さよなら初恋
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生まれて始めての恋だった。
始めて彼女を見つけたその日から、長く短い片想い。
「うん、似合ってる」
『ありがとうジョージ』
その彼女が、今日、結婚する。
「おい、準備出来たか?」
聞き覚えのある声に振り返れば、
そこには俺と同じ顔が白いタキシード姿をしてなんとも様になる格好で立っていた。
『フレッド!』
「んー…まぁ、馬子にも衣装ってやつだな。なにしろ見立ててやった俺のセンスが秀逸だ」
『あっ!ひっどい!!今日くらい素直に誉めなさいよ!』
「痛てっ!ハハ、似合ってる!似合ってるよ!!悪かったって…!」
自分たちの今の格好も忘れていつものようにじゃれあう二人。そんな姿を見ているとつい学生時代を思い出してしまう。いつも二人が些細なことで言い合ってそれを俺がやれやれと宥めに入った。…どんな時でもすぐ近くに彼女がいて、相棒がいて、それがいつまでも続く気がしていた青臭い日々だ。
「おいおい、お前ら折角の晴れ着が駄目になるぞ、」
いつもの調子で二人の間に入ろうとして、足を止めた。
フレッドがナマエを見つめるその瞳が、いつかの学生の時とは明らかに違うものだと気付いたからだった。
「…ったく、今日くらいお転婆もほどほどにしておけよ?」
フレッドがナマエの頬に唇を寄せれば、彼女はさっきまでの勢いをいとも簡単に失ってしまう。
ああ、そんな顔 俺の前では一度だってしたことない。
「んじゃ先に下行ってるぞ。いいか、学生の時みたいに遅刻なんかしてくれるなよ?」
『ば、バカ!しないったら!!』
最後に彼女の頭をぽんと撫でるとフレッドは悪戯な笑顔を残して階段を下っていった。
いつもよりも大人びて見えたその背中が嬉しそうに弾んで消えていく。
隣を盗み見れば、ナマエが頬を膨らませながらもフレッドの消えていった廊下を愛しそうに見つめていた。
『もー…!』
「まぁまぁ、相棒も照れてるんだ。許してやって」
『そうかなー』
「気付かなかったのか?あいつ、耳が真っ赤だったぜ」
俺がそういうと少しだけ嬉しそうに笑って彼女は鏡の前に戻り、最終確認だともう一度自分の姿を念入りに確認した。
『ねー、やっぱり変じゃない??』
「変なんかじゃないって」
『ジョージは優しいからなぁー、気遣ってたりしない?』
「そんなことで俺が嘘ついたことあったか?」
『…ううん、一度もないね。ん!ジョージが言うなら信じる!』
無論、嘘であるわけがない。
君は知らないんだ。いつかこんな姿の君の隣を歩きたいと俺がどれだけ願ってきたことか。
「…うん」
そして、かつてからの自分の想像を遥かに越えて
今日という日に純白のドレスに身を包んだ君は、
本当に、本当に…
「世界で一番綺麗だ、ナマエ」
これ以上見つめていたら泣いてしまうかもしれない。それほどまでに綺麗だった。
『…えへへ、ありがとう』
そんな俺の気持ちも知らないで彼女はまた無防備に笑う。
「…ほら、フレッドが待ってる。君も早く行かないと」
『そうだね。ジョージは?』
「…うーん、もう少しだけここにいるよ。相棒の結婚式だなんて、こうみえて少し緊張してるんだ」
『あはは。そっか、じゃあお先に、』
「ああ」
部屋を出かけて、ナマエが不安げに振り返った。
『ねぇ、ジョージ?』
「うん?」
『フレッド、取っちゃってごめんね』
思わず固まった。ただそれは一瞬で、すぐに涙腺が震えるのを感じて俺はつまる鼻を隠すように平然を装って言葉を返した。
「…なんで謝るんだよ」
『だって、二人はお互いに誰よりも近くにいたし、あなたの一番特別な人でしょう?そんな二人の間に突然私が入ってきて…』
「たしかに相方が新婚とあっちゃ、一緒に悪戯商品を考える時間も減るだろうな。でも、だからって別に俺たちの絆がなくなるわけでもないだろ?俺たちはこれから先もずっと唯一無二の双子だ」
そう。今までもこれからもずっと俺たちは双子のまま。
誰よりも近くにいた。二人でひとつだと思っていた。だからきっと惹かれるものも似ていたんだ。
それでも君は"俺たち"じゃなく、俺でなく、あいつを選んだ。
双子であることをこんなにも苦しく思うなんて、きっとこれが最初で最後だ。
なぁ、一体なにが違かったんだろうな?
どれくらい考えても答えなんて見つからないまま。
「…それに、君のことだって同じくらい特別に思ってるんだぜ?」
『ジョージ…』
多分、彼女と元の"トモダチ"には二度と戻れない。なんたって今日を越えたら俺たちは義兄妹だ。相棒のようにはいかない。
この想いだって、もはや抱くことすら叶わない。
「…これから先もナマエが相棒の隣にいてくれるなら安心さ。…あいつのことよろしく頼むよ」
『…うん、うん、』
「おいおい泣くなよ?折角の化粧が崩れるぞ」
俺が笑いながら言っても『わかってるよ』と頷きながら今にも泣きそうに顔を歪めた彼女を、俺はそっと抱き寄せた。
子供を慰めるような幼稚な抱擁。それが今の俺に出来る精一杯だった。
「…おめでとう、ナマエ」
少しだけ名残惜しく彼女を離し、せめてもの祝いの言葉をやっとの思いで伝えると
『ありがとう』、と彼女も部屋を後にした。まるで春の花が芽吹く瞬間のような世界で一番美しい笑顔だった。
「結局、最後まで言えなかった、か…」
祝福したいのか、いっそ泣き崩れてしまいたいのか、それすらもう自分ではわからない。おそらくどちらも正解なんだろうけれど。
考えることは簡単だけどすぐにはどちらも出来そうになくて窓際に寄り掛かってぼんやりと外を見ることしか出来なかった。
暫くして楽しそうな来賓者の間を縫うように、ふいに二人が顔を出した。
手を繋いではにかみながら、なんて幸せそうな笑顔だ。
誰よりも先に彼女を見つけていたんだ。
誰よりも前からずっと好きだった。
そんな彼女を射止めたのが自分と人生を分けたあいつだなんて。
悔しくない、切なくないなんてそんなはずはないし、そんな強がりを言うつもりもない。
それでも、
それでもやっぱり、君らが笑ってる顔がこんなにも嬉しいだなんて。
あー、俺 お人好しにもほどがあるな。なんて。
そんなことを考えて思わず笑えば、窓の外のフレッドと目があった。
「おーい!相棒!!なにしてんだ!お前も早く来いよ!」
『ジョージがいなきゃ始まんないよ!』
「ああ、今いくよ」
見えない涙を拭うように、春の生ぬるい風が俺の頬を優しく撫でた。
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