第三章 『Perfect BLACK SWAN』

月曜日。午前9時02分。
通勤ラッシュが比較的収まった道路を、ROG. COMPANYのロゴが入ったリムジンが往く。その車内には、ソラ、ツバサ、ナオトがいた。

先週の土曜日の夜。ツバサとナオトは、各々、ソラから個別で連絡を受けた。

『月曜日は、Room EL全員で外回りとなる。社用車で迎えに行くから、各自指定した場所まで、時刻通りに来るように。以上。』とのことだった。
そして、ツバサとナオトは、それぞれの場所でリムジンに拾われて、今に至る。

道中は少し長いため、朝食を始めとした、その他飲食は車内で自由にとって良いとされていたので。3人は向かい合った状態で座りながら、各自の食事を済ませている真っ最中。
設置されたモニターでは、朝のニュースが終わり、タレントや芸人などが出演するワイドショーに切り替わろうとしている。番組のタイトルコールが映った瞬間、ツバサは、う…、と内心、げっそりした。彼女が個人的に苦手意識を感じている、ファッションモデルが出演する番組だった。あのひとのコメントは聞きたくない…。
すると、モニターがブルースケールになったかと思うと、ヒルカリオ専用のFMラジオが流れ始めた。朝一番の爽やかな音楽番組。DJの軽快なトークが聞こえてくる。

「すまない。あのワイドショーに出ているモデルの一挙手一投足が、個人的に気に食わなくてな」

チャンネルを替えたらしいソラがリモコンを持ったまま、平然とそう言った。ナオトも「同意見です」と言いながら、自分のタンブラーに口を付けている。かのファッションモデルを苦手としているのは、どうやら自分だけじゃないらしい、と分かったツバサは。何となく、ホッとした気分になった。直接面識のない他人、ましてやテレビに出るようなエンターテイナーとはいえ、顔も名前も知っているひとを嫌う、というのは、些か心苦しいものだ。とはいえ、ツバサは別に博愛主義者でもない。嫌いなモノは嫌い、とはっきり言える姿勢の持ち主である。

DJのトークに合わせて流れてくる、ジャズのリズムに乗って。リムジンは静かに道路を征くのであった。


*****


車内でそんなやり取りをして、20分ほど経った後。リムジンはヒルカリオのかなり外れた区画に入っていた。ツバサが興味本位で窓の外を眺めると、そこから見えたのは、巨大な工場地区。
守衛と警備員に固く守られた門を潜り、リムジンが一番大きな施設に吸い込まれる。
すると、すぐに、リムジンは立体駐車場に入ってしまった。どうやら、外からは、ここの出入りが殆ど見えない形にされているようだ。

「到着だ。降りる際は、くれぐれもお手回りに気を付けてくれ。此処は車が一度、車庫に入ると、急には出せない仕組みになっているのでな」

ソラがそう言いながら先んじて降り、ツバサとナオトも続く。3人とも忘れ物はない。運転手も、今一度、車内をチェックした後、車に鍵を掛ける。
そして、リムジンが昇降機によって上げられて、立体車庫に入れられるのを後ろに、ソラ、ツバサ、ナオトは、すぐ近くの扉から施設内に入った。すると。

「おかえりなさいませー、ご主人様、…っと?あれ?来客なんて、ありましたっけ?」

長い金髪のツインテールが一際、目を引く、ジャージメイド風の格好をした少女が、3人を出迎えた。突然のことに、ツバサとナオトは少し驚く。メイドの少女は、手元のファイルを検めるように見ると、「やっぱり、今日の出迎え予定、ソラ先輩だけっすねー」と、どこか無気力に零した。それを聞いたソラは、少女に問う。

「こちらは事前に用件を伝えている。お前に正確に指示が降りてきていないのであれば、…まあ、それも仕方がない。申し送りは、所詮は、人力だ。
 …だが、客の出迎えと、最低限の接待は、セイラ、お前に与えられた仕事だ。だから、今すぐに、ツバサとナオトのための控え室を用意してくれ。出来るな?」
「りょっち。お部屋、分けた方がいいっすよね?」

