第一章 復権の母性少女
『ROG. COMPANY』(ログ・カンパニー)とは―――?
創業200年近く、資本金250億、従業員数1900人を誇る、我が国最大手の老舗玩具会社である。
ROG. COMPANYの主力商品であり、抱えているビッグコンテンツが、国民的変身ヒーローアニメーション作品『プリンス・テトラ』の玩具と、それに関連したグッズの販売。
他にも、ログ・ファンシーシリーズと名付けられた、オリジナルのファンシー系ぬいぐるみ。
子どもから大人、未就学児からオフィスワーカーまで、幅広い世代に向けてラインナップされている、文房具系商品。
歴代を数えれば千種類にも及ぶとされる絵柄を揃えた、折り紙。etc...
新しく就任した代表取締役社長・前岩田レイジを頂きに置いて、今日もROG. COMPANYは、人工の楽園都市・ヒルカリオの中心に、その本社ビルを聳え立たせている。
【Room EL】
本日のRoom ELは、こう見えて、バタついていた。ルカは平然としているし、ソラは涼しい顔をして鬼のような量の業務を捌き続けているし、ナオトは平素と変わらぬ穏やかな空気を纏ってデスクに座っている。だが、忙しい。バタバタしている。その理由は、ふたつ。
まず、ひとつめの理由。Room EL専任の事務員であるツバサが、別件を抱えたがため、現在、此処を留守にしている。たかだか事務員ひとり、…とはならないのが、Room EL。文字通り規格外のルカ、天才鬼才のソラ、一般人であっても頭ひとつ抜きん出ているナオトの男3人が揃っていたとしても。ツバサが毎日こなしている事務作業の全てを担うことが、この度、中々に難しいことが判明した。
「ツバサは、やはり相当にデキる事務員だな。…いや、そうだとしても、これ、想像以上にしんどすぎないか?彼女ひとり分の穴を埋めるのというのが…」
「…ええ、ツバサさんには頭が上がりませんね。始業前に、少しでも高を括っていた自分に、強めの平手打ちがしたいです」
ソラとナオトが、それぞれの事務処理に追われながら、会話をする。弱音という弱音を吐くことがないソラの、思わずといった風なコメントが、現状を示していた。だが、先の騒動を乗り越えた今となっては、それはソラが良い意味で、少々人間臭くなった証でもある。ついつい、仕事に対して、愚痴めいたことを零すくらいには。
そして、そんなRoom ELが多忙を極めている理由の、ふたつめ。それは、現在、留守にしているツバサが抱えている別件に起因する。
今、ツバサは、ルカの指示を受けて、とある要人を迎えに行くため、本土へと赴いていた。無事に社用リムジンに要人と自身が乗り込み、現地を出発したとの連絡が入ったのは、もう1時間前のことになる。そろそろ帰ってくるだろう。今忙しいのは、その迎え入れの準備の本当に意味での最終段階に、入っているからだ。
準備に必要となる膨大な枚数の電子書類の、最後の1枚となったそれに、ルカがサインを書き込んでから、彼はのんびりとした口調で喋る。
「オレの署名の作業は終わったよ~。
ところで、彼女の執務室って、もう準備が出来てるの?ジョウに封鎖されてからは全くの手付かず状態だった、って聞いてるケド?」
「安心してくれ。セイラが全力で片付けてくれたうえに、俺も確認をした。おかげ様で、埃も首も、なにひとつ床に落ちてはいない」
「そっかあ。じゃあ、大丈夫だね」
