真夜中の決闘
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『あら、フレッド?まだ帰ってきてなかったのね』
就寝時間を過ぎてそっと談話室に戻ると、
自身のローブを肩に羽織り、暖炉の前のソファで一人佇む少女がおかえりなさい、と迎えてくれた。
「やぁ、ナマエ!まだ起きてたのか?」
もしかして、俺を待っててくれたのかい?と悪戯に聞けば、
『いいえ、ハーマイオニーが貸してくれた本に夢中になってただけ』
あなたが帰ってきてないことにも気づいてなかった、と笑われた。
昼間は俺や相棒たちと一緒になって悪戯して誰よりも大声で騒いでいるくせに、この時間の君といったら。
ぐっと穏やかな雰囲気で、普段はみせない女性の顔がなんとも少し話しにくい。
「ふぅっー、くたくただっ!」
なれない雰囲気を壊すように、ぼすっとわざと音をたてて彼女の隣へ座った。
『はは、お疲れ様』
罰則でもしていたの?とナマエは俺の乱れた髪の毛を優しく直す。
暖炉の灯りが同じ色で反射してくれてるおかげで、俺の顔に色が差した本当の理由はきっとばれていないはずだ。
「ああ、いや。来週のダンスパーティ、是非誘ってくれってレディたちが怖いくらい血眼になって追っかけてくるもんだから、ずっと隠れてたんだ」
『…そう。プレイボーイも楽じゃないのね』
ふっと離れていく細い指を追いかけるように彼女を盗み見ると、
彼女の視線はもう目の前の活字に奪われてて、
伏せ目がちの目元には暖炉に灯る火の暖かい赤みがかかっている。睫毛、長いんだなあ。
「よしてくれよ。昨今稀にみるこんなにも純真無垢で一途な青少年を捕まえてプレイボーイだなんて、そりゃないぜ」
『あら、それはごめんあそばせ。純真無垢で一途だったなんて初耳だったもので』
おどけたように俺が言うと、彼女も釣られたように顔を上げて少し意地悪に笑った。
その笑顔があまりに綺麗で俺はまるで金縛りにあったかのように彼女の顔から目が離せなくなる。
『なあに、なにかついてる?』
「あぁっいや!ま、まぁ女の子たちが勝手に寄ってきてしまう自分の魅力は認めよう!」
自分が魅とれてしまったその顔がぐっと近付けば俺は慌てて言葉を繋いだ。
「おかげでダンスパーティには誰を誘ったものかと決めあぐねてたところなんだ!この俺が一人を選んだら戦争が起きかねないからさ!」
まったく、自分のことながらよくもまぁ適当なことをペラペラと言えるもんだと感心する。
本当に誘いたい奴なんてもうずっと前から決まってるんだ。
プレイボーイだと噂のこの俺が純真無垢に一途に想い続けている君なのに、
本音は心にしまったまま。
そんな気持ち知るはずもない君は…ふぅん大変ね、と薄く微笑みながらも興味がなさそうにとまた本へと視線を戻した。
「そういう君は、」
『え?』
あ、思わず声に出てた。
「あ、いや、ダンスパーティ!その…パートナーは見つかったのかい?」
活字を追う深緑の瞳が一瞬とまった気がしたが、
すぐに私のことはいいの、と彼女はまた視線を戻してしまう。
そんな彼女を見てちょっとした期待が疼く。
「まだ、決まってないのか??」
『…』
「そっか、そっか…そうなのか…」
『なによ、』
思わず俺がにやけてしまえば、ナマエは不機嫌そう呟いた。
おいおい、これは千載一遇のチャンスというやつじゃないのか。
よし、いけ!今しかない!誰もが憧れる勇猛果敢な獅子の申し子、フレッド・ウィーズリー!!
「ナマエ!!」
『な、なに?』
思わず大きく出た俺の声に若干押されつつもナマエは素直に俺を見上げた。
相変わらず大きな瞳だった。
「その…!な、なんだ…、君とは悪戯を仕掛け合うよしみだ。そう、そういう仲だ!ほら、女の子は誰だって憧れるんだろう?素敵なドレスにダンスパーティ。もし相手がいなくて行くに行けないっていうんなら…俺が連れてってあげてもいい!」
ああ、しまった。少し上からに聞こえたかもしれないな。
こういうときスマートに誘うにはどうしたらいいんだっけ。
ああ、くそ。ナマエの前だと準備してた台詞なんか全部飛んでしまう。
こんなだから俺はまた彼女の怒りを買ってしまうんだ。
と、そう思ったのに。
『…あら優しいのね、嬉しいわ』
予想とは反対に彼女がふっと微笑むもんだから気が抜けた。
ただその微笑みがなんだか一瞬寂しく見えたのはきっと俺の見間違いじゃなかったと思う。
「ああ、そりゃあ当たり前さ。僕は紳士だからね!」
『ふふ、ありがとう』
気の抜けた顔を悟られまいと俺がおどけてみせてると彼女はまた微笑んだ。
あれ、やっぱり、そうだ。なんでそんな顔で笑うんだ。
『でも、』
モヤモヤと思考の霧へ溶けそうになったとき、彼女の声がそれを遮った。
『折角だけどその気持ちは他の女の子たちにまわしてあげたら?』
「え?」
何故だかはわからないが、ナマエの言い回しはどこか苛立ち、否、切なさを含んだようだった。
『きっとみんな、あなたと踊りたくて一生懸命おめかししてくるわ』
「あ、ああ…、そりゃそうだろうね!でも…!」
『それに。優しい紳士はあなただけではなかったようだから』
「は?」
『だから、あなたは私なんかを気にしないであなたの好きな人と楽しんできたらいいわ』
俺が口を挟む隙を与えないように言うと彼女は読んでいた分厚い本をパタンと閉じた。
「え、え。ちょっと待ってくれ」
おいおい、なんだよそれ…
その言い方じゃあまるで…
「もしかして、パートナー決まってるのか?」
『…ええ。あなたと同じ、一人ぼっちの寂しい私に気付いてくれた優しい優しい紳士がね』
「はァ!?ど、どこのどいつ!?」
思わず俺が身を乗り出して聞くと、
一瞬なぜ?と怪訝そうに表情を歪めたあと、
ナマエは自身のローブのポケットから一枚の手紙をモソモソと取り出した。
『えっと…確か、レイブンクローの…』
差出人の名前をその細い指でなぞりながら読み上げて、
『だめね、お誘いの手紙を受け取ったとき始めて喋ったものだから、まだ名前まで覚えきれてなくて』
そう言うと彼女は困ったように笑った。
ああもうそんな君も可愛いな、なんてそんなこと思ってる場合じゃなくて!!