セイラと呼ばれたメイドは、かなり砕けた口調で返事をする。が、ソラは特にそれを咎める気配がない。ふたりの会話が続く。

「ああ。その通りだ。頼む。エルイーネ主任へは、此処から直接伺う。セイラは控え室の確保を優先してくれ。それが済んだら、合流するように」
「ほーい。じゃあ、一旦、失礼しまっす」

ソラの的確な指示を受けたセイラは、やはり無気力そうで、砕けすぎな口調で応対すると。従業員用の通用口へと消えて行った。

「申し送りに不備があったようだ。すぐに控え室に通せなかったのは、すまなかった。
 だが、セイラならば問題ない。態度は無気力でも、仕事は臨機応変に、且つ、迅速にこなせる子だ。…さあ、まずは、ここの主任へ挨拶に行こう」

ソラがツバサとナオトに話している間に、ロボット兵士が2体、3人の傍に寄ってきていた。…グレイス隊ではない。防弾ジャケットには、『LEONE』(レオーネ)と刻印されている。どうやら、グレイス隊とは別部隊のようだ。武装もグレイス隊のような銃武器ではなく、この2体は腰に片手剣を提げている。

『ご案内します。どうぞ、こちらへ』

ロボット兵が無機質なボイスで喋り、3人を先導し始めた。


*****


3人が案内されたのは、ラボだった。『第1区画』のプレートが掲げられた、重厚な扉を潜り、中へと入る。

巨大なモニターが並ぶ中心部に集まっている何人かのグループめがけて、ソラが真っ直ぐ歩いていく。彼はツバサとナオトの方に振り向くと、「少し待っていてくれ」と制し、自身はそのまま中心部へと向かった。ツバサとナオトは指示の通り、その場で待つ。ロボット兵2体も、ふたりの脇を固めて、同じく待機の姿勢に入った。

「特殊対応室のソラです。エルイーネ主任、お世話になります」

ソラの口から、形ばかりの敬語が出てきた。必要最低限の挨拶もこなせないなど、社会人としては大失格である。例えそれが、身内であっても。

エルイーネと呼ばれた白衣の女性は、黒縁眼鏡を押し上げながら、ソラへと振り返る。綺麗に切り揃えられた茶髪と、泣きぼくろが印象的だ。

「こちらこそ、ソラ秘書官。
 早速ですが、アルバイトが失礼を働いたようで。申し訳ございませんわ」

気の強そうな印象を持つエルイーネだが、彼女は申し訳無さそうに、眉を下げながら、ソラに謝罪する。先ほどのセイラのことを言っているのだと分かった。しかし、ソラは特に気にした素振りは見せず、しかし、エルイーネの態度に逆らうかのような、毅然とした口調で、彼女に言葉を投げた。

「セイラはすぐにフォローに回ってくれた。…それに、彼女に不手際があるようには見えない。
 それよりも、前にもセイラに対して、申し送りの不備があったのは、記憶に新しい。…どうにも、此処の方々は、伝言ゲームが苦手か?」
「…。リーダーとして、きちんと指導させていただきます」
「お願いします」

エルイーネは主任と呼ばれるからには、このラボでは一番高い地位にいるはず。それを臆することなく、己の意見を貫くソラの強かさ。少し遠巻きに見ながらも、ツバサとナオトは、改めて、ソラの強さを思い知る。すると。

「うぃーっす。控え室、ご用意できましたよーっと」

ふらりと、そして気配なく、セイラがふたりの横から現れた。それを見たのか、ソラがこちらを見て、手招きをする。ツバサとナオトは前に進んだ。セイラとロボット兵たちも後に続いてくる。

「紹介する。事務員のツバサ、そして更生プログラムで出向中のナオト先生だ」

ソラがエルイーネに、ふたりのことを簡単に説明した。まずはツバサから口を開く。

「はじめまして。特殊対応室 三級高等幹部直属事務員のツバサです」
「お世話になります。ご紹介に預かりました、鈴ヶ原ナオトです。医者です」

ナオトもすかさず自己紹介を挟んだ。

「当ラボ、KALAS(カラス)の主任を務めています。エルイーネ・スコットです。どうぞよろしくお願いします」

ふたりからの挨拶を受けたエルイーネは、自身の職位を明かす。気の強そうな切れ長の瞳は、ツバサとナオトを鋭く観察しているかにも見えた。そして、エルイーネはセイラに向き直る。

