SilverRingに口付けを
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土曜の昼下がり、ナマエは湖の端にあるブナの木の陰に隠れ一人本を読んでいた。
『…?』
ふいに本の影からよく磨かれた綺麗な靴が映り込み、彼女はやっと自分の前に人が立っていたことに気付いた。
「ナマエ、」
ナマエがゆっくり顔を見上げると、自分の名前を呼んだその人は少しだけ機嫌が悪そうに眉を寄せている。
『シリウス』
「こんなところにいたのか」
彼女は読んでいた頁にしおりを挟むと、申し訳なさそうに本を閉じた。
『ごめんね、探した?』
「…どこか行くときは声をかけろ。急にいなくなったら気になるだろ」
彼はぶっきらぼうに答えると彼女の膝を枕にするようにしてそのまま無造作に寝転がった。
ナマエは何も言わずに来てしまったことに少しだけ罪悪感を感じて、そして思わず小さく笑った。
分け目から覗く額にじんわりと汗が光っている。
言葉にはしないが、時間をかけて自分のことを探してくれていたのが分かった。
『ありがとう、シリウス』
「…ふん」
愛しい気持ちを伝えるように、ナマエが自分の膝の上にある綺麗な黒髪を優しく撫でると、シリウスはそっと目を閉じて素直にそれを受け入れる。
ぽかぽかとした日差しと優しい風がとても心地よく、二人の時間だけがゆっくりと流れるようだった。
どれくらい経っただろうか。
ふいにざわざわと生徒たちの集団が城から出てくる声が聞こえてきた。
「おーい、パッドフット!ナマエ!!あとで面白いもの見せてやるからお前たちも競技場来いよ!!」
集団の先頭から声が響き、すぐにそれがジェームスのものだと分かる。後から続くルーピンとピーターもこちらに気付き、手を振っていた。
シリウスはというと体勢もそのままに目を開けることすらせず返事の代わりといって片手をひらひらとさせるだけだったが、
三人はシリウスに軽いブーイングに似たリアクションをしながらも楽しそうに競技場へ向かっていった。
ナマエはそんなやりとりを微笑ましく見ながら膝に横たわる彼の分もと笑顔で手を振り見送った。
彼らの姿が見えなくなってからだった。
ジェームズの後ろについていた集団から漏れた数グループの女子たちが遠巻きにこちらへ視線を送っているのがわかった。
シリウスの名前を挙げて黄色い声を溢す者、明らかに自分に向けて敵意を向ける者、彼女たちの反応は様々ではあるものの、そのどれもがナマエにとっては気持ちの良いものではない。
ナマエはぎくりと身体を強張らせ、気圧されるようにして反射的にシリウスの頭から手を離してしまう。
それに気付いたシリウスが薄目を開けると、視線を俯かせた彼女と目が合い、彼女は申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
『…シリウスは人気者だね』
彼女が視線を反らした場所をシリウスが横目に見れば、群れのようにくっつき合う女子たちがキンキンと甲高い声をあげて、彼の名前を叫んだり手を振ったりしている。シリウスはあからさまに眉を寄せた。
「別に興味ない」
まるで不快なものを見るようにそれらを一瞥すると彼は行き場をなくして手持ち無沙汰に本の表紙や芝生の上へと滑らせていたナマエの左手を自分の左手で覆うようにして握りしめた。
『…?』
「それに俺、」
重なる二つの甲がきちんと彼女に見えるように自分の顔の前へと掲げ、そのまま続ける。
「自分が誰のものかぐらい、ちゃんとわかってるつもりだけど?」
シンプルな銀の指輪が二つ、並んで同じ色に輝いていた。
ナマエがシリウスを見ると真剣な灰色の瞳がまっすぐと自分を捉えている。
『…もう、シリウスはものじゃないでしょ…?』
込み上げる涙をぐっとのみこんでやっとの思いで言葉を紡げば、シリウスはふっと笑い繋いだままの左手で彼女の目尻を優しく撫でた。
「いいんだよ。俺が俺の意思でそうなりたいと思ったんだ。だから、お前も変な心配をするな」
『…シリウス…』
「俺は、お前だけのものだ。」
その言葉についに溢れる涙を抑えることが出来ず、##NINE##は『…うん、…うん…、』とただただ頷いていた。
シリウスのことを心の底から愛している。その気持ちに嘘偽りなんて一つもない。
けれど、校内でも特に有名でみんなの憧れの的である彼の隣にいるのが私なんかで本当にいいのか。
ずっと、引け目のようなものを感じていた。
自分に自信がないからこそ誰かの目に映るのが恐くて堪らなくて、出来るだけ人目につかぬようにと無意識的に逃げていたこと、きっと彼は全て気付いていたのだろう。
シリウスはいつでも自分のことだけを考えていたのに、
自分は周りの目ばかり気にして馬鹿みたいだとナマエは思った。
「髪、」
『…え?』
ふいに聞こえた声に赤くなった鼻を啜りながらナマエが聞き返す。
「お前に撫でられるの好きなんだ」
だから続けて、と催促するようにシリウスは目を瞑った。
『…ん』
ナマエが再び彼の黒髪に触れると
少し離れたところから女の子達の息を呑むような声が聞こえた。
その声に反射的に彼女の手は固まったが、シリウスが心配そうに目を開けると『もう大丈夫』と彼の髪を優しく撫でて笑った。
シリウスは嬉しそうに口元を歪ませて、そしてたまらず彼女の襟を引っ張り素早く唇を奪った。
『…!?』
その瞬間周辺一体に女の子たちの甲高い悲鳴がつんざいて、シリウスはそれさえも満足そうに歯を見せて笑っていた。
そんな彼を見て、ナマエもまた顔を紅く染めながら小さくはにかんだ。
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(シリウスって意外と甘えん坊なんだね)
(世間ではツンデレって言うらしいよ)
(…うるせー)
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