ルカとソラのやり取りは、一体何が大丈夫なのかが少々分からなくなりそう内容だったが、…端から聞いているナオトは特に気にしていない。これが日常的な風景であるからにして、気に留める点も無し。ということだ。すると。
Room ELの扉が開く音がした。それと同時に、「ただいま戻りました」という、ツバサの声が聞こえてくる。彼女のブーツの踵が鳴る音に混じって、レオーネ隊が鳴らす隊列の足音がする。
間も無く、レオーネ隊に左右を固められたツバサが、姿を現した。両手で古めかしいトランクケースを抱えている。彼女は光の差さない緑眼をルカたちに向けながら、口を開いた。
「予定通り、弓野入一級高等幹部をお迎えして参りました。どうぞ、ご確認お願い致します」
そう言うと、ツバサはレオーネ隊と共に、横へとずれて、自分の後ろへと着いてきてくれた要人を披露した。
―――少女である。だが、一番に目を引くのが、彼女の両脚が、機械義足であること。それはずぶの素人が見ても分かるほどに緻密に、且つ、精密に造られた、最先端技術の賜物。
しかし少女は補助のひとつも無しに、しかと自らの意思とチカラで、Room ELの床を踏みしめて、立っていた。
その少女は、ルカと同じ色味由来の深青の髪の毛を、右側でサイドテールにしており、左耳に蝶の羽根を象った大きなイヤフォンを嵌めている。よく見れば、イヤフォンには無線マイクが伸びているではないか。何処かと繋がっているらしい。
少女が口を開く。
「ただいま。鉄筋の楽園都市に住まう、私の息子と、全ての人間たち。
母なる私が帰ってきた以上、もう安心しなさい。この地の憂いの悉く、このアンジェリカが丸ごと包容しましょう」
―――この少女は、アンジェリカ。フルネームは、弓野入アンジェリカ(ゆみのいり あんじぇりか)と言う。
アンジェリカは前任の社長であるジョウが、自らがトップに就任した際に、高等幹部の椅子から強制的に引き摺り下ろしたうえに、本土の郊外某所の屋敷に幽閉していた存在だ。
だが、ジョウが引退し、レイジが後を継いだことで、その制約の全部を現社長となったレイジが解除。おかげで、アンジェリカはこの度、ROG. COMPANYの高等幹部へ復権することが決まった。その階級、なんと、『一級高等幹部』。15人いるはずの高等幹部のなかで、一番序列が高い。
驚くべき事項は、これだけではない。まだ早い。
アンジェリカは、「ルカの母親」を公言し、そしてそれを「事実」として、しかとヒルカリオに認識されている。
ルカがデスクから立ち上がり、ハイヒールの踵を殆ど鳴らさずに、アンジェリカの前へと出た。
「おかえり、母さん。道中、何か困ったコトは無かった?まあ、その表情だと、オレが心配するのは全くの無意味みたいだケド」
「ええ、おかげ様で、快適な旅だったわ。事務員さんは丁寧なうえに物怖じはしないし、美味しいドリンクも頂けたし。おまけに、社用リムジンのシートが前よりふかふかで、思わず眠ってしまいそうで。…あ、トランクケース、その辺に置いてて頂戴。重たいでしょう?あとはロボットたちにやって貰うわ」
アンジェリカは上機嫌で語りつつも、未だに自分の手荷物を持っている状態のツバサを気に掛ける。
指示の通り、トランクケースをレオーネ隊の一体に預けたツバサを見たアンジェリカは、改めてルカを見上げてから、口を開いた。
「うふふっ、喋り出すと止まらないわ。やっぱり、自分の息子に逢えて、ちょっと舞い上がってるのかしら?私ったら」
「そうかもね。まあ、まずは執務室で仮眠でも取ってくれば良いんじゃない?