「こちら側に不手際があったようで、ごめんなさい。余計な仕事を増やしてしまったわね、セイラ」
「問題ないっすよ、主任。ちゃちゃっと、やっちゃったんで。それに、お客様の控え室を用意するのは、余計な仕事でも何でもないんで」
「…そうね。貴女ほど優秀な子、アルバイトにさせておくのが、勿体ないわ」

その瞬間、ツバサは、あ、と胸中で思った。エルイーネは、この会話に不快感を感じている、と。瞬時に悟った。セイラが横で無気力に言葉を続ける。

「あ、正社員は結構なんで。此処、ブラックだから」
「! こら、おやめなさい!特殊対応室の方々の前ですよ!」

セイラの台詞に対して、エルイーネが叱責する。が、ソラが手と目線で制した。

「正直でよろしい。だが、セイラ、公共の場での発言のTPOは、考えるべきだ。
 すまない、主任。後で、俺の方から、きちんと言いきかせておく。セイラの雇用主は、あくまで俺なのでな」
「…ええ、まあ、ソラ秘書官がそう仰るなら…」

ソラの言葉を聞いたエルイーネは、潔く引く。が、ツバサは見逃さない。モニターの方へ資料を取りに行く彼女が、一瞬だけ、セイラに向かって激しい嫌悪の視線を向けたことを。
だが、そんなことは気が付かなかったとばかりに、ツバサはソラに視線を戻した。此処では、どうやらツバサとナオトの併せて、来客扱い。指示を待つには、ソラを見るしか無い。すると、視線が交叉したソラが、ツバサに対して、口を開いた。

「…。ツバサ。お前、時折、軍人みたいな所作をするな」
「…? そうでしょうか…?」
「ああ、指示を待つにあたって、上司と目を合わせるとか。自己紹介ひとつ取っても、同じ空間にいる人物のなかの序列を、きちんと把握しているとか。…まあ、些細なことだ。…、気を悪くしないでくれる助かるんだが…」

ああ、なるほど。と、ツバサは納得した。気を悪くするどころか、それには心当たりしかない。ツバサはソラに、己の緑眼を真っ直ぐに向けながら、釈明する。

「大丈夫です…。それでしたら、私自身にも、心当たりがありますので…」
「そうなのか?例えば?」
「はい。高校時代、私はサッカー部に所属していたので…。その時に、運動部特有の上下関係だったり、レギュラー陣同士での振る舞いだったりなど、…色々と教わったので…」

説明通り、ツバサは高校時代、サッカー部員だった。それを聞いたソラが意外そうな顔をする。一方、ナオトはセイラと何か話し始めており、こちらの会話とは違う空間を確立しているようだ。
ソラが納得したように言う。

「そうか。なるほどな。
 しかし、お前はサッカー部だったのか。実は、俺もサッカー部だった」
「え、そうなんですか…?」
「ああ。俺たちはぴったり3歳違うから、学年がすれ違ったんだろう。実際、聖クロス学園とは何度も試合をしたことがあるが、ツバサの姿は見たことがないからな」

言われてみれば、ソラとツバサは3年、歳が離れている。ソラが27歳。ツバサが24歳。…このひとは、27歳には見えない。というか、年齢不詳と言っても、差し支えない気もする。と、ツバサは密かに思った。…もっと見た目の年齢が謎すぎる医者が、隣にいる気もするけれど…。とか、考えてもみたり。
しかし、そんなことは微塵も外には出さず、ツバサはソラと何気ない会話を繋いだ。

「そうですね…。私もソラさんのお話は、何処からも聞いたことがありません…。
 …あれ?そう言えば、ソラさんは、高校はどちらですか…?」
「ん?言っていなかったか?
 俺は、神越高校の出身だ」
「か、かみごえ…っ?!…きょ、強豪校ですね…」

