第五章 哂納通牒
輝と百合花が映り込んだ監視カメラの映像が、また途切れた。これまでと同じく、輝が向けた銃口の映像を最後にして―――。
いくら輝が端末を持って行かなかったとはいえ、この施設には膨大な数のカメラを仕掛けている。だから、絶対に二人を何処かで追い詰めることが出来ると思っていた。それこそ最初は、輝が鹵獲していった拳銃でカメラを壊していくことは、逆説的に、その壊されたカメラの位置から、二人の逃亡ルートが予測できるとさえ、皆が考えていたことである。…しかし、現実はどうだろう?
輝が二台目のカメラを壊した瞬間、カメラと本陣のモニターや追跡情報を出すための機器類の挙動が、途端におかしくなったではないか。それに、輝が壊すカメラの数が多くなればなるほど、どんどん復旧作業が追い付かなくなり、―――…今や、逃亡中の輝と百合花の姿そのものは、完全手動で操作するしかない、一番古いモニターの一台でしか、本陣からは伺えなくなっている。だがそれも、先ほどのカメラ破壊により、いよいよ接続が不安定になってきているらしい。画面には複数のノイズパターンが現れ、操作している黒服のコマンドに対して、エラーを吐き出し始めた。
何故、輝はカメラを壊しているのか?その答えは簡単だ。彼は逃亡を開始する寸前に、こう言った。「総理は此処にトルバドール・セキュリティーの過去製品を使ってる」と。
つまり、輝は知っているのだ。この型式の監視カメラが、「カメラ同士でネット回線を共有しているが故に、複数設置の場合、一台でも不具合が起こったとき、連鎖故障を引き起こす弱点を抱えているモノ」であることを。そしてその弱点は、カメラが映像の出力先として依存するモニター類にも波及することも、当然、把握している。
ちなみに、トルバドール・セキュリティーでは同じタイプの監視カメラは今でも新製品を発表され続けていた。だが、少なくとも二年前にリリースした同一製品のスペックでは、連鎖故障など大馬鹿な真似は、絶対に起こりえない。……全て、輝がトルバドール・セキュリティーの次期社長候補だからこそ成功した逃亡劇の一端であり、―――…同時に、ユナが支配者を気取り、大金を動かしたり、他人を駒扱いする割には、…目論みの基盤とするべき肝心の投資や、作戦の詰め方が、まるでなっていないことの立派な証左である。
しかし、ユナの精神力は、間違いなく支配者側のモノであった。現に、今こうして、黒服たちが慌てふためく間にも。彼女は指示を仰がれると、それに適切に応じている。おまけに取り乱し方が異様になってきた者を発見しては、わざわざ傍まで呼びつけて、直接、檄を飛ばし、その背筋を伸ばさせた。
劣勢に陥っている自陣の中であっても、尚、黒服たちにとってユナは、『自分たちの頂点』であると認識せざるを得ず、そして、彼女の命令に従う心を、今一度、抱く。
ユナは暫し視線を落としていたスマートフォンから眼を上げて、次の指示を待つ黒服たちに向かって、口を開いた。
「二人が狙うのは、間違いなく、逃亡用の車よ。でも、輝は未成年だから運転免許証は持っていないし、百合花は根っからのペーパードライバー。
…とはいえ、それを見越して、施設から飛び出し、徒歩で逃亡しようとしても、近くにあるのは深い森と、せいぜい、山間の道路だけ…。ヒッチハイクも望めないわ。
そうね…。いっそ、森の中に追い立てて、遭難させてしまいましょう。この季節なら、二晩も経てば、訓練された輝はともかく、百合花は飢えと渇きに耐えられずに気が触れるでしょうし、…あるいは、二人揃って凍死へ追い込める可能性さえあるわ。
二人の遺体をこちらで回収できれば、真っ先に『駆け落ちの末、森の中で心中』とでも捏造も出来るから、……良いこと?あなたたち?森の中に追い立てた後は、二人が衰弱するのを待ちなさい。絶対に外傷をつけてはいけないわ」
ユナの台詞は、具体的にして、かなり実現性の高いモノである。故に、黒服たちは益々、ユナに心酔した。「流石、この国の総理…」と、誰もが思ったときだった。
「ターゲット発見!地下駐車場です!…あ、カメラが!…くっ!モニターも限界です!もう此処のシステムでは、これ以上、二人を追えません!
総理!いかがいたしましょうか?!」
―――地下駐車場に、輝と百合花が現れた!ユナの読みは当たったのだ!
此処で二人を押さえることが出来れば、もうユナの盤面が覆されることはあり得ない!
「モニターはもう良いわ!全員、駐車場へ行くのよ!二人が奪おうとする車のタイヤなりエンジンルームなりを、片っ端から銃で壊していきなさい!
