To be sucked in you
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なんでかとかはわからない。
別に最初っからそうだった訳じゃない。
ただ気付いたら目が姿を追っていて、耳が声を探してた。
ほんと、いつの間にか。
(あ、)
今日も談話室の隅で同級生と談笑してる"彼女"がなんとなく視界に入って、気付く。
(…また、だ)
学年はひとつ下。
同じ寮ではあるのものの比較的物静かな彼女とはあまり直接喋ったことはない。
だけどこうして何気なく彼女を見れば、賑やかな人垣を縫って何故か視線がぶつかることがある。
(ま、すぐ逸らされるんだけどな)
慌てて友達に向き直った彼女がわしゃわしゃと手櫛で髪を横に流すと、
隠れた横顔の代わりに薄い左耳がちらりと見える。
作り物のように整った形のその耳は心なしか赤い気がした。
「なに相棒また見てんの?」
ふいに遅れて談話室に戻ってきた相棒が、
俺の隣のイスを引きながらさほど興味も無さそうに言った。
「あー、うん」
俺が曖昧に返すと、
相棒はふーん、となんとなく俺の視線を探りながら一緒になって賑わう談話室を覗き込む。
「フレッドあの子となにかあったっけ?」
「いや、なにがっていうか、気付いたらなんか…よく視界に入ってくるなって感じで」
「そんなに気になるんなら話しかけりゃいいのに」
「まあ、うーん」
具体的にいつからか、とか
なにがそんなに目を引くのか、とか
正確には自分にも分からない。
でも気付いたら、
ハッフルパフの色男や、話題の惚れ薬、流行りの魔法雑貨、
他の子たちが目を爛々とさせて囃し立てるものには一切興味を示さない彼女が目についた。
もちろん、ある程度は周りに合わせてリアクションしているようだったけど、そんな時はいつも決まってお手本通りの愛想笑いで。
どちらかといえば、友達との会話の隙を盗んで窓の外や読んでいた本の続きを覗き込む姿の方が楽しそうに見えて、ちょっと不思議だな、というか。
単純に、他のオンナノコとは違う表情を見せる彼女が一体何に心惹かれ微笑むのか気になった。
あと。
楽しそうに窓の外を見つめる時の横顔や
活字に目を伏せる時の長い睫毛が綺麗だなってちょっと思った。
「そんなにおもしろいか?」
「え?ああ、いや…」
その質問に対する答えがすぐには出てこなくて、
ぼんやりとした速度で頭を巡らせた結果、とりあえずと一番手前にあった疑問をそのまま伝えることした。
「よく目が合うからなんでかなって」
「は?なんでかってそりゃ「ほら、また」
ジョージの返答を上の空にきいている傍から
また一度人形みたいに大きな瞳とぱちりと視線がぶつかった。
すぐに隣の子に「なにをみてるの」と聞かれた彼女は肩を大きく跳ねらせてた。
「はは、」
ああ、なんだかその顔を赤らめて慌てて視線を逸らすその姿がかわいく見えてきたりして。
(なんか、)
「…好きになりそう、かも」
「は?」
「あ?」
思わず口をつついて出てきた言葉に返ってきた相棒の気の抜けた声。
そんなに意外なこと言ったか?と俺もつられて間抜けな声を出す。
「いや、というかさ。
お前、とっくに好きじゃん 」
「………は?」
一瞬なにを言われているのかわからなかった。
そんな俺を見かねてか、相棒はまるで数式を教えるように手振りをつけてやけに丁寧に続けた。
「いやいや、だからさ。目が合うのは相棒が彼女を見てるからで」
一向に事態が呑み込めなくなった俺はまるで小さい子供に戻ったように素直に相棒の言葉を聞くことしかできない。
「いつも彼女を目で追ってるのは、好きだからだろ?彼女のこと」
「え?」
「え?」
俺が思わず聞き返せば、相棒も想定外だと言わんばかりの顔で聞き返す。
「…俺が、あいつのこと………」
「うん。え、違うの?」
「あ、いや……ちがくは、ない……と思う…け、ど」
そこでまた思考が一瞬止まったかと思うと
ほんの少し遅れてボン、という小さな破裂音が頭の奥で弾けた。
そして、それと同時に今度は微妙にテンションの違う「「…うわ、まじか」」という声が綺麗に重って談話室の喧騒に溶けた。
急に熱くなった顔を隠すように口を塞ぐ俺を見て、
相棒はまさか今気付いたのかと心底呆れた顔をしていた。
そのあとも相棒は まあ彼女も、とかなんとか言ってた気がするけど、もうそんな周りの声とか全然頭に届いてこなくて。
一箇所だけ不自然にピントの合う彼女をもう一度ちらりと見れば、やっぱり視線がぶつかって。
「…ッ!」
今までの答え合わせをしてる脳ミソと一緒に
血液がすごい速さで循環してる気がした。
身体中が脈打って指の先まで熱い。
そんな俺に気付いてなのか、
君は初めて瞳を逸らさずに、色付いた頬でくしゃりと笑った。
「ああ、相棒の言うとおりだ」
気付けば、君の虜。
いや、多分、最初から。
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