Shall we romance?
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「い"ってぇ!!!」
『わ!きゃっ!ごめんリー!!』
1、2、3のリズムが谺するホールのなかで、
本日何度聞いたかわからないリー・ジョーダンの叫び声がまたしても響き渡った。
あまりに頻繁に声が聞こえるせいか、ここ何回かでついにマクゴナガル先生からの「大丈夫ですかMr.ジョーダン」はため息に変わったところである。
「いやいいけど…、それにしてもナマエ…お前、ぶっ、ぶはっ!!ダンス…下手すぎ…!」
『ご、ごめんて…!ていうか笑いすぎだから!』
足先を押さえながらひーひーと肩を震わせて笑う友達に、ナマエが足だけではなくどこか悪いところまで踏み潰してしまったのではないかと心配していると突然両脇から見知った顔が2つニヤニヤと覗き込んできた。
「なんだなんださっきから盛り上がってるな?お二人さん」
『!!?』
「おっと、リーの靴ってこんなにボロボロだったか?」
『べべべ別になにも「おいフレッド、ジョージ!ナマエのやつダンスの才能マジで皆無だぜ」
『わーーわーー!!リーってば!!』
学校一の悪戯好きである二人に格好のからかいのネタを提供するわけにはいくまいとした彼女の悪足掻きも空しく、先ほどまでの失態は被害者本人の口からいとも簡単に告発されてしまう。
…最も、リーの痛烈な叫び声をホールの3分の1以上の生徒が耳にしていたわけであるからして目ざといこの双子が気付いていないわけなどないわけだが。
「いや、リー。あれはダンスが苦手云々の話じゃないぜ」
「よく今まで日常生活を問題なくこなせてきたのか甚だ疑問が残るレベルだ」
『み、みてたの!?』
「あんなの嫌でも視界にはいるだろ。むしろよくバレてないと思ったな」
『…!!!?』
「そーそー。一歩動いたらすぐに踏まれるから全然練習にならねぇよ」
『う…ご、ごめんて…』
「ナマエ、走ったり箒乗るのは苦手じゃないくせになんだろうな?」
「触れてやるな相棒。こいつにはしなやかさってもんがないんだ」
『フ、フレッドに言われたくないわよ!』
「まぁ、ダンスが出来ないからって死ぬわけじゃあるまいし気にするこたないぜ?」
『ジョージ…!』
最早優しくしてくれるのはあなたしかいないと言わんばかりにナマエがジョージを振り向けば彼も二人と変わらずニヤニヤ顔をして続けた。
「強いて実害をいうならば、ダンスの出来を知らない他校の生徒がうっかりナマエを引いて怪我をするくらいだしな」
「ワオそいつはいい。いちかばちかビクトール・クラムでも落としてこいよ。うまくいきゃ次の試練でうちが有利になるぜ」
『~~~~"!!バ、バカにしてー!!!そーいうあなたたちはどうなのよ!!』
ナマエが半ば涙目になりながらフレッドとジョージに食ってかかれば、二人はまさか自分達にダンスの出来を聞くなんて信じられないと言わんばかりに目を丸くさせて顔を見合わせた。
「聞いたか相棒?」
「心外だな相棒?」
そしてどちらからともなく手を取り合い、合図のようにニヤリと笑うと、フレッドが女性役となって軽やかにステップを踏み鳴らした。
『……!』
二人は小慣れたようにステップを踏み、それは控えめに言ってもお見事と言わずにはいられない完成度である。終いには先ほど先生から教わったステップだけでは飽き足らずと我流の複雑なステップも組み入れていた。
ナマエが言葉を失いすっかり呆気にとられているとばしりと最後のポーズを決めて二人が口を揃えた。
「「で、俺たちがなんだって?」」
近くで観ていた生徒から一斉に歓声があがりそこでナマエはハッと我に返った。二人はオーディエンスにサンキューサンキューと投げキッスを飛ばしている。
『嘘でしょ…』
「おーさすがムカつくほどさらりとやってくれるぜ」
「リー、俺がパートナーなら痛い思いも恥もかかせなくってよ?」
オーディエンスへのサービスもそこそこに戻ってくるとフレッドはわざとらしい女の子口調でぱちんとウィンクを飛ばした。
「たしかに。女子がナマエしかいなくなったらお前を誘うことにするよ」
『ちょっと!リー!!』
ぐうの音も出ぬほどにスマートに躍りあげた双子への敗北感の反動かナマエは八つ当たりをするようにリーをぎりと睨んだ。
「おっと!な、なあジョージ!!あそこのステップだけどさ…」
「ははは、どこ?」
リーはいち早く危険を察知してジョージを捕まえてナマエから距離を取った。
普段から双子と悪戯をしているだけにさすがの逃げ足である。