輝さえ無力化してしまえば、百合花一人では何も出来ないわ!車の破壊と、輝の制圧を最優先しなさい!」
ユナの鋭い号令が飛んだ瞬間、黒服たちは一斉に武器を持って、モニタールームから出て行った。
――――…。
地下駐車場の中を、輝と百合花が駆けている。だが、ずらり、と並んだ車両たちには目もくれず、輝は奥へと進み続けていた。
「輝さん…!ど、何処まで行くの…!?
逃げるための車が必要なのでしょう?!こんなにたくさんあるのに、どうして素通りしてしまうの…?!」
百合花は上がった呼吸のままに、輝に問う。すると彼は、「ああ、すみません」と短く謝った後。百合花の方を振り返って、答えた。
「此処のセキュリティーレベルなら、それの設置段階で、併せて配備が必須条件になっている、とある車両があるはずなんです。今の俺たちには、それが逃亡のための最後の切り札です。
…何処に仕舞ってるんだ?アレ、一応、弊社の車両製品だと最高傑作の部類なんだけど…。…あ!」
輝が唐突に足を止める。そこにはシャッターが閉まった、ごく小さな区画。
(地下駐車場の中に、更にガレージが…?)と不思議がっていた百合花だったが、そのシャッターに『Troubadour Security』のロゴが、そこそこ年季の入った錆つき加減で刻印されているのを見止めた瞬間、理解する。この向こうに、輝が切り札とする車両が収まっているのだと。
しかし、シャッターは明らかに施錠されており、それを制御するための電子パネルの電源も点いている様子は伺えない。…どうするのかしら…?と、後方から迫ってくるかもしれない追手の気配に不安になりつつも、百合花は彼を信じて、電子パネルを操作し始めた姿を観察する。
パネルの操作盤ごと上げて、内部を剥きだしにした輝が、今度はおもむろにブーツの左の踵を触った。…右の方には刃が仕込んであったが、もしや左にも何かあるのだろうか…。
百合花がそう思っていると、輝が左踵の部分を開けて、そこから細いスティック状のモノを出した。そして、それを電子パネルの内部にあった穴の中へと差し込む。すると。
――『本社製マスターキーを認証。当ガレージ内における、全ての権限を譲渡します。』
実に無機質な合成音声が響くと同時に、シャッターが素早く開いた。小さな区画だが、その中心部に鎮座していた『車両』に、百合花は思わず圧倒される。
それは、大型バイクであった。だがしかし、ただのバイクではないことは、もう分かり切っている。
「弊社が発表している車両製品、随一の最高傑作…、戦時機動大型二輪『アレクシア』です。
かなり高いレベルの武装車両と認定されているので、使うには弊社から直接発行されたワンタイムパスコードを入力するか、…今、俺が使っているマスターキーを使用するしか、コイツを動かす術はありませんよ。
―――!! 危ない!!」
輝が説明をしていたとき。突然、百合花は彼に抱えられて、ガレージ内へと入り込まされる。途端、輝の居た位置の床に、銃弾が弾ける音が響いた。
同時に、煙幕弾が焚かれる。煙の向こうは、もう何も見えない。
だがそれは、二人に追い付いてきた黒服側も同じことだ。煙で炙り出せば、出てくる。そう思っていた。――――地を揺るがすような、重く低いエンジン音が、鳴り響くまでは。
黒服の誰かが煙の中に向かって発砲しようとしたとき。
その白煙の中から、彗星の如き真っ赤な駆体が、飛び出してくる。―――アレクシアだ。イグニッションに、あのマスターキーが刺さっている。
驚いた黒服たちが腰を抜かしたり、闇雲に発砲するなか。輝は百合花を後ろに乗せたアレクシアを駆って、あっという間に、地下駐車場を走り抜けていったであった。
「急ぎなさい!もっとスピードが出るはずよ!なんのための特殊車両なの?!」
「も、申し訳ございません、総理!ですが、車両のエンジンを制御している回線に、出自不明のジャミング電波が―――」
「―――言い訳はよろしい!そんなもの、どうせ輝がやっている小手先だけの妨害でしょう?!あんな子どもにしてやられるなんて!!」
アレクシアによる輝と百合花の逃亡を許したユナは、追跡のために出した車両の中で、怒髪冠を衝く勢いになっていた。
一方。
アレクシアを転がしている輝は、百合花が振り落とされないようにと自分にしがみついているのを確認しつつ、だが実際に落とすわけには断じていかないので、割と慎重な運転を余儀なくされていた。なにせ、何処とは分からない、山間の峠道だ。
だが、確実に峠を下っているのは分かる。アレクシアのモニターについている水平器が、現在走行している道路の角度を、下方であると示しているからだ。このまま麓にでも出られれば、多少は安全が確保できるかもしれない。