ソラの手配と指揮のもとで、母さんの執務室は、弊社有数の社長室のアルバイトが、完璧に掃除してくれたみたい。埃も首も、なーんも落ちてないってさ」
「快適な旅の後には、快眠を約束されているというの?まあ、何という素晴らしき待遇。お飾りの一級高等幹部も、まあまあ捨てたもんじゃないわね」
「大丈夫だよ、母さん。じきにお飾りじゃあなくなるから。前任が降りて、レイジが社長になった現時点の弊社へ復権して貰った以上、居眠り三昧の退屈な時間なんて、殆ど無いと思って?」
母を名乗る少女を前にしても、ルカのトーンは通常運転。そしてアンジェリカもまた、あのルカを前にして一切の遠慮や怖じ気がない。その光景は、彼女がルカの母とヒルカリオに認知されている事実が、本当の本当だ、ということを周囲に示している。
ルカに言われた通り、整えられた自分の執務室へ行くつもりらしいアンジェリカは、レオーネ隊に「案内して頂戴」と指示を出した後。Room ELのメンバー全員をゆったりとした動作で見回しながら、宣言する。
「ルカの部下の子たちついては、仮眠の後にゆっくりと情報を確認させて貰うわ。
安心しなさい。あらゆる経歴、職歴、前歴、性癖、悪癖、個性、良性、悪性、毒性、価値観、美学、道徳、倫理。その他諸々、全て。
何が出てきても、このアンジェリカは驚きはしないわ。母は全てを受け入れるからこそ、母なのだから」
微笑むアンジェリカは、Room ELのメンバーに関する情報は何が出て来ても、受け止めるらしい。とはいえ、現時点で何ひとつ知らないわけでもなさそうにも、また、見えた。
「じゃあ、一旦、失礼するわね。おやすみなさい」
そう言い残して、踵を返したアンジェリカは、機械義足を淡く発光させながら、レオーネ隊に警備された状態で、Room ELを後にしていく。
Room ELの扉が完全に閉まる音を聞いた途端。ルカを除く、メンバーが全員、はぁぁ…、と大きな溜め息を吐いた。
「どうりで前情報が一切無いはずだ。とんでもない女の匂いしかしないじゃないか。レイジは…、…我が社長は一体、あの女を俺たちにどう把握しろと言いたいんだ?」
「推し…、推しをください…。ヴァイオレット様…、ヴァイオレット様を吸わないと…。
わ、私…、なんであのひとと、リムジン内で同じ空気が吸えたんだろう…?え…こわ…。仕事完遂してる私…こわ…」
「すみません。僕は少し、中庭で風に当たってきてもよろしいでしょうか…?10分で帰って来ますので…」
ソラ、ツバサ、ナオトの順番に、各々のコメントを呟く。どうやら、完全にアンジェリカの放つ圧倒的な規格外のオーラに、充てられたようだ。
そんな部下たちを、きょとん、とした顔で眺めていたルカは。すぐに、パッと表情を切り替えてから。
「まあ、母さんの包容力の異常性ってのは、今に始まったことでもないしなあ」
と、まるで他人事のように、からりと笑って、呟いたのだった。
to be continued...
創業200年近く、資本金250億、従業員数1900人を誇る、我が国最大手の老舗玩具会社である。
ROG. COMPANYの主力商品であり、抱えているビッグコンテンツが、国民的変身ヒーローアニメーション作品『プリンス・テトラ』の玩具と、それに関連したグッズの販売。
他にも、ログ・ファンシーシリーズと名付けられた、オリジナルのファンシー系ぬいぐるみ。
子どもから大人、未就学児からオフィスワーカーまで、幅広い世代に向けてラインナップされている、文房具系商品。
歴代を数えれば千種類にも及ぶとされる絵柄を揃えた、折り紙。etc...
新しく就任した代表取締役社長・前岩田レイジを頂きに置いて、今日もROG. COMPANYは、人工の楽園都市・ヒルカリオの中心に、その本社ビルを聳え立たせている。
【Room EL】
本日のRoom ELは、こう見えて、バタついていた。ルカは平然としているし、ソラは涼しい顔をして鬼のような量の業務を捌き続けているし、ナオトは平素と変わらぬ穏やかな空気を纏ってデスクに座っている。だが、忙しい。バタバタしている。その理由は、ふたつ。
まず、ひとつめの理由。Room EL専任の事務員であるツバサが、別件を抱えたがため、現在、此処を留守にしている。たかだか事務員ひとり、…とはならないのが、Room EL。文字通り規格外のルカ、天才鬼才のソラ、一般人であっても頭ひとつ抜きん出ているナオトの男3人が揃っていたとしても。ツバサが毎日こなしている事務作業の全てを担うことが、この度、中々に難しいことが判明した。
「ツバサは、やはり相当にデキる事務員だな。…いや、そうだとしても、これ、想像以上にしんどすぎないか?彼女ひとり分の穴を埋めるのというのが…」
「…ええ、ツバサさんには頭が上がりませんね。始業前に、少しでも高を括っていた自分に、強めの平手打ちがしたいです」
