『極寒の果てで』小説

雪が止み、晴れ間が覗いている。万年吹雪のゴッカンには、珍しい天気とされ、暖かい気候の恩恵に預かれる善き日として、心なしか民たちは浮かれていた。例え、自分たちが、この国の最高裁判長に裁かれた故に、帰る場所を失い、また、茫々と生きることを強いられていたとしても。

そして。寒い雪が止んだ、刹那の春の間に。訪れる、華がある。


【ザイバーン城】

寝室で、ベッドにぐったりと横たわっている影がある。サイドテーブルには、飲みかけの水と、穴がいくつか開いた錠剤シート。薬品名から、精神安定剤であることが伺えた。
シーツに身を沈ませて、顔色悪くも、規則正しい寝息を立てる、この男こそ。このゴッカンの王、「陛下」である。つい少しまでは、皆から名前に敬称付きで呼ばれていたが。本人から訂正の通達があったことで、現在は「陛下」と呼称されることとなっている。何故、彼が急に己の呼び方へ訂正を入れてきたのかは、誰も知らず、しかし、敢えて知ろうともしなかった。陛下はいつでも、個人の内情に踏み込まれることを、一等、嫌う。最高裁判長の重い責務と、厳しいスケジュールに精神を著しく削られて、いつしか心を閉ざし、それでも、持ち前の責任感から逃げ出すことは決して許さず。しかし、これ以上はもう彼自身も、そして周囲も、限界が近かった。
そうして、陛下の退位が、この季節より1年後、と決まったのが。つい先日のこと。
退位した後。陛下は離宮のひとつにて、隠居生活をする予定だ。それに付き従い、彼の世話を請け負う者を、ザイバーン城では現在、募集中である。この求人は国民にも出しており、元々の城仕えの者よりかは劣るものの、充分な給金が約束されている。が、募集している人数に対して、応募数は、ざっと見積もっても3%といったところ。
給料は良い。屋根があり、温かい食事も提供され、寒空の下で凍えて眠る心配もない。絶対的な衣食住の保証。しかし、その好待遇が魅力にならないほど。陛下の求心力が、低いのだ。
裁判になれば、冷徹な判決を平然と下し。戦いになれば、敵陣を地も天も諸共、氷の焦土と化す。―――国王としては敏腕で英傑であっても、ひとりの人間としては、陛下の民たちからの支持率は、歴代のゴッカン王の中では最下位とも言える。

白い毛玉、もとい、セラピー用の愛玩生命体のイルが、陛下の腕の中でくぅくぅと寝息を立てていたが。不意に、ぱちり、とそのつぶらな瞳を開けて。くぅう、くうう、と控えめながらも、通る声で鳴きながら、陛下の腹に己の丸い身体を擦りつけた。起きろ、とでも言っているかのよう。すると。

寝室の扉が、ノックされる音が響いた。ハッと起き上がった陛下だったが、身体に残っている薬効のせいで、フラついてしまい、ベッドから落ちそうになる。が、踏ん張った。代わりとばかりに、ころん、と、イルが落下してしまったが、厚みのある絨毯が敷かれていたおかげか、特に痛がるような素振りは見せない。

「…入れ」

掠れた声で陛下が許可を出すと。入ってきたのは、ザイバーン城専属の医務官である、ビアンキ医師だった。城一番の手腕を誇り、陛下の主治医も兼任している。彼は陛下が即位して間もない頃に施行した、他国への留学支援プログラムを利用して、イシャバーナへと留学し、数年の時を経て、立派な医者となって帰ってきた経緯を持つ。故に、ビアンキは陛下に忠実だった。…忠実であっても、全肯定ではない。現に、今も。サイドテーブルに放置してあった錠剤シートを見とめて、眉間に皺を寄せている。