それに、あのユナのことだ。本来の彼女の本丸である総理官邸や、紫水党本部とは、そう距離が離れてない場所に、あの監禁用の施設はあったはず。何故なら、一国の頂点たる女性が、目的地を知らせずの状態で、長時間、政治活動の周辺を留守や不在にすることは、まず不可能だからだ。監禁用施設と政治の場を往来できる手筈を整えていたからこそ、ユナはあの場に居座っていられた。それならば、この峠を下った先にさえ行けば、間違いなく、ユナが手を出せない場所に行きつけるはず…―――。
「だ、誰かいるわッ?!」
「―――!!」
後ろの百合花の声が、耳元で聞こえたことで、輝はハッと前方に改めて意識を向けた。
ストレートに差し掛かった道の向こう、そのど真ん中。―――小柄な人影が、すん、と立っている。
なびく髪。明滅する脚部。こちらを見据える、三色に分かたれた瞳。その白桃のような唇が、薄らと微笑んだ、…ように見える。
瞬間。その人影の正体を、正しく認知した輝は、―――後ろの百合花に向かって叫んだ。
「突っ切ります!しっかりと掴まって!」
「は、はい!!」
百合花がしかと腕のチカラを強めたのを感じたと同時に、輝はエンジンを回して、猛スピードで人影に向かって走り、――――…その真横を、すり抜けていった。
すれ違う瞬間。輝と、立ち尽くした人影の視線が交叉した、…ような気がした。
暫く走った後。我に返ったかのように百合花が捲し立てる。
「い、今の!女の子でしたよ?!通行人?!それとも追手?!」
「落ち着いてください!『アレ』は通行人でもなければ、追手でもありません!」
輝は冷静に答えた。だが、百合花の疑問は止まらない。
「じゃあどうして?!こんな山道の真ん中に?!」
「大丈夫です!アレがあそこに立っていたということは、もうすぐゴールです!おそらく、あと少しで、きっと俺たちを保護してくれる部隊と合流できます!」
「根拠は?!―――…あ…!」
最早、問い詰めるにも等しい言葉尻の百合花だったが、ふと前方に見えた隊列に気が付くと同時に、何とも言えぬ思いを抱き、黙り込んだ。
ROG. COMPANY本社の、レオーネ隊である。
整列しているレオーネ隊の前で、アレクシアを止めた輝は、まず先に自分が降りてから、次に諸々の衝撃で膝が笑いそうになっている百合花を支えて、その身をバイクから安全に降ろした。
すると、レオーネ隊が道を開ける。そこから出てきたのは―――…、ツバサであった。
ツバサは逃亡劇を終えた輝と百合花に一礼すると、事務員らしい淡々とした口調で、喋り始める。
「ご無事で何よりです。
ですが、弊社からのフォローが遅くなってしまったこと、大変申し訳ございませんでした。せめてものお詫びといたしまして、弊社が現時点で一番、敵陣に有効となる武装を持ち出しております。
先ほど、すれ違ったのではないかと思いますが…、弊社の一級高等幹部・弓野入アンジェリカからは、きちんとご挨拶はありましたでしょうか」
―――『弓野入アンジェリカ』…。
ツバサの口から飛び出してきた人名に、やはり…、と輝は溜め息を吐いた。だがそれは、呆れでも怒りでもなく、…安心の意味が含まれている。
百合花は支えてもらっている輝の腕に、無意識にチカラを込めて、彼に問うた。
「アンジェリカ…?先ほどの女の子のことですか?…私たちは、もう安全なのでしょうか…?
そもそも、あの子が、ROG. COMPANY本社の『武装』…?どう思い返しても、十四、十五歳ほどの少女にしか見えませんでしたが…?」
ふらふらになりながらも、百合花は現実についていこうと必死になっている。そんな彼女の姿を心の隅で、(何も知らない方が幸せかもしれないのに…)…という気持ちを明確に抱いた。そして、不意に、輝は空を見上げる。つられるようなカタチで百合花を視線を上にあげた。雲がまばらに散った真っ青な、快晴である。それこそ、宇宙まで透き通って見えるのでは、という妄想めいた錯覚さえ覚えるほどの、透明感。
「…アレは、―――『マム・システム』。ルカ三級高等幹部の『母』にして、人間が生み出した業の果て。……そして、俺たちが一度、ヒルタス湾の最東端で、倒した相手です」
輝がそう呟くように答えたのを聞いた百合花は、数秒の後、ハッと思い出した。
そう言えば監禁施設から逃亡する前、輝が自分語りの中で言っていた。
―――「ヒルタス湾の最東端で起こった、マム・システム暴走の事件…、…ああ、その顔は「知らない」って感じ…?…ま、いっか。とにかく、デカめの鉄火場が出来上がった際に、戦士としてデビューしました。」
…と。
つまり、あの少女は。ただの人間ではなく、否、むしろ人間の範疇を超えた存在なのでは……?!
―――ドォォォン……ッ!