ソラとナオトが、それぞれの事務処理に追われながら、会話をする。弱音という弱音を吐くことがないソラの、思わずといった風なコメントが、現状を示していた。だが、先の騒動を乗り越えた今となっては、それはソラが良い意味で、少々人間臭くなった証でもある。ついつい、仕事に対して、愚痴めいたことを零すくらいには。
そして、そんなRoom ELが多忙を極めている理由の、ふたつめ。それは、現在、留守にしているツバサが抱えている別件に起因する。
今、ツバサは、ルカの指示を受けて、とある要人を迎えに行くため、本土へと赴いていた。無事に社用リムジンに要人と自身が乗り込み、現地を出発したとの連絡が入ったのは、もう1時間前のことになる。そろそろ帰ってくるだろう。今忙しいのは、その迎え入れの準備の本当に意味での最終段階に、入っているからだ。
準備に必要となる膨大な枚数の電子書類の、最後の1枚となったそれに、ルカがサインを書き込んでから、彼はのんびりとした口調で喋る。
「オレの署名の作業は終わったよ~。
ところで、彼女の執務室って、もう準備が出来てるの?ジョウに封鎖されてからは全くの手付かず状態だった、って聞いてるケド?」
「安心してくれ。セイラが全力で片付けてくれたうえに、俺も確認をした。おかげ様で、埃も首も、なにひとつ床に落ちてはいない」
「そっかあ。じゃあ、大丈夫だね」
ルカとソラのやり取りは、一体何が大丈夫なのかが少々分からなくなりそう内容だったが、…端から聞いているナオトは特に気にしていない。これが日常的な風景であるからにして、気に留める点も無し。ということだ。すると。
Room ELの扉が開く音がした。それと同時に、「ただいま戻りました」という、ツバサの声が聞こえてくる。彼女のブーツの踵が鳴る音に混じって、レオーネ隊が鳴らす隊列の足音がする。
間も無く、レオーネ隊に左右を固められたツバサが、姿を現した。両手で古めかしいトランクケースを抱えている。彼女は光の差さない緑眼をルカたちに向けながら、口を開いた。
「予定通り、弓野入一級高等幹部をお迎えして参りました。どうぞ、ご確認お願い致します」
そう言うと、ツバサはレオーネ隊と共に、横へとずれて、自分の後ろへと着いてきてくれた要人を披露した。
―――少女である。だが、一番に目を引くのが、彼女の両脚が、機械義足であること。それはずぶの素人が見ても分かるほどに緻密に、且つ、精密に造られた、最先端技術の賜物。
しかし少女は補助のひとつも無しに、しかと自らの意思とチカラで、Room ELの床を踏みしめて、立っていた。
その少女は、ルカと同じ色味由来の深青の髪の毛を、右側でサイドテールにしており、左耳に蝶の羽根を象った大きなイヤフォンを嵌めている。よく見れば、イヤフォンには無線マイクが伸びているではないか。何処かと繋がっているらしい。
少女が口を開く。
「ただいま。鉄筋の楽園都市に住まう、私の息子と、全ての人間たち。
母なる私が帰ってきた以上、もう安心しなさい。この地の憂いの悉く、このアンジェリカが丸ごと包容しましょう」
―――この少女は、アンジェリカ。フルネームは、弓野入アンジェリカ(ゆみのいり あんじぇりか)と言う。
アンジェリカは前任の社長であるジョウが、自らがトップに就任した際に、高等幹部の椅子から強制的に引き摺り下ろしたうえに、本土の郊外某所の屋敷に幽閉していた存在だ。
だが、ジョウが引退し、レイジが後を継いだことで、その制約の全部を現社長となったレイジが解除。おかげで、アンジェリカはこの度、ROG. COMPANYの高等幹部へ復権することが決まった。その階級、なんと、『一級高等幹部』。15人いるはずの高等幹部のなかで、一番序列が高い。
驚くべき事項は、これだけではない。まだ早い。
アンジェリカは、「ルカの母親」を公言し、そしてそれを「事実」として、しかとヒルカリオに認識されている。
ルカがデスクから立ち上がり、ハイヒールの踵を殆ど鳴らさずに、アンジェリカの前へと出た。
「おかえり、母さん。道中、何か困ったコトは無かった?まあ、その表情だと、オレが心配するのは全くの無意味みたいだケド」
「ええ、おかげ様で、快適な旅だったわ。事務員さんは丁寧なうえに物怖じはしないし、美味しいドリンクも頂けたし。おまけに、社用リムジンのシートが前よりふかふかで、思わず眠ってしまいそうで。…あ、トランクケース、その辺に置いてて頂戴。重たいでしょう?あとはロボットたちにやって貰うわ」
アンジェリカは上機嫌で語りつつも、未だに自分の手荷物を持っている状態のツバサを気に掛ける。
指示の通り、トランクケースをレオーネ隊の一体に預けたツバサを見たアンジェリカは、改めてルカを見上げてから、口を開いた。
「うふふっ、喋り出すと止まらないわ。やっぱり、自分の息子に逢えて、ちょっと舞い上がってるのかしら?私ったら」
「そうかもね。まあ、まずは執務室で仮眠でも取ってくれば良いんじゃない?