ナマエはリーの背中を恨めしく睨んだままフレッドが座った隣に腰を下ろした。
『もー!!…っていうか私と踊るのは男子同士で踊ることよりも嫌なわけ…!?』
「まぁ折角の夜にわざわざ用意した新品のドレスローブやブーツをボロボロにされたくはないわな。それも一曲も踊りきらないうちに」
『う…』
『…そりゃあ、足踏んでばっかりなのは申し訳ないと思ってるけどさ…』
ナマエは分かりやすくはーあと大きなため息をついて項垂れた。
最初はダンスなんてと思っていたけれど、自分の周りをぐるりと見回した時の皆の成長具合を目の当たりにするとさすがに凹んでくるものである。そんな彼女を見かねてかフレッドが手を差し出しながら立ち上がった。
「…ったく、しかたねぇなあ」
『え?』
「ほら、練習」
ありがたく思えとフレッドがナマエの腕を掴み彼女を引っ張り上げた。
フレッドよりもずっと小柄なナマエの身体は引き寄せられた反動ですっぽりと彼の腕の中に収まった。
そのまま腰にフレッドの腕が回るとぎゅっと二人の身体が密着するのがわかった。
『…!』
「…!」
『わ 、…あ、ご、ごめん!』
ふいに異性を感じたその逞しい胸板と腕にどきりとして慌てて彼女が体勢を立て直す。
『フレッド…?』
「あ、いや…、なに?」
動かないフレッドに不思議そうに声をかけると我に返った彼は腕を回し直して突然ステップを踏みはじめた。
ナマエは半ば引きずられるようにしてそのステップに付いていく。
『わ、とと!う、ううんなんでもない!』
彼がリードをして誘導してくれているせいか、なんとかステップを続けることができた。
ナマエが彼にはこんな才能もあるのか、すごいなあと考えているとふいにお互いの身長差に気が付いた。いつもより近くにいる分それが顕著に分かる。ちらりと彼を見上げるときりっと整った顎のシャープなラインと薄い唇、長い睫毛に目を奪われた。
(あれ、フレッドってこんなに格好良かったっけ…?)
そう意識した途端にこの距離も繋ぎあった手も腰に回された腕もその全てが恥ずかしくて仕方がなくなって、急に息がしにくくなったような気がしてきた。
『……き、緊張、しちゃうじゃん…』
「は?」
小さな声でぽつりと溢れた本音に、フレッドは思わず足を止めて聞き返した。
急に覗き込むように顔が近づいたのでナマエはつい慌ててしまう。
『あ、ううん!な、なんか、フレッドってこんなに男の人だったんだなって意識…しちゃっ、て…。その…へ、変な感じだなー、って…!あはは』
彼女が捲し立てるようにそう言うと、フレッドは一瞬の間を置いてからはーーっと大きく息を吐き、そのままこてんとナマエの肩に自らの額を預けた。
『ふ、フレッド?ごごごごめん…変なこといった?』
「あー…いや、違くて…」
気分を害したかと不安な気持ちでナマエが聞く。
背中を丸めて下を向く体勢になっているので、フレッドが今どんな顔をしているのか彼女にはわからない。
「俺も、」
『?』
いつも自信に満ち溢れている彼とは思えない。その声は少しだけ掠れていた。
「…お前ってこんなに華奢なんだな、って思って」
『ぇ?』
「それになんか柔らかいし、良い匂いも…なんていうか、、…わるい、ちょっとやばいかも」
『え?え?』
フレッドは少しだけ首を傾けて体勢はそのままに目線だけを彼女にずらした。
灰色がかった鈍い茶色の瞳がナマエを真っ直ぐに捉え、逸らすことを許さない。
「ドキドキしてる」
『……っ』
ナマエは自分の顔が一瞬で耳まで真っ赤になったのが分かった。
そんな彼女を見てフレッドもふっと笑う。
「ここでそんな可愛い顔するとか反則だろ」
それだけ言うと周りにも見つからないくらいの一瞬で小さく唇を奪われた。
瞬間止まってしまったような景色の中で自分と向かい合う薄い唇だけが悪戯に歪み、途端にナマエの心臓の鼓動が今までにない速度で再び動き出した。
『え、今…え?』
理解の追い付かない頭で彼を見ると、バチりと目が合って彼は長い人差し指を唇に当てて相変わらず悪戯な顔をしていた。悔しいけれどそんな彼にナマエはまた一段と体温を上げた。
「続きはまたダンスパーティで、な?」
フレッドがニヤリと笑って頭をぽんと撫でると、タイミングを図ったように授業の終了を告げるベルが鳴った。
ホールを出る生徒の波に紛れて飄々とジョージたちと合流する彼の背中を見つめナマエは思い出したように息をつく。
『どっちが反則よ…』
一人その場に立ち尽くしながら、火照った頬を冷ますにはまだ少し時間がかかりそうだと彼女は思うのだった。
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