百合花が考えていたとき、そう離れていない距離から轟音が木霊したかと思えば、次いで地響きが起こる。輝がしかと支え直してくれたおかげで、百合花の身体は何とか倒れずにすんだものを、…そのふらつき加減から、輝は既に百合花の身体が衰弱状態に入りかけていることを悟った。
「休みましょう。レオーネ隊は、民間人の支援や救護に長けている隊列ですから」
「…ええ、…では、お言葉に甘えて…」
輝の言葉に百合花は素直に甘えることにした。レオーネ隊兵が近付いてきて、彼女の歩行を補助し始めると同時に、その手から百合花の体温を離した輝は。……、走り抜けてきた道を、今一度、振り返ったのであった。
――――…。
峠道が、への字に曲がって、隆起している。…輝たちが麓で聞いた轟音の正体は、これだ。
そして、その隆起した一番上の位置に腰かけた、サイドテールにした蒼色の髪をなびかせた少女―――アンジェリカは、ひっくり返った車両たちと、そこからかろうじて脱出していた黒服と、ユナを見下ろしていた。
「安心しなさい。これ以上のことはしないと、母は約束しましょう。生まれ変わったこの母は、もう無暗な殺生はおろか、不要な躾も行わないと誓った。そう定義された。
…とはいえ、いたいけな子どもたちを、大人の立場から一方的にいじめるという愚行の極みは、到底、見過ごせないわ。この母は、ひとの子たる命を観測するモノであり、それら全てを受容し、護るために、新しく調整されたのだから」
青、黄、アクアに三色に分かたれた瞳を、ちかちか、と光らせながら、アンジェリカはそう言う。その間に、彼女は両足の機械義足を、ぷらんぷらん、と暇潰しの一種かのようにふらつかせていたが。―――、不意に、アンジェリカが腰かけていた隆起の部分で立ち上がった。そして、黒服が全力で守ったおかげで、怪我を負っていないユナを見下ろし、告げる。
「ひとの子、…いいえ、貴女は個人と認識した方が良いわ。
…、ユナ。此処から先は、正しく恐怖しなさい。正しく和平と平等と愛情を求めて、そして、譲りなさい。でなければ、その身は確実に破滅するわ」
アンジェリカは言いながら、右手を上げて、その人差し指だけを、ピッ!、と天へ向けた。つられるようにユナは空を見上げる。真っ青な快晴。…そこに一体、何があると言う…?
アンジェリカの声が響く。
「母は、断言する。
どれだけ地を駆け回り、泥の合間で知略を巡らせていたとしても、―――遥か天空の上から見ているモノが、眠りから覚めた以上…、…ユナを含む、間違いを犯したひとの子に、逃れられる術は無い。
これは大切なことよ。故に、二回、言いましょう。
ユナ。正しく恐怖しなさい。正しく和平と平等と愛情を求めて、そして、譲りなさい。でなければ、その身は確実に破滅するわ。
この母の言うことを理解したのであれば、貴女は次の一手の、正しい打ち方が分かるはず。
…待っているわ、ユナ。母は子と、子は母と。かの因縁の地で、貴女の決断と未来を見届ける」
アンジェリカはそこまで言い切ると同時に、そのサイドテールを翻し、明滅する機械義足で瓦礫の山を蹴って、―――あっという間に、隆起した道路の向こうへと姿を消した。
…。
ユナは暫くの間、ぼう…、としていたが。黒服の何度目かの呼びかける声に、ようやく我に返った。
「…、間違いない…!アレはマム・システム…!せっかくルカが居ないと思っていたのに、今度はあっちが動くと言うの…?!
まごまごしていられない…!今すぐにも動かなければ…!」
ユナはぶつぶつと独り言のように呟きながら、ジャケットのポケットからスマートフォンを取り出す。黒服たちに無事だった車両の中まで誘導された後、彼女はスマートフォンの黒一色に塗りつぶされたアプリをタップし、そこに二十八桁の数字を打ち込んだ。すると、そのアプリが何処ぞへと電話を発信する。ユナがスマートフォンを耳に当てて、―――相手が電話に出た瞬間、喋り始めた。
「申し訳ございません。『襲撃』を今すぐにお願い申し上げます。ルカは不在ですが、アレの母をなぞるアンジェリカが横槍を入れてきて…―――、…!はい!ありがとうございます!よろしくお願いいたします!……ええ、勿論です!必ずや、大師様のご期待に副える働きをしてみせますわ…!
では、『襲撃』の件を、よろしくお願いいたします。私も今から、ヒルタス湾へと向かいますので。…はい、はい、失礼いたします」
ユナが電話を切る。正確には、向こうが手早く切ったのだが、…要件さえ伝わればそれで満足である。
「…まだ。まだ私の盤面は残っている…!
今に見ていなさい、あの化け物たち…!それに、百合花…!
私こそ、選ばれた人間にして、真の支配者…!!」
呻くようにユナが、言葉を紡ぐ。
その眼が今や、誰の未来を見据え、盤面の何処を計算しているのか、――――…本人にさえも、分からなくなっている気がした。
to be continued...
