの発生源といっても差し支えのない存在となったルカに向かって、直接、文句を叩きつけ始める。

「んなもんいらん!さっさとこの場を片付けろ!そもそも戦場はお前の仕事だ、ドアホ!なんでお前みたいな人間社会不適合レベルカンストが三級高等幹部なんて名乗れるんだ!?弊社のシステムおかしい!!なんかおかしい!!ああああ!!邪魔だ邪魔だ!!お前たちなんぞ来なければーーッ!!」

ソラはそう叫び散らかしながら、アストライアーを振り回し、囲もうとしてきた玩具の兵士たちの胴体を、纏めて真っ二つに斬り捨てた。そして、その光景を見たルカは、流石に『空気を読む』ことにする。

「うわあ…。罵詈雑言の嵐に加えて、今年最も鋭利なdisが記録更新されてるっぽーい…。これ以上は面倒臭くなるから、さっさと片付けよー…」

怒りのリミッターが外れてしまい、罵詈雑言と怒声とが入り混じった、かろうじて人語の範疇である言葉を、ヒステリックに喚きながらも、適切に敵兵を薙ぎ倒していくソラを尻目に。ルカはとうとう本領を発揮する。

ソラが斬り捨ててしまい、ただの壊れた玩具の断片となったそれらに、ルカは掌を当てていき、同調変換を発動した。途端、彼の掌に触れた物質の分析と破壊、そして全くの別物への再構築が始まる。人間の視力で追えないほどの速度で、ルカの手元に武器が創造された。

ルカの両腕に装着された大型のキャノン砲が二門。…見たことのある造形だ。マム・システム討伐の際に使われた、『バルカンアロー』で間違いない。だが、表面のディテールが微妙に更新されているのが分かる。それは内部構造と、バルカンアローそのものの威力も、大幅に改良されていることを示唆していた。
戦場という仕事場で、いよいよ本気を出したルカが、天を見上げ、尚も咆哮を飛ばす大型兵器に対して、最後の布告を出す。

「さあ、そろそろ幕引きだよ、可愛い可愛い玩具の兵器ちゃん。
 でも、キミにカーテンコールをする資格なんて無いから、この世から、―――いいや、元の世界線に還ることもなければ、別の世界線に逃亡することさえ許さず、…真の意味で退場して貰うとするよ」

そう言うや否や、ルカは地を蹴って、飛び立つ。バルカンアローの滞空能力を用いて、本当の意味で、違法の大型兵器と視線を平等にし、対峙した。

オオオォォォ…!!と異形の大影が唸り、開き切った顎と歯で噛み付いた巨大な砲台が、その先端で光の粒子を溜め込み始める。ルカを排除するため、この地を焼き尽くすため、―――もう居ない指導者から与えられたコマンドを実行するため、兵器は必殺の一撃を放とうとしていた。


――『Balkan Arrow』


だがそれは、バルカンアローも同じこと。バルカンアローに搭載されたナビゲーター音声が、その役割を全うし始める。そして、ルカの両手に握られたキャノン砲のバレルが瞬時に開いた。ルカのアイカメラ内に表示されたインジケーターが、バルカンアローの即時フルチャージ完了を告げる。
もう何もかも、レベルの差が開きすぎていた。ルカと、この異形の大影では、兵器としての練度が、まるで違う。


――『call me, sir.』


バルカンアローのナビゲーター音声が発射を促す。ルカは、トリガーボタンに指を掛けて…、ふっ、と小さく笑った後、不意に口を開く。

「時代と世界線さえ違えば、オレたち、友達になれたかもね。―――それじゃ、サヨナラ」

意味を為さない独り言だけを零してから、ルカがトリガーボタンを押した。瞬間、バルカンアローが発射される。
マム・システム討伐のときより、更に威力が底上げされたバルカンアローの光線に対して、異形の大影が耐えられるはずもなく―――、


―――真正面から光線を浴びた大型兵器は、あっという間に押し潰されて、溶かされて、引き裂かれて、…そして、塵芥も残さず、壊され尽くして。とうとう、その姿を完全に消滅させられた。断末魔さえ上げることも、許されない。それが、利欲と侵略のための兵器の末路。


だが、まだ全てが終わったわけではない。大型兵器は始末されたが、それが這い出ようとしてきたワームホールは残っている。一度はユナに閉じられようとした空間の穴は、再びこじ開けられたことにより、かなり歪んでいた。ルカのバルカンアローないし、同調変換で壊せる可能性はあるが、―――…仕事場では、適材適所で行きたい所存である。

すると、上空で発射待機状態に入っていたマシェリが、その角度を極端に変え始めた。ヒルタス湾の上空を覆い尽くさんばかりの巨体が、此処まで傾くとなると、おそらく発射後の反動は恐ろしいものになるだろう。だが、それで良い。

ノアとキャットが補助装置を使って、マシェリを限界まで傾かせ、その砲台の先を、歪んだワームホールへと向かせる。そして、マルギットが発射装置へ、己の手を翳した。そして、今一度、その視線を撃墜対象へと移した。

時空間の歪みの先に揺らめく、生まれ育った故郷の蜃気楼。マルギットが呟く。

「不肖マルギット、幸福劇場の特務将軍としての、最期の務めを果たしましょう。
 ……さようなら、お父様、お母様。どうか、お元気で…」

マルギットの両眼から幾筋もの涙が零れた。だが、彼女は目標を見据え続ける。そして。


「発射ッ!!」


『将軍の号令』が飛び、マシェリの砲台から光が一閃する。それはワームホールを貫き、『撃ち抜いた対象を、分子レベルで即時分解、消滅させる』という特性を如何なく発揮した。
歪んだワームホールは消え失せ、それでも未練がましく残滓を引いていたが、……数秒と立てば、何事も無かったかのように、空気の中へ沈む。
同時に、上空のマシェリの巨体と、地上に蔓延っていた玩具の兵士たちも瞬時に、そして跡形もなく消滅した。これらは元々、シェルターシティから転送されていたモノだ。ワームホールが消えれば、その運命を共にすることは知れたこと。


「―――……終わった…」


ソラが、ぽつり、と独り言ちた。否、独りの言葉ではなく、戦場に立っていたモノたちの総意である。ある者は天空を見上げ、ある者は地上を見渡し、ある者はヒルタス湾の地平線に視線を投げていた。戦闘の終了を検知したロボット兵たちは、残った数だけで隊列を組み直し、指揮権を持つソラからの指示を待つ。
そして、アンジェリカは鉄蜘蛛の多脚を自己崩壊させて、いつもの機械義足に戻した。だが、反動が大きすぎて、上手く立つことが出来ないようである。その身体が脱力して傾いだとき、咄嗟に支えたのは、琉一であった。

ルカはバルカンアローを装着したまま、すいーっとコンテナの上まで戻り、着地した途端、それらをパージする。バルカンアローのユニットたちは、ルカから離れた途端に、役目を終えたのでと言わんばかりに消えていった。

すると、ルカが脱ぎ捨てていった白いスーツのジャケットと、黒革の手袋を持ったツバサが、彼の傍まで静かに近付く。

「おかえりなさい、ルカ」
「ただいま、アリスちゃん」

外勤から帰ってきた上司を出迎える事務員。二人の姿は、そんな光景にしか見えない。
故郷を喪失したという現実に心を潰されそうになっていたマルギットは、両眼を濡らし続ける涙で滲んだ視界で、…そんなルカとツバサの様子を、しかと切り取った。

それから、文字通り、自分を両隣から支えてくれているノアとキャットの手に、己のそれを触れ合わせたのである。



to be continued...
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