太陽の在り処
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初めてあなたを見付けたとき、太陽みたいだなって思った。
誰もに愛される悪戯な笑顔で、
みんなの中心に圧倒的な存在感で力強く燃えていた。
そして、今日も。あなたは相変わらず私の太陽だった。
いつもそこに見えているのに、
私がどれだけ手を伸ばしても決して届きはしない。
どんなに追いかけてもあなたとの距離は絶対に縮まらない。
「みんな急げ!!早くしないとホグワーツ特急がでちまうぞ!!」
先頭を走るフレッドの声が響いた。
走る度にふわりふわりと跳ね回る赤い髪はまるで小人のように可愛らしくて私は何度も目を奪われしまう。
「もう!ナマエってば!急いで!!早くしないと乗り遅れちゃうわ!!家に帰れなくなるわよ!!」
『あ、う、うん…!!』
そんな私を心配して、
前をいくハーマイオニーはなんども振り返り私を急がせた。
私も置いていかれないように必死に皆の後を追う。
「まったく、ロニィ坊やのせいでとんだ災難だな!!」
「その通りだぜ、ロニィ!そのお転婆野郎、しっかり籠の中にでもいれておけよ!!」
「ロニィって言うなってば!!それに僕のせいじゃないよ!!あの猫がスキャバーズを怖がらせるのがいけないんだ!!」
「なによロン!!クルックシャンクスのせいだっていうの!!?」
「まぁまぁスキャバーズも無事に見つかったんだから良かったじゃないか。そんなことより急がないと本当に汽車が出ちゃうよ!!」
走る速度はそのままにやいやい言い合う双子とロン、ハーマイオニーを宥めながらハリーが言うと
「「こりゃやばい」」
と双子が同時に速度をあげた。
それにあわせて、ハリーとロン、ハーマイオニーも続く。
『みんな、はやい…!』
すでにいっぱいいっぱいだった私は更に加速するのか、と一瞬呆然としたが、すぐに慌てて荷物を持ち直し、皆の後を追いかけた。
一生懸命に走ってるつもりなのに、追い付くどころかその差はどんどんと大きくなっていく。
いつも、そうだった。
私は皆の背中を追いかけるばかり。
なんでこんなにも地味でどんくさい私が学校でも目立つ皆と一緒にいられるのか、誰もが不思議に思ってるに違いない。
そりゃそうだ。私だって思ってる。
ハーマイオニーとは入学早々に仲良くなって、その後なんとなくハリーたちとも仲間に入れてもらった。
誰もが名前を知っているハリーに成績優秀なハーマイオニー、ウィーズリー家として幅広く顔を知られてるロンに
同じくウィーズリー家であり、学校一目立つ双子のフレッドとジョージ。
皆はとても優しかったから私を煙たがったりすることは一回だってなくて、どんなときも快く迎えてくれた。
それでもキラキラとした皆の隣は少し気が引けて、私はいつも皆の一歩後ろを歩いてた。
自分自身でも一緒にいれることを不思議に思いながら、決して離れようと思ったことはなかった。
勿論ハーマイオニーやみんなのことが大好きだったし、
なにより、その輪にはいつも自分が密かに想いを寄せるフレッドがいたから。
多分一目惚れだったと思う。初めて出会ったその日からずっと、ずっと、好きだった。
だからいつも置いていかれないように一生懸命背中を追いかけた。
やっとの思いで駅のホームまで辿り着くと
皆は乗車口へ駆け込むところだった。
ふいにハリーがヘドヴィグの籠を落としそうになって、
それに気付いたフレッドがすかさずその籠を掬い上げる。
その時一瞬目があって、鳴り響く汽笛の中、はやく来いと一度だけ大きく手を招かれた。
慌てて私が頷くとその赤毛はまたすぐに乗車口に向かって駆け出した。
『ま、待って…!』
もう一度走り出そうとした時、
ほんの一瞬の好奇心のようなものだったのかもしれない。
ーーー例えば、今私が追いかけるのをやめたらどうなるのだろうーーー
そんな声が耳元で聞こえた気がした。
勢いよく前に踏み出すはずだった右足をぐっと後ろに押さえ込むと
急に重心がずれた反動からぐらっと後ろによろけて、私は静かに歩みを止める。
一人、二人と乗車口にかけこんでいくみんなの背中を、ぼんやりながめた。
もちろん、走り行く赤い太陽は気付かない。
私だけを除いた全員が乗り込んで間もなくだった。