いくら輝が端末を持って行かなかったとはいえ、この施設には膨大な数のカメラを仕掛けている。だから、絶対に二人を何処かで追い詰めることが出来ると思っていた。それこそ最初は、輝が鹵獲していった拳銃でカメラを壊していくことは、逆説的に、その壊されたカメラの位置から、二人の逃亡ルートが予測できるとさえ、皆が考えていたことである。…しかし、現実はどうだろう?
輝が二台目のカメラを壊した瞬間、カメラと本陣のモニターや追跡情報を出すための機器類の挙動が、途端におかしくなったではないか。それに、輝が壊すカメラの数が多くなればなるほど、どんどん復旧作業が追い付かなくなり、―――…今や、逃亡中の輝と百合花の姿そのものは、完全手動で操作するしかない、一番古いモニターの一台でしか、本陣からは伺えなくなっている。だがそれも、先ほどのカメラ破壊により、いよいよ接続が不安定になってきているらしい。画面には複数のノイズパターンが現れ、操作している黒服のコマンドに対して、エラーを吐き出し始めた。
何故、輝はカメラを壊しているのか?その答えは簡単だ。彼は逃亡を開始する寸前に、こう言った。「総理は此処にトルバドール・セキュリティーの過去製品を使ってる」と。
つまり、輝は知っているのだ。この型式の監視カメラが、「カメラ同士でネット回線を共有しているが故に、複数設置の場合、一台でも不具合が起こったとき、連鎖故障を引き起こす弱点を抱えているモノ」であることを。そしてその弱点は、カメラが映像の出力先として依存するモニター類にも波及することも、当然、把握している。
ちなみに、トルバドール・セキュリティーでは同じタイプの監視カメラは今でも新製品を発表され続けていた。だが、少なくとも二年前にリリースした同一製品のスペックでは、連鎖故障など大馬鹿な真似は、絶対に起こりえない。……全て、輝がトルバドール・セキュリティーの次期社長候補だからこそ成功した逃亡劇の一端であり、―――…同時に、ユナが支配者を気取り、大金を動かしたり、他人を駒扱いする割には、…目論みの基盤とするべき肝心の投資や、作戦の詰め方が、まるでなっていないことの立派な証左である。
しかし、ユナの精神力は、間違いなく支配者側のモノであった。現に、今こうして、黒服たちが慌てふためく間にも。彼女は指示を仰がれると、それに適切に応じている。おまけに取り乱し方が異様になってきた者を発見しては、わざわざ傍まで呼びつけて、直接、檄を飛ばし、その背筋を伸ばさせた。
劣勢に陥っている自陣の中であっても、尚、黒服たちにとってユナは、『自分たちの頂点』であると認識せざるを得ず、そして、彼女の命令に従う心を、今一度、抱く。
ユナは暫し視線を落としていたスマートフォンから眼を上げて、次の指示を待つ黒服たちに向かって、口を開いた。
「二人が狙うのは、間違いなく、逃亡用の車よ。でも、輝は未成年だから運転免許証は持っていないし、百合花は根っからのペーパードライバー。
…とはいえ、それを見越して、施設から飛び出し、徒歩で逃亡しようとしても、近くにあるのは深い森と、せいぜい、山間の道路だけ…。ヒッチハイクも望めないわ。
そうね…。いっそ、森の中に追い立てて、遭難させてしまいましょう。この季節なら、二晩も経てば、訓練された輝はともかく、百合花は飢えと渇きに耐えられずに気が触れるでしょうし、…あるいは、二人揃って凍死へ追い込める可能性さえあるわ。
二人の遺体をこちらで回収できれば、真っ先に『駆け落ちの末、森の中で心中』とでも捏造も出来るから、……良いこと?あなたたち?森の中に追い立てた後は、二人が衰弱するのを待ちなさい。絶対に外傷をつけてはいけないわ」
ユナの台詞は、具体的にして、かなり実現性の高いモノである。故に、黒服たちは益々、ユナに心酔した。「流石、この国の総理…」と、誰もが思ったときだった。
「ターゲット発見!地下駐車場です!…あ、カメラが!…くっ!モニターも限界です!もう此処のシステムでは、これ以上、二人を追えません!
総理!いかがいたしましょうか?!」
―――地下駐車場に、輝と百合花が現れた!ユナの読みは当たったのだ!
此処で二人を押さえることが出来れば、もうユナの盤面が覆されることはあり得ない!
「モニターはもう良いわ!全員、駐車場へ行くのよ!二人が奪おうとする車のタイヤなりエンジンルームなりを、片っ端から銃で壊していきなさい!