ソラが答えた、神越高校(かみごえこうこう)と言えば。サッカー部の強豪校、…どころの騒ぎではない。ヒルカリオに近い本土の高校の中では、トップクラスの偏差値と規模を誇る、超名門高校だ。

当時の偏差値で考えるならば、ツバサは神越高校に進学が出来る範囲にはいた。ただ、ツバサが世話になっていた養護院では、圧倒的に資金力が不足していて、それは叶わなかった。そのことを養護院の院長からは謝罪を受けたが、ツバサは気にせずに、自分の出来ること、すなわち受験勉強に奮闘して。見事、一般の入学試験で、聖クロス学園への入学を勝ち取った。…一応、神越高校の入学試験も受けたのだが。残念な結果を見た、とだけ伝えておく。

「ソラさん、ポジションは…?」
「俺は、ミッドフィールダーだった。ツバサは?」
「私は―――」

ツバサとソラの間で、サッカー部談義に花が咲こうとしたところだったが。

「―――お待たせしております。ルカ様との、ご面談の許可が降りました」

エルイーネの台詞が割って入ってきた。その声音は、何処か嬉々としている調子にも聞こえる。

「今、ルカ様のお部屋へ、ご案内を―――、って、あ、あら…?!移動なされている?!え、こっちに…!?」

タブレット端末を見たエルイーネが、素っ頓狂な声を上げながら、あたふたとし始めた。

ソラとセイラ、そしてロボット兵が、同時にラボの出入り口に視線を移した、その瞬間。

「あ〜!やっぱり〜!皆いるじゃ〜ん!やっほぉ〜!」

開いた扉の向こうから、現れた長駆。聞き慣れた、艶のある低い声。――――、ルカだ。

「これはまた…、随分と思い切りましたね…」
「…ええ…、同意見です…」

入ってきたルカの姿を見たナオトとツバサは、漠然としたコメントを残す。それもそのはず。アイデンティティーといっても過言ではなかったルカの、あの鬼のような長さを誇る、ロングポニーテールが。今は、ばっさりと、襟足が覗くような短さまで、切り揃えられていたのだから。

「ようこそ、KALASへ♪
 アリスちゃんとナオトは、もう此処の説明は聞いてる?――――あ、その顔は聞いてなさそうだねっ。おっけぇ、把握〜♪」

いつものようなカラリしたテンションと、フランクな口調で流れを作ったルカは。そのまま、ごく自然と、ツバサの肩を抱いた。Room EL内では、これくらいのスキンシップは、割と日常であるため、何も違和感は無い。――――はずだったが。

「る、ルカ様ッ?!…そ、それは、あのッ…!せ、セクハラでは…ッ?!」

エルイーネが、心底驚愕した表情で、ルカと、彼に肩を抱かれているツバサを交互に見やりながら、震える声を出す。

「ん?そうだったの?アリスちゃん?」
「? いいえ。私は特に、何も…。ルカは、これくらいの距離感が普通だとばかり…」

ルカがツバサに確認をするも、ツバサは思っていることを正直に答えるだけ。彼女にとって、ルカからの愛情過多のきらいがあるスキンシップは、セクシュアルハラスメントには値しないものだ。部下として、そして、ひとりの人間として、心から大切に扱われているのが、分かっているから。

「そ、そうですか…。それは、その、結構なことですね」

そう答えるエルイーネの目線は、微妙に泳いでいる。何とか平常心を保とうと必死になっているのが、分かった。

「エルイーネ。此処のこと、ちゃんとアリスちゃんとナオトに説明してあげて?ふたりともいい子だから、待て、が出来るタイプだケド。そろそろ説明してあげないと、さすがに不親切だよ?
 それどころか、ふたりの控え室も用意してあげてなかったどころか、セイラへの申し送りすら、不備があったみたいだし?」
「…! も、申し訳ございません、ルカ様…!
 ですが、まさか、もう、お耳に入っているとは思わず…」
「オレへの釈明はいらないよ。ほら、自分のお仕事、ちゃんとこなしてね?」