「お休みになるのであれば、お薬でなく、瞑想や運動で…、と申したはずです」
「…効かないものは、意味がない…」

ビアンキの苦言に対して、陛下は素っ気なく返した。陛下はグラスに手を伸ばすと、その中に残った飲みかけの水を一気に呷る。暖房による乾燥で渇いた喉に潤いを…、とは真逆で。逆にヒリつくような痛みすら感じたことに、陛下は思わず苦い顔をした。
ビアンキは絨毯の上で転がり始めていたイルを拾い上げてから、陛下のベッドまで歩み寄る。そして、未だベッドに半分寝たままの陛下の腕の中へ、イルを預けると、本来の穏やかな表情を戻して、口を開いた。

「旅の歌姫様がいらっしゃっています。是非とも、陛下に歌を献上させてほしい、と。
 既に玉座の間にお越しですので、お早く」

そう言いながら、今度はこちらに背を向けて、クローゼットから紫色の装束を取り出すビアンキを見た陛下は。少しかさついた唇から、深い溜め息を吐いたのであった。


*****


精神安定剤が残る、重い身体を引きずりながら、玉座に辿り着いた陛下が、まず見たのは。何とも豪奢なドレスを纏う美女だった。あれが歌姫とやらなのだろう。が、美醜を他人の評価基準にしない陛下にとって、歌姫の見た目に対して特筆すべきコメントは見当たらない。むしろ、周りの警備についている兵士たちが、彼女の美しさにこぞって鼻の下を伸ばしている様の方が、よほど不愉快だと思える。

「…面を上げよ」

陛下の掠れた声は治っていない。薬効が僅かに残ったが故の舌足らずなトーンと、生来の冷たく低い声が合わさった一声は、玉座の間に静かな波となって広がる。それまで歌姫の美貌に見惚れていた兵士たちが、ハッとしたように、背筋を伸ばした。やっとか…。

歌姫が伏せていた顔を上げる。正面から見ると、やはり煌びやかな印象が強くなる。陛下が無言を以て促すと、歌姫はフッと綺麗に微笑み、彼に向かって一礼した後。そらで歌い始めた。
玉座の間に浸透する、美しい歌声。罪と罰を知る冷たい氷像たちが見守る、その中心で。歌姫は、雪の中で咲く花の優美さと堅牢さと唄う詞を紡ぐ。周りの兵士たちは武器を取り落としそうになるのではないかと言うほど、歌に聞き入っていた。が、肝心の陛下は生気の薄い瞳で、高らかに歌う彼女を眺めているだけ。

間も無く、歌が終わった。誰からともなく拍手が沸き起こり、玉座の間が賑やかになる。歌姫が周囲の兵士たちに会釈して、改めて陛下へと首を垂れる。

すると、玉座の間の袖に控えていた女性の従者が、見事な銀百合の花束を抱えて歩いてきた。歌姫は従者から花束を受け取った後、笑顔を咲き誇らせる。誰もが幸せそうにしているなか、陛下の表情だけは、冷たいままだった。色素の薄い彼の唇が開く。

「素晴らしい歌を、感謝する。
 …聞けば、旅の歌姫らしいな」
「はい、陛下。女ひとり、歌の旅をしています。各地を巡り、僭越ながら、この歌で人々を癒せれば、と願っております」

陛下の呼びかけに、歌姫は笑顔のまま答えた。その様子を見た陛下は、普段からロクに仕事をしていない表情筋をそのままに、言葉を続けた。

「ひとり旅では、苦労も多いだろう。大儀であった。
 …そこ、前へ」 

陛下は簡潔な台詞で歌姫を労うと、おもむろに花束を持ってきた従者を呼ぶ。前へ出てきた従者に陛下が命じる。

「歌姫殿に客間を。それから、温かい食事、湯浴み、…その辺り、適切に頼む。
 …遠路遥々、この冬の国までいらっしゃった。旅の疲れを癒していけばいい」
「ありがたき幸せ。痛み入ります、陛下」

陛下からの慈悲を賜った歌姫が再び首を垂れたのを見た彼は、そのタイミングで玉座から立ち上がった。退室するらしい陛下の意図を汲んだ兵士たちが、武器を持ち直し、最敬礼をする。
そんな兵士たちに陛下は一瞥もくれず、さっさと場を後にしたのだった。