混乱してる頭を無理矢理押さえ込んで俺はまた
ナマエに向かって声をあげた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ君は!まさか、その名前も覚えてないようなやつと踊るっていうのか!?」
『本当はそもそも行くつもり自体なかったのだけど。どうせ相手もいないし』
「パートナーがいないなら俺と、いや俺らとくればいいじゃないか!」
熱くなってる俺の中のほんの僅かに冷静な自分が
あ、アンジェリーナたちだっているし!と慌てて付け足した。
ナマエは寂しそう笑って首を振った。
『折角の機会だもの。アンジーたちも大切なパートナーと二人で過ごしたいはずよ。フレッドやジョージだって、当日は女の子たちに囲まれて忙しいに決まってるわ』
「そんなこと…!」
『それに、』
子供が駄々を捏ねるように彼女に突っかかれば、静かにそれでもはっきりと遮るように彼女は言った。
『彼、一度も話したこともない私なんかを一生懸命に誘ってくれたの。なんだかそんな姿を見たら断れなくって…』
そのレイブンクローのなんたら、って奴からもらった手紙を手の中でもて余しながらナマエは話しを続ける。
その瞳をみて俺はもしやと嫌な予感を口にする。
「きみ、は、好きなったのか…?そいつのこと…」
『あっはは、まさか。私、初めて喋るまで彼の顔も名前も知らなかったのよ?』
ふいにいつも通りの笑い声が聞こえれば
取り越し苦労になんだ、と胸を撫で下ろしたのもつかの間、今度は無性に怒りにも似た感情がこみあげてきた。
「な、なんだそりゃ!!そんなバカみたいな話あるか…!!」
『バカみたいって…!いくらなんでも少しひどいんじゃない?』
「じゃあ君は!!一生懸命に迫ってこられたら誰彼構わずYesと言うのか!?」
多分これは怒りではなく、焦り、なんだと思った。
八つ当たりだと言うことは重々と承知していたが、頭ごなしに俺が言うと彼女はぎゅっと口を結んだ。
「…ほらみろ」
『……ない……』
「え?」
ぐっと握りこぶしに力を込めて、ナマエは小さく言った。
その声が聞き取れなくて思わず聞き返せば、もう一度同じ台詞を呟いた。
『…そんなの…わからない、…』
「は、今なんて…」
『だって私は、フレッドみたいに沢山の人に言い寄られたことなんてないもの…!』
投げつけられるように強く言われれば、今度は俺が黙る番だ。
驚く俺をよそにナマエは唇を噛み締めるように言葉を続けた。
『…それにっ、嫌でも女の子に言い寄られるフレッドにはわからないかもしれないけどっ、…秘めた想いを告げることはとても、そう…とても勇気がいることだわ…!』
「…!」
『みんな、恐い気持ちを隠して振り絞って…一世一代の勇気に違いないもの。すごいことよ。私には到底…できっこない…、』
そんな想いを無下にする勇気も…と、呟くその声はどこか力なく泣いているようにも聞こえたが、彼女はずっと俯いたまま、表情を見せることはなかった。
そして、彼女の綴る言葉は
隠した想いをずっと言葉に出来なくて、ここぞというときに勇気の持てない俺自身がよく理解出来るものだった。
『それこそ本当に…、私があのレイブンクローの彼のことを好きになれたら、全部丸く収まるのにね…!』
「…!?」
俺が、最後の言葉に息を呑んだのとほぼ同時に、
ナマエは突然ぱちんと手を叩き、『なんてね!』と顔を上げた。
『…ごめん!毎日可愛い女の子たちに囲まれてるフレッドが羨ましくて、八つ当たりしちゃった!』
その顔には俺を見ようとしないペラペラの笑顔を張り付けて。
『いいなぁ。フレッドは沢山の可愛い子達から選びたい放題じゃない!』
「なんだよ、それ…」
『ごめんってば。あなたくらい誰から見ても魅力的な人だったら想い人も簡単に振り向いてくれるんだろうなって思っただけなの。本当、羨ましい! 』
矢継ぎ早に彼女が明るく言えば言うほど、
俺はその作られた笑顔と声に腹が立って仕方がなかった。
『あー、じゃあ私そろそろ寝るわね!フレッドも夜更かししすぎないように!』
それだけ言って彼女は急に立ち上がると俺の顔も見ずにばっと女子寮の方へ踵を返す。
今彼女を帰したらそれこそ本当に名前も知らない誰かのものになってしまうようなそんな気がして、考えるよりも早く彼女の背中を自分の腕のなかへと閉じ込めた。
暖炉にくべた薪がパキンと折れて燃えた。
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