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図書室の奥の奥にある古びた魔法史に関する棚の脇。学生のほとんどは古臭くて分厚い魔法史書なんてまるで興味がないものだから誰にも邪魔されず陽当たりも独り占めできる最高の席。そこは私だけが知っているちょっとした隠れスポットのようなところだった。
ただ、今日だけはいつもと少し違っていた。
『あ…』
いつもの席、いつもの時間。
いくつかの本棚を通り抜けて私がその席までやって来ると普段使っている特等席に長身の赤毛がうつらうつらと揺れていた。
『…ジョージ・ウィーズリー 、』
なぜ彼がこんなところにいるのだろうと思いながら私はいつもの席を諦めてその正面へそっと腰を下ろした。
『……』
…集中できない。拡げては見たものの一向にやる気の起きない課題の上に両手で頬杖をついて私は小さくため息を溢す。
『…ねぇ、あなたどうしてここにいるの?』
答えなんて聞こえるはずもなく、目の前の赤毛は相変わらず規則正しくふわふわと揺れていた。
彼、ジョージ・ウィーズリーとは1度、たった1度だけ言葉を交わしたことがある。
ーー手伝おうか?ーー
私が入学する年の9月1日のホグワーツ特急のなかで。マグル生まれで魔法使いに顔見知りなんているはずもないひとりぼっちの私が、上棚にトランクをしまえず困っていたときに声をかけてくれた。
ーー…ありがとうーー
ーーまた何か困ったことがあったら言えよーー
そう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でて笑ったその人懐っこい笑顔を今もまだ覚えている。
彼が消えていく廊下をこっそりと覗き込んで楽しそうに跳ねる赤毛をいつまでも目に焼き付けていたっけ。
あの日からずっと一途に想いを抱いていた。
あとから同じ顔の片割れがいることを知って驚いたけど、1度だって見間違えたことはない。それは勿論この人のことしか見てきてないから。
こんなに近くで彼を見れたのは四年前のあの時以来。
ああ、太陽の光が反射してきらきらと輝く赤毛が綺麗だなぁ…。
触れてみたい、なんて欲張りだろうか。
寮も学年も違う彼とお近づきになれるチャンスなんて早々巡り会えるものではない。こうして目の前にすることが出来ただけできっと奇跡に近い。
ちらりと彼を盗み見るけど、やっぱり起きる気配はない。
…ねぇ、触れてみても、いい?
『…少しだけ、』
ついには自分の欲に負けて私はゆっくりと手を伸ばした。
さっきからうるさい胸の鼓動が直接分かるみたいに私の指も小刻みに震えてる。
つん、と震える指先がその赤毛に触れたその瞬間。その一瞬をずっと待っていたかのように手首を掴まれた。
『…!』
「やっと掴まえた」
さっきまで長い睫毛が伏せていたその瞳はひどく近くでくりくりと私を捉えていて、私が咄嗟に謝ろうとするとそれを制するように彼が口を開く。
「なんで俺がここにいたか気になる?」
『…お、起きてたの?』
さっき自分がした質問をそのままオウム返しにされ私が顔を真っ赤にさせると、
ジョージ・ウィーズリーは満足そうに口の端を吊り上げる。
「それは多分、君が考えてることと同じ理由だよ」
『え…?』
その言葉を反芻するよりも先に捕まった手をそのままぐいと引っ張られて、すぐ耳元で声がした。
「君に触れてみたかったんだ」
どんどんと速くなる胸の鼓動を抑えてゆっくりと視線を上げれば、
いつかみた人懐っこい笑顔。
(君は覚えてないかもしれないけど、初めて汽車で話したときから君のことが気になって仕方なかった)
きっと私は今、多分あの時と同じ顔。
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