輝さえ無力化してしまえば、百合花一人では何も出来ないわ!車の破壊と、輝の制圧を最優先しなさい!」
ユナの鋭い号令が飛んだ瞬間、黒服たちは一斉に武器を持って、モニタールームから出て行った。
――――…。
地下駐車場の中を、輝と百合花が駆けている。だが、ずらり、と並んだ車両たちには目もくれず、輝は奥へと進み続けていた。
「輝さん…!ど、何処まで行くの…!?
逃げるための車が必要なのでしょう?!こんなにたくさんあるのに、どうして素通りしてしまうの…?!」
百合花は上がった呼吸のままに、輝に問う。すると彼は、「ああ、すみません」と短く謝った後。百合花の方を振り返って、答えた。
「此処のセキュリティーレベルなら、それの設置段階で、併せて配備が必須条件になっている、とある車両があるはずなんです。今の俺たちには、それが逃亡のための最後の切り札です。
…何処に仕舞ってるんだ?アレ、一応、弊社の車両製品だと最高傑作の部類なんだけど…。…あ!」
輝が唐突に足を止める。そこにはシャッターが閉まった、ごく小さな区画。
(地下駐車場の中に、更にガレージが…?)と不思議がっていた百合花だったが、そのシャッターに『Troubadour Security』のロゴが、そこそこ年季の入った錆つき加減で刻印されているのを見止めた瞬間、理解する。この向こうに、輝が切り札とする車両が収まっているのだと。
しかし、シャッターは明らかに施錠されており、それを制御するための電子パネルの電源も点いている様子は伺えない。…どうするのかしら…?と、後方から迫ってくるかもしれない追手の気配に不安になりつつも、百合花は彼を信じて、電子パネルを操作し始めた姿を観察する。
パネルの操作盤ごと上げて、内部を剥きだしにした輝が、今度はおもむろにブーツの左の踵を触った。…右の方には刃が仕込んであったが、もしや左にも何かあるのだろうか…。
百合花がそう思っていると、輝が左踵の部分を開けて、そこから細いスティック状のモノを出した。そして、それを電子パネルの内部にあった穴の中へと差し込む。すると。
――『本社製マスターキーを認証。当ガレージ内における、全ての権限を譲渡します。』
実に無機質な合成音声が響くと同時に、シャッターが素早く開いた。小さな区画だが、その中心部に鎮座していた『車両』に、百合花は思わず圧倒される。
それは、大型バイクであった。だがしかし、ただのバイクではないことは、もう分かり切っている。
「弊社が発表している車両製品、随一の最高傑作…、戦時機動大型二輪『アレクシア』です。
かなり高いレベルの武装車両と認定されているので、使うには弊社から直接発行されたワンタイムパスコードを入力するか、…今、俺が使っているマスターキーを使用するしか、コイツを動かす術はありませんよ。
―――!! 危ない!!」
輝が説明をしていたとき。突然、百合花は彼に抱えられて、ガレージ内へと入り込まされる。途端、輝の居た位置の床に、銃弾が弾ける音が響いた。
同時に、煙幕弾が焚かれる。煙の向こうは、もう何も見えない。
だがそれは、二人に追い付いてきた黒服側も同じことだ。煙で炙り出せば、出てくる。そう思っていた。――――地を揺るがすような、重く低いエンジン音が、鳴り響くまでは。
黒服の誰かが煙の中に向かって発砲しようとしたとき。
その白煙の中から、彗星の如き真っ赤な駆体が、飛び出してくる。―――アレクシアだ。イグニッションに、あのマスターキーが刺さっている。
驚いた黒服たちが腰を抜かしたり、闇雲に発砲するなか。輝は百合花を後ろに乗せたアレクシアを駆って、あっという間に、地下駐車場を走り抜けていったであった。
「急ぎなさい!もっとスピードが出るはずよ!なんのための特殊車両なの?!」
「も、申し訳ございません、総理!ですが、車両のエンジンを制御している回線に、出自不明のジャミング電波が―――」
「―――言い訳はよろしい!そんなもの、どうせ輝がやっている小手先だけの妨害でしょう?!あんな子どもにしてやられるなんて!!」
アレクシアによる輝と百合花の逃亡を許したユナは、追跡のために出した車両の中で、怒髪冠を衝く勢いになっていた。
一方。
アレクシアを転がしている輝は、百合花が振り落とされないようにと自分にしがみついているのを確認しつつ、だが実際に落とすわけには断じていかないので、割と慎重な運転を余儀なくされていた。なにせ、何処とは分からない、山間の峠道だ。
だが、確実に峠を下っているのは分かる。アレクシアのモニターについている水平器が、現在走行している道路の角度を、下方であると示しているからだ。このまま麓にでも出られれば、多少は安全が確保できるかもしれない。