ルカに対して、身を縮こませるエルイーネ。どうやら、気の強そうな彼女でも、彼には相当、頭が上がらないらしい。ルカ自身は元々、会社でも上の立場に立っている存在故か、叱責や注意、催促は手慣れている。
気を持ち直したらしいエルイーネが、こほん、とひとつ咳払いをして。改めて、ツバサとナオトに向き直った。

「では、改めまして。KALASの主任、エルイーネです。よろしくお願いします。
 この施設は、ルカ様の調整、開発、バックアップ業務を行う、彼専用のラボと整備施設になります。
 稼働時間は24時間365日の、年中無休。総従業員数は122人。うち、正社員は121人となり、あとひとりはアルバイトです。門を守っている守衛と警備員たちは、トルバドール・セキュリティーから直接派遣されている人材のため、ここの社員としては、カウントされておりません」

エルイーネの流れるような説明を受けていたツバサとナオトだが、妙に引っかかる点を覚える。…いや、前々から、薄っすらと勘づいてはいたのだが。

「ルカさんは、やはり、人間ではないんですね?
 こちらの施設の目的が、彼の整備、開発、バックアップということは、…ルカさんは、文字通り、身体に機械的な部分をお持ちである、という認識でよろしいでしょうか?」

ナオトがエルイーネに質問を飛ばす。その内容は実に的確でありつつも、デリケートな言葉は隠してある。医者という肩書きも、彼自身の人生経験も、伊達ではない。
エルイーネが答える。

「はい、その通りです。ルカ様は、この世界線にふたりといない、最強の戦闘用の機械的生命体です」
「より分かりやすく言うなら、軍事兵器だね~。さすがにオレ単騎では、ミサイルなんかは撃てないケドね~」

何故か自分が誇らしげに言うエルイーネに続いて、ルカが冷静に補足をする。ツバサとナオトの胸中には揃って、やはりそうか…、という思いが去来した。

右藤さゆりの案件の際、ツバサがいる場でローザリンデがルカに対して「軍事兵器」と称したこと。
オーバーミラーの最終幕で、こちら側に飛来してきた鉄骨を、左ストレート一発で木っ端微塵にしたこと。
その他、ルカが見せる、人間味の薄い、もしくは、人間では考え至らないような言動の数々…。

これらを統合して、少しの時間でも思考すれば。『ルカが人間ではない』という答えには、簡単に行き着く。

「私は、ルカ様のためにある、このKALASで主任を命じられている以上、ルカ様には決して不利益の無い仕事を遂行します。
 そのための、この施設だと思っておりますので」

エルイーネが意志の強い瞳で、ツバサとナオトを見ながら。堂々と宣言をする。

「志が高いようで、大変ご立派ですね。僕も医者の端くれですから、そのお気持ちは理解できます」
「ありがとうございます、鈴ヶ原先生。専門性の高い貴方様にそう仰って頂けると、励みになります」

ナオトの素直な称賛に、エルイーネはにっこりと笑って返した。すると、ソラが口を開く。

「ツバサとナオト先生には、ルカに関連した情報を、こちらから更に詳しく説明したい。なので、そろそろ、ふたりを控え室に案内させて貰う」
「ええ、勿論です。…では、また後ほど」

ソラの提言に、エルイーネは更に笑って答えてから。ラボを後にする一団を見送った。

…だが、その視線は。ごく自然とルカに腕を引かれている、ツバサの背中を凝視していて。

皆の姿が、扉の向こうに消えた瞬間。

エルイーネは持っていたタブレット端末を、激しい勢いで、床に叩きつけた。周囲のスタッフは、ギョッとして彼女を見やるが。すぐさま、ああまたか…、と言わんばかりの表情になって。各々の仕事に戻った。

床に叩きつけたタブレット端末をそのままに。エルイーネは中心部にある自分のデスクへと帰る。明らかに苛立っており、真っ赤な口紅を引いた唇からは、ブツブツと独り言を零している。だが、それは誰にも拾われない。拾われるわけがないのであった。



to be continued...
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