ホームいっぱいに発車のベルがとても無機質に響き渡り、それに混じってハーマイオニーの焦った声が飛び込むように聞こえてきた。
「ねえちょっとまって、ナマエは!?」
「「「え?」」」
ハーマイオニーの言葉に皆が一斉に振り返ると、
未だホーム入り口近くに立ち尽くす私に気付きこれまたほぼ同時に目を見開いた。
「ナマエ…っ!?」
「あ、おい!あいつ、なんであんなところに…」
「嘘…!まっ、…!」
本当にすごい。あの天下の悪戯双子までもが今までにないくらいに驚いてる。これは、なんだかちょっとした優越感だなぁなんて私だけが暢気に笑った。
「ナマエ!!!」
ハーマイオニーが駆け出そうとした今まさに。
重たい鉄の扉は大きな空気の音を漏れださせ素早く閉じきってしまった。
「……!?……………!!」
ハーマイオニーが必死になってはめ殺しの窓を叩いてる。その声は扉に遮られて聞こえない。
大好きな親友にまで余計な心配をかけてしまったなぁ。ハーマイオニーには後できちんと謝らなくちゃ。
「…ナマエ!ナマエ!!!」
ゆっくりと動き出す汽車の中から再びハーマイオニーの声が聞こえた。
あわててどこかのコンパートメントの窓を開いたのだろう。
続けざまにロンにハリーにジョージも顔を出し、何度も私の名前を呼んだ。
その中から一際大きく私の名前を呼ぶフレッドの声が、一瞬だけ聞こえた気がした。
汽車は徐々に加速していく。
誰が誰かも判別出来ない声がどんどんと遠くなっていった。
もしも、あなたが気づいてくれたなら、
ほんの悪戯だったのとすぐに駆け込むつもりだった。
あなたは心配してくれるのかな。
少しは後味悪く感じてくれるのかな。
『振り向いてくれない、罰よ』
なんて、私の勝手な我儘。
『学校に、戻ろう…』
先生に事情を話して明日の朝の汽車で帰らせてもらおう。ママたちにもそうふくろうを飛ばせばいい。
沢山怒られるだろうけど、多分大丈夫。
そう考えてホームを出ようとゆっくりと踵を返した。
別に一緒にあの汽車に乗らなかったって
新学期にはまた変わらずみんなに会える、決して今生の別れになるわけではない。
それなのに、こんなにも胸が引き裂かれそうに痛いのは、 多分。
扉が閉じたあの瞬間、
彼への想いは決して報われることのない不毛な想いだと、だから諦めるべだと、誰かにそう叩きつけられたような気がしたからだ。
そして私自身その通りかもしれないと雷に打たれたように瞬間的に思ってしまったから。
そう気付けは途端に息も出来ないほどに苦しくて堪らない。
私はついには歩くことすら出来なくなってそのままその場へ座り込んでしまった。
足元のコンクリートにぽつぽつと涙の染みが出来た。
後悔をするくらいなら、
最初からこんなことしなきゃいいのに…
『ばかだなー…』
「ほんとにな、」
『え』
一人だと思って溢したはずの嘲笑の言葉に返事が聞こえ、私は思わず振り返る。
たった今見送った汽車の軌跡の上には太陽の髪をした悪戯な笑顔があった。
『ふれ、ど…?』
なぜ、そこに彼がいるのか。
私が訳もわからず呆然としていると、
「なーにやってんのおまえは」
なんていいながら彼はゆっくりと線路を向かってきた。
なにやってるの、なんて今は私の台詞だ。
だって、あなたは今、そうたった今…!あの汽車にのって、
『なん、で…』
真っ白になった頭のなかから、なんとか私が言葉を絞り出すと
「汽車はもう止まれないと思ったから、飛び降りてきた」
あと少しでもスピードが上がってたらヤバかっただろうな、間に合ってよかった、と彼はまた悪戯に笑う。
よくみると見送ったときには綺麗だったはずの彼の身体や洋服はそこらじゅうが汚れて傷だらけになっていた。
『え、あ、まって。怪我、怪我してる…!早く消毒…え…どうしよう…ごめんなさっ、血が…!』
すっかり真っ白な頭の私はトランクから救急セットを探し出したいのと
いますぐフレッドに駆け寄りたいのと
何が起きてるのかまだわかってなくてただ目の前の痛々しい傷に狼狽えることしか出来なかった。
そんな私を見てフレッドは可笑しそうに声を出して笑った。
「落ち着けって。とりあえず、そっちに行っていいかい?と、言っても右肩に力が入らなくてね。悪いけど手伝ってもらえる?」
『え、は、はい…!』
右肩…おそらく列車から飛び降りたときに線路に打ち付けたんだ…
どうしよう、わたしがあの列車に乗っていなかったから…?