それに、あのユナのことだ。本来の彼女の本丸である総理官邸や、紫水党本部とは、そう距離が離れてない場所に、あの監禁用の施設はあったはず。何故なら、一国の頂点たる女性が、目的地を知らせずの状態で、長時間、政治活動の周辺を留守や不在にすることは、まず不可能だからだ。監禁用施設と政治の場を往来できる手筈を整えていたからこそ、ユナはあの場に居座っていられた。それならば、この峠を下った先にさえ行けば、間違いなく、ユナが手を出せない場所に行きつけるはず…―――。
「だ、誰かいるわッ?!」
「―――!!」
後ろの百合花の声が、耳元で聞こえたことで、輝はハッと前方に改めて意識を向けた。
ストレートに差し掛かった道の向こう、そのど真ん中。―――小柄な人影が、すん、と立っている。
なびく髪。明滅する脚部。こちらを見据える、三色に分かたれた瞳。その白桃のような唇が、薄らと微笑んだ、…ように見える。
瞬間。その人影の正体を、正しく認知した輝は、―――後ろの百合花に向かって叫んだ。
「突っ切ります!しっかりと掴まって!」
「は、はい!!」
百合花がしかと腕のチカラを強めたのを感じたと同時に、輝はエンジンを回して、猛スピードで人影に向かって走り、――――…その真横を、すり抜けていった。
すれ違う瞬間。輝と、立ち尽くした人影の視線が交叉した、…ような気がした。
暫く走った後。我に返ったかのように百合花が捲し立てる。
「い、今の!女の子でしたよ?!通行人?!それとも追手?!」
「落ち着いてください!『アレ』は通行人でもなければ、追手でもありません!」
輝は冷静に答えた。だが、百合花の疑問は止まらない。
「じゃあどうして?!こんな山道の真ん中に?!」
「大丈夫です!アレがあそこに立っていたということは、もうすぐゴールです!おそらく、あと少しで、きっと俺たちを保護してくれる部隊と合流できます!」
「根拠は?!―――…あ…!」
最早、問い詰めるにも等しい言葉尻の百合花だったが、ふと前方に見えた隊列に気が付くと同時に、何とも言えぬ思いを抱き、黙り込んだ。
ROG. COMPANY本社の、レオーネ隊である。
整列しているレオーネ隊の前で、アレクシアを止めた輝は、まず先に自分が降りてから、次に諸々の衝撃で膝が笑いそうになっている百合花を支えて、その身をバイクから安全に降ろした。
すると、レオーネ隊が道を開ける。そこから出てきたのは―――…、ツバサであった。
ツバサは逃亡劇を終えた輝と百合花に一礼すると、事務員らしい淡々とした口調で、喋り始める。
「ご無事で何よりです。
ですが、弊社からのフォローが遅くなってしまったこと、大変申し訳ございませんでした。せめてものお詫びといたしまして、弊社が現時点で一番、敵陣に有効となる武装を持ち出しております。
先ほど、すれ違ったのではないかと思いますが…、弊社の一級高等幹部・弓野入アンジェリカからは、きちんとご挨拶はありましたでしょうか」
―――『弓野入アンジェリカ』…。
ツバサの口から飛び出してきた人名に、やはり…、と輝は溜め息を吐いた。だがそれは、呆れでも怒りでもなく、…安心の意味が含まれている。
百合花は支えてもらっている輝の腕に、無意識にチカラを込めて、彼に問うた。
「アンジェリカ…?先ほどの女の子のことですか?…私たちは、もう安全なのでしょうか…?
そもそも、あの子が、ROG. COMPANY本社の『武装』…?どう思い返しても、十四、十五歳ほどの少女にしか見えませんでしたが…?」
ふらふらになりながらも、百合花は現実についていこうと必死になっている。そんな彼女の姿を心の隅で、(何も知らない方が幸せかもしれないのに…)…という気持ちを明確に抱いた。そして、不意に、輝は空を見上げる。つられるようなカタチで百合花を視線を上にあげた。雲がまばらに散った真っ青な、快晴である。それこそ、宇宙まで透き通って見えるのでは、という妄想めいた錯覚さえ覚えるほどの、透明感。
「…アレは、―――『マム・システム』。ルカ三級高等幹部の『母』にして、人間が生み出した業の果て。……そして、俺たちが一度、ヒルタス湾の最東端で、倒した相手です」
輝がそう呟くように答えたのを聞いた百合花は、数秒の後、ハッと思い出した。
そう言えば監禁施設から逃亡する前、輝が自分語りの中で言っていた。
―――「ヒルタス湾の最東端で起こった、マム・システム暴走の事件…、…ああ、その顔は「知らない」って感じ…?…ま、いっか。とにかく、デカめの鉄火場が出来上がった際に、戦士としてデビューしました。」
…と。
つまり、あの少女は。ただの人間ではなく、否、むしろ人間の範疇を超えた存在なのでは……?!
―――ドォォォン……ッ!