――――…。

【深夜】

睡眠薬で眠っていた陛下は、丸っこい何かが自分の腹をぐりぐりと押す感覚で、薄らと意識を浮上させた。長年の癖で左手に銀の短剣は握ったものの、飲んだ薬の影響で、頭が上手く働かない。しかし、この場に誰かがいる。寝室の主である自分と、セラピー用のイル以外の何物かが。気怠い眠気で殆ど見えていない視界の中、陛下は本能だけで察知した感覚で、気配のする方角へ短剣を投げた。「きゃぁっ!?」という悲鳴が聞こえる。…女だ。
陛下が枕元に置いてあるフラッシュライトを点けて、声がした方を照らす。すると。

「…、やはり、お前か…」

照らされた先に立っていたのは、寝間着姿の歌姫だった。陛下の口からは、想定内、と言った呟きが漏れる。投げた短剣は、彼女の足元に突き刺さっていた。

「申し訳ございません…!陛下のお身体が優れないと、兵士の方々から伺いまして…。先日、とある旅先で頂いた薬湯を煎じて参ったのですが…」
「世迷い言もいい加減にしろ…。さっさと出て行け…」

歌姫の手には証言の通り、漆の盆があり、その上には湯呑みが乗っている。しかし、心を閉ざしたゴッカンの王には、全てが欺きにしか見えない。どうせ、薬湯におかしなものを混ぜ込んだか。果ては、それを理由に鬨を共にする機会を伺っているだけ…。そう考えるが故に、しかと拒絶する陛下だったが。歌姫は食い下がる。

「嘘ではございません…!
 この薬湯には、薬草による精神の鎮静、そして血液を巡りを良好にして、全身を温める効能がありますゆえ…。陛下のお身体に合えばと思い―――」
「―――出て行けと言って、ッ!…ッ、―――…!」
「陛下?!」

歌姫の言葉を聞いて激高しかけた陛下だったが、唐突に恐ろしいまでの眩暈を感じ、その台詞が途切れた。激しい動悸と、急に荒ぶった呼吸で、かなり苦しい。
咳き込む陛下のもとへ、盆をひっくり返さないように、しかし、急いでやってきた歌姫は、サイドテーブルに盆を置き、空いた手で、彼の背中をさする。やめろ、と突き放したい陛下だったが。声が上手く出ず、何も言えない。眩暈も収まらず、視界も定まらない。呼吸がおかしい。

「お医者様を呼んで参ります!それまで待ってて!
 誰か!誰か、陛下の寝室にお医者様を―――…!」

歌姫が廊下に飛び出して叫ぶのを聞きながら、陛下は、自分の気が遠のくを感じたのだった。


――――…。

子守唄が聞こえる。…幼い頃、ルカが同じ唄を歌っていた。でも、ルカではない。ここはザイバーン城で、ンコソパの貧民街ではない。ルカは、もう自分の傍にはいない。自分は独りで、このゴッカンにいるはずで…。
茫と考えては、纏まらない思考回路の合間で。ゆらゆらと揺蕩う、懐かしい旋律。
優しい温度が頬に当たるのを感じたとき。…―――唐突に、覚醒した。咄嗟に、間近に感じる気配から距離を取ろうとする。が。

「いけません!まだ横になっていなくては!」

すごいチカラで引っ張られたかと思えば、起き上がったはずの陛下は、強制的に寝かされた。後頭部に柔らかい感触。視界一杯に広がるのは、歌姫の顔。……考えたくない。…よもや、自分が膝枕をされているなんて…。
だが、聡明な陛下の頭脳は、やたらと冷静だったりする。女に膝枕されていようが、今の現状だけは把握しておきたい。