とりあえず、応急処置をしようにも彼を引き上げなくてはと思い、
私はホームから手を伸ばした。
自分よりもずっと大きな彼の身体をやっとの思いでホームに引き上げると、
私は急いでトランクを広げ、いつも持ち歩いているはずの救急セットをなんとか探して引っ張り出した。
『少し、染みるかも…』
「いっ、て…!」
『あ、ごめん…!』
「あ、いや、大丈夫。ありがとうな」
こんな時に治癒の魔法が使えていたら…といちいち自分が頼りなくて嫌気が差す。
それでも今自分が出来ることをと、目の前の傷に集中した。
『とりあえず、応急処置だけど…』
一通り目にはいる傷の消毒を終えて、痛めたと言う右肩にも包帯を巻けば、
ようやく私はフレッドの顔を見ることが出来た。
いつからか、フレッドも私の顔を見ていたようで思わず目があってしまう。
『えっ…な、なに…?』
「いや、ナマエの顔が目の前にあるのが嬉しくて、」
『ふぇっ…!?』
なにを言っているのか、フレッドは優しく笑って、間違いなく真っ赤になっているであろう私の頬をそっと包み込んだ。
その手つきはあまりにも優しくて、私はまたドキリと肩を震わせる。
途端、熱を持った右頬をぎゅっとつねられた。
『い、いひゃい…!!』
「心配させた、罰」
フレッドはいつもと違い真剣な瞳で言った。
『ご、ごめんなさい…』
その瞳を見ていたら素直に謝るしか出来なくて私は思わずうつむいてしまう。
そんな私の頭を彼は優しく撫でてくれた。
フレッドは、こんな時までひどく優しいから困るな…。
でもきっと、こんな彼だからこそ、私はどうしようもなく好きなんだ…。
途端にさっき覚悟したはずの、諦めなくてはいけない想いが再び込み上げてきては、涙が溢れた。
「あ?!悪い、そんなに痛かったか…!?」
『え、…あ、ち、ちがっ…!』
あなたのせいじゃないと言いたいのに、
涙のせいで言葉が上手く出てこない。
「あーー、くそっ…!」
『え、』
呆れたような声が聞こえれば、世界が揺れて私はしっかりと暖かい体温に包まれていた。
私が憧れたその腕のなかは陽だまりのような香りに混じって消毒液のツンとした匂いがした。
彼の匂いと体温に身を委ねれば、
自然と涙が収まって、今度は心地よい鼓動がトクン、トクンと動き出す。
暫くの間、その温もりに浸っていた。
ふいにフレッドが優しい声で喋り始めた。
「…ナマエは、振り返ればいつもそこにいてくれて、」
「笑ってくれて」
一つ一つ言葉を選ぶようにフレッドが綴る。
すっぽりとフレッドの腕のなかに収まっているから、彼の表情は見えなかった。
ただ、背中に回された彼の腕はとてもあたたかい。
「だから、俺も勝手に安心しちゃってたんだよな。どんなときも追いかけてきてくれるに違いないって」
「ナマエがどんな思いでどんなに必死に走ってたのか、知りもしないでさ」
ごめん、といってまたきつく抱き締められる。
その腕は少し必死で、いつもの余裕は感じられなかった。
それがなんだか切なくて、私はフレッドの顔を覗き込むように見上げた。
『フレッドが謝らないで…私がどんくさかっただけだよ…』
ほら、私運動苦手だし、と笑いかければ、
フレッドも困ったように笑って、私の髪を優しく鋤いた。
私の顔がまた火照る。
「俺さ、」
『…?』
「君の姿が扉に遮られたあのとき、もう二度と会えなくなるんじゃないか、ってなぜだかそんなふうに思ったんだ」
それは、
私が感じたものに、とてもよく似た、
「ナマエがいない汽車になんて乗ってられなくて、気付いたら俺、飛び降りてた」
屈託なく笑う彼は、ひどく眩しい。
自分の思いと同じものなのか、それはどうかはわからない。けれど、彼の気持ちや彼の行動になんだかひどく嬉しい気持ちになってしまう。
一瞬視界が揺れると、ぽん、と頭を撫でられた。
「まったく、」
『……?』
「これからはナマエから目を離さないようにしないとな!」
『え?』
「こんな心配を何度もしてたら身が持たないっ」
『ご、ごめんなさっ…!!もう二度としないから…!』
急にいつもの調子でそんなことを言われたものだから私は慌てて謝った。
私、ちゃんとみんなのこと追いかけるから…!、と続けようとすれば、言いきる前におでこをぱちんと跳ねられる。
『う、…!?』
「ばかナマエ。そうじゃないだろ?」
叱るようにそう言われると、
今度は自分の唇に柔らかい何かが優しく触れた。
ゆっくりと瞼を開いて見上げれば、これ以上にないほどに暖かい笑顔がすぐ近くで笑ってる。
「これからは、俺の隣を歩いてほしい」
その言葉が嬉しくて。
私はまた、泣いた。
本当はきっと私自身が怯えていただけ。
どうせ、追い付かないと、俯いてばかりで気付かないのは私の方。
それは本当に単純なこと。
見上げればいつだって、大好きな太陽がすぐそばから私に優しく笑いかけていた。
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