百合花が考えていたとき、そう離れていない距離から轟音が木霊したかと思えば、次いで地響きが起こる。輝がしかと支え直してくれたおかげで、百合花の身体は何とか倒れずにすんだものを、…そのふらつき加減から、輝は既に百合花の身体が衰弱状態に入りかけていることを悟った。
「休みましょう。レオーネ隊は、民間人の支援や救護に長けている隊列ですから」
「…ええ、…では、お言葉に甘えて…」
輝の言葉に百合花は素直に甘えることにした。レオーネ隊兵が近付いてきて、彼女の歩行を補助し始めると同時に、その手から百合花の体温を離した輝は。……、走り抜けてきた道を、今一度、振り返ったのであった。
――――…。
峠道が、への字に曲がって、隆起している。…輝たちが麓で聞いた轟音の正体は、これだ。
そして、その隆起した一番上の位置に腰かけた、サイドテールにした蒼色の髪をなびかせた少女―――アンジェリカは、ひっくり返った車両たちと、そこからかろうじて脱出していた黒服と、ユナを見下ろしていた。
「安心しなさい。これ以上のことはしないと、母は約束しましょう。生まれ変わったこの母は、もう無暗な殺生はおろか、不要な躾も行わないと誓った。そう定義された。
…とはいえ、いたいけな子どもたちを、大人の立場から一方的にいじめるという愚行の極みは、到底、見過ごせないわ。この母は、ひとの子たる命を観測するモノであり、それら全てを受容し、護るために、新しく調整されたのだから」
青、黄、アクアに三色に分かたれた瞳を、ちかちか、と光らせながら、アンジェリカはそう言う。その間に、彼女は両足の機械義足を、ぷらんぷらん、と暇潰しの一種かのようにふらつかせていたが。―――、不意に、アンジェリカが腰かけていた隆起の部分で立ち上がった。そして、黒服が全力で守ったおかげで、怪我を負っていないユナを見下ろし、告げる。
「ひとの子、…いいえ、貴女は個人と認識した方が良いわ。
…、ユナ。此処から先は、正しく恐怖しなさい。正しく和平と平等と愛情を求めて、そして、譲りなさい。でなければ、その身は確実に破滅するわ」
アンジェリカは言いながら、右手を上げて、その人差し指だけを、ピッ!、と天へ向けた。つられるようにユナは空を見上げる。真っ青な快晴。…そこに一体、何があると言う…?
アンジェリカの声が響く。
「母は、断言する。
どれだけ地を駆け回り、泥の合間で知略を巡らせていたとしても、―――遥か天空の上から見ているモノが、眠りから覚めた以上…、…ユナを含む、間違いを犯したひとの子に、逃れられる術は無い。
これは大切なことよ。故に、二回、言いましょう。
ユナ。正しく恐怖しなさい。正しく和平と平等と愛情を求めて、そして、譲りなさい。でなければ、その身は確実に破滅するわ。
この母の言うことを理解したのであれば、貴女は次の一手の、正しい打ち方が分かるはず。
…待っているわ、ユナ。母は子と、子は母と。かの因縁の地で、貴女の決断と未来を見届ける」
アンジェリカはそこまで言い切ると同時に、そのサイドテールを翻し、明滅する機械義足で瓦礫の山を蹴って、―――あっという間に、隆起した道路の向こうへと姿を消した。
…。
ユナは暫くの間、ぼう…、としていたが。黒服の何度目かの呼びかける声に、ようやく我に返った。
「…、間違いない…!アレはマム・システム…!せっかくルカが居ないと思っていたのに、今度はあっちが動くと言うの…?!
まごまごしていられない…!今すぐにも動かなければ…!」
ユナはぶつぶつと独り言のように呟きながら、ジャケットのポケットからスマートフォンを取り出す。黒服たちに無事だった車両の中まで誘導された後、彼女はスマートフォンの黒一色に塗りつぶされたアプリをタップし、そこに二十八桁の数字を打ち込んだ。すると、そのアプリが何処ぞへと電話を発信する。ユナがスマートフォンを耳に当てて、―――相手が電話に出た瞬間、喋り始めた。
「申し訳ございません。『襲撃』を今すぐにお願い申し上げます。ルカは不在ですが、アレの母をなぞるアンジェリカが横槍を入れてきて…―――、…!はい!ありがとうございます!よろしくお願いいたします!……ええ、勿論です!必ずや、大師様のご期待に副える働きをしてみせますわ…!
では、『襲撃』の件を、よろしくお願いいたします。私も今から、ヒルタス湾へと向かいますので。…はい、はい、失礼いたします」
ユナが電話を切る。正確には、向こうが手早く切ったのだが、…要件さえ伝わればそれで満足である。
「…まだ。まだ私の盤面は残っている…!
今に見ていなさい、あの化け物たち…!それに、百合花…!
私こそ、選ばれた人間にして、真の支配者…!!」
呻くようにユナが、言葉を紡ぐ。
その眼が今や、誰の未来を見据え、盤面の何処を計算しているのか、――――…本人にさえも、分からなくなっている気がした。
to be continued...