ソラの手配と指揮のもとで、母さんの執務室は、弊社有数の社長室のアルバイトが、完璧に掃除してくれたみたい。埃も首も、なーんも落ちてないってさ」
「快適な旅の後には、快眠を約束されているというの?まあ、何という素晴らしき待遇。お飾りの一級高等幹部も、まあまあ捨てたもんじゃないわね」
「大丈夫だよ、母さん。じきにお飾りじゃあなくなるから。前任が降りて、レイジが社長になった現時点の弊社へ復権して貰った以上、居眠り三昧の退屈な時間なんて、殆ど無いと思って?」
母を名乗る少女を前にしても、ルカのトーンは通常運転。そしてアンジェリカもまた、あのルカを前にして一切の遠慮や怖じ気がない。その光景は、彼女がルカの母とヒルカリオに認知されている事実が、本当の本当だ、ということを周囲に示している。
ルカに言われた通り、整えられた自分の執務室へ行くつもりらしいアンジェリカは、レオーネ隊に「案内して頂戴」と指示を出した後。Room ELのメンバー全員をゆったりとした動作で見回しながら、宣言する。
「ルカの部下の子たちついては、仮眠の後にゆっくりと情報を確認させて貰うわ。
安心しなさい。あらゆる経歴、職歴、前歴、性癖、悪癖、個性、良性、悪性、毒性、価値観、美学、道徳、倫理。その他諸々、全て。
何が出てきても、このアンジェリカは驚きはしないわ。母は全てを受け入れるからこそ、母なのだから」
微笑むアンジェリカは、Room ELのメンバーに関する情報は何が出て来ても、受け止めるらしい。とはいえ、現時点で何ひとつ知らないわけでもなさそうにも、また、見えた。
「じゃあ、一旦、失礼するわね。おやすみなさい」
そう言い残して、踵を返したアンジェリカは、機械義足を淡く発光させながら、レオーネ隊に警備された状態で、Room ELを後にしていく。
Room ELの扉が完全に閉まる音を聞いた途端。ルカを除く、メンバーが全員、はぁぁ…、と大きな溜め息を吐いた。
「どうりで前情報が一切無いはずだ。とんでもない女の匂いしかしないじゃないか。レイジは…、…我が社長は一体、あの女を俺たちにどう把握しろと言いたいんだ?」
「推し…、推しをください…。ヴァイオレット様…、ヴァイオレット様を吸わないと…。
わ、私…、なんであのひとと、リムジン内で同じ空気が吸えたんだろう…?え…こわ…。仕事完遂してる私…こわ…」
「すみません。僕は少し、中庭で風に当たってきてもよろしいでしょうか…?10分で帰って来ますので…」
ソラ、ツバサ、ナオトの順番に、各々のコメントを呟く。どうやら、完全にアンジェリカの放つ圧倒的な規格外のオーラに、充てられたようだ。
そんな部下たちを、きょとん、とした顔で眺めていたルカは。すぐに、パッと表情を切り替えてから。
「まあ、母さんの包容力の異常性ってのは、今に始まったことでもないしなあ」
と、まるで他人事のように、からりと笑って、呟いたのだった。
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