「…俺は、どれくらい、落ちていた…?」
「完全に眠っていたのは、5分ほど。
 覚えていませんか?陛下は、ちゃんとご自分で薬湯をお飲みになったのですよ
 結局、お医者様はいらっしゃらなくて…。何とか薬湯だけでも思い、すすめたら。陛下は、一口ずつ、ゆっくりですが、きちんと飲み始めて…」
「…知らん、なんだそれ…、こわ…」
「あらまあ。泣く子も黙る裁判長様にも、怖いものがあるんですね」
「…。」

陛下と歌姫の応酬。何だか彼女のキャラが違う気もするが、陛下はツッコむことは野暮と考えた。それよりも。

「ドットーレ・ビアンキは…、いるはずなんだがな…」
「え?ですが、私が助けを求めた兵士の方々は、お医者様のことは今はお呼び出来ない、と仰っていましたが…?」

ビアンキ医師は、住み込みだ。王城に併設されている従者用の寮にいる。陛下に何かあれば、すぐに駆けつけられるように、と。だが、歌姫が助けを求めた兵士たちは、ビアンキを寮の部屋まで呼びに行かなかった。それが指し示す真実。

「あいつらめ…、とうとう外聞も気にしなくなったか…」
「…、あの、失礼を承知でお聞きします…。私、陛下が1年後に退位されるという話を聞いたんです。…もしや、それが原因だったりしますか…?」
「…ああ」

陛下の言葉に、歌姫は瞠目する。予想していた範囲の中で、一番悪いニュースを聞いた、とばかりの表情だった。

「そんな…!王を支えてこその民なのに…!王が不調で倒れても、ほったらかしなんて…!」
「…この国の者たちは皆…、…1年後にお役御免になる王などに、いちいち構っていられなくなっただけだ…」

陛下は1年後に玉座を去るうえに、最近は体調不良でしょっちゅう倒れている。最初は周囲もそんな彼を憐れんで、手を差し伸べていたが。同情や憐憫と共に向けられる、奇異と好奇心、果ては心の奥底に隠している侮蔑を、陛下は敏感に感じ取り。医務官、ひいては、ビアンキ以外の、全てを拒絶した。そのせいで、いつしか、陛下は周囲からすっかり見放されて。遂には、夜中に体調が急変しても、医者を呼んですら貰えない状況を作っていた。本来ならば、警護をしている兵士が、王の寝室に、客である歌姫を無断で通すこともあり得ない。しかしそれは、彼女が良からぬことをしでかした結果、陛下に万が一のことが襲ったとしても、あずかり知らずという態度の現れ。忠誠心など最早、微塵も抱かれていないし、陛下もまた、兵士たちに信頼など寄せていない。忠義と共に士気を失い、目先の美女に腑抜けになる兵士たちなど、陛下には不要だった。
だが、彼は周りを責めない。全ての責任を負うのは、自分自身と決めている。…何故なら、自分は、この国の王。民の心を把握できないのも、王たる自分が失墜したことを示す。王は国、国は民。民たちの振る舞いは、王である陛下自身が持つ『拒絶の心』が生んだもの。

…ここまでの話を、数分ほどかけて。陛下は歌姫に説明をした。普段なら、己の内情に踏み込まれることを嫌う陛下だが。どうせ彼女は、明日明後日には、ここを去る。旅先での笑い話と持っていけばいい、とすら思いながら、陛下は歌姫に、話して聞かせてみせた。すると。

ぽたり、と陛下の頬に、暖かい雫が落ちてきた。歌姫の、涙。その哀しみの徴とて、美しい顔を彩る宝石のようで。

「……同情したか。それか、情けないと見下げ果てたか?」
「違う、違います…っ。つらくて…。こんなのつらすぎる…!」

陛下の自嘲に、歌姫は声を震わせて、涙する。我がことのように哀しむ。しかし、その姿を見ていると、陛下の胸の内がざわつく。本能が警鐘を鳴らす。この国に来てから培われてきた悪癖の刃が、ちらつく。

「全て俺の、…他人のことだろう?お前がつらくなることはない。歌姫故に感受性が高いのだろうが…、それでは身が持たないぞ。
 …明日明後日には、ここを去れ。…これ以上の干渉は、やめろ」

陛下が紡いだのは、拒絶の言葉。幾度となく、数え切れぬほど、周囲に向けて振るってきた刃の如き。崩せない壁にして、埋まらない溝。自分の心を守りたいと、無自覚に願った先に手に入れた、不器用な感情のパズルピース。
これで彼女も、自分の眼の前から消える。陛下がそう思ったときだった。歌姫は、未だ涙を滲ませつつも、凛とした瞳で彼を射抜き、唇を開く。

「…陛下。どうか…、私まで拒むのはやめてください。
 
 ―――…私は、受け止めますから」

「――――…ッ、…!」

今度は、陛下が瞠目する番だった。歌姫が続ける。

「独りだと言わないで。全部を拒んで、諦めないで。
 陛下のことは、これから私がお世話をしながら、支えます。陛下が抱えている心の影を祓うことは出来ないかもしれないけれど…、それでも、せめて、あなた様が孤独に震え、誰にも助けを求められないような状況には、もう二度とさせません」

凛とした声は、本来ならば歌として紡がれるべきもの。しかし、眼前の歌姫は、本職の旋律ではなく、陛下の世話をすると宣言した。突然のことに混乱して、上手く反応が出来ない陛下に対して、彼女は微笑んでみせた。

「退位後にお引越しする、離宮でのお世話係を募集していましたよね?私、それに立候補します。なので、明日からでも下積みとして、陛下のお傍で修行させてください」

歌姫の提案に、陛下はもう何も言えなかった。いや、せめて、是非くらいは下さなくてはなるまい。求人を出している離宮での世話係の募集率が壊滅的なのは、陛下とて知っている。それに自ら立候補するとまで直談判をしてきた人物が、眼の前にいるのだ。

「……………好きにしろ…」

…とはいえ。結局、突き放すような、受け入れるような。どっちつかずの返事しか、陛下には発せられなかった。拒絶とか、本能とか、そういうものは、歌姫から齎された衝撃で遥か彼方に飛んでいってしまった。今はもう、何も難しいことを考えたくない。どうせ、彼女は一時の感情に流されているに過ぎないのだろうし。放っておけば、飽きるか、愛想を尽かすかで、勝手に出ていくだろう。と、そんな風に考えている始末。
陛下が重い溜め息を吐きそうになっているところで、不意に歌姫が視線を部屋の隅に移して、問うてきた。

「ところで、陛下。ひとつ、質問が…」
「なんだ?」
「先ほどから、部屋の隅っこで眠っている、あの可愛い白い毛玉は、一体、何でしょうか?」

………忘れていた。イルだ。そう言えば、歌姫が寝室に入ってきた時点で、陛下の腹をぐりぐりと押して、起こしてきたのも、イルのはずだ。きっと諸々の出来事のせいで、あの丸い身体がころころと転がっていったのだろう。しかし、部屋の隅に追いやられても尚、眠るとは…。図太いというか、厚かましいというか。

「あれは、イルと言う。俺が飼っている、セラピー用の愛玩生命体で、…まあ、要するに、ペットだ」

くぅくぅと呑気に眠るイルの姿を横目に見ていると、詳しく説明する気も失せる。

さすがに眠たい。寝たい。休みたい。と心の底から思った陛下は、「今日はもう下がれ。俺は寝る」と言った。命じられた歌姫は、「かしこまりました。では、また明日」と言いながら、盆と、空になった湯呑みを持って、興味深そうにイルを見ながらも、ささっと退室していった。

「…イル」

試しにイルを呼ぶ。が、起きる気配が無い。完全に眠りこけているようだ。もういい、放っておこう。

せめて。何も怖くない夢を見たい、もしくは、夢を見ないほど眠りたい。と、心密かに願いながら。陛下は、深い溜め息を吐くと同時に、両目を閉じたのだった。




to be continued...
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