「ほら、ラスト一周！
ダラダラせずに思い切り走れぇ！」


体育、今週から女子は持久走。
グラウンドを走っているとタイムウォッチ片手に鬼の形相をした体育教師が檄を飛ばす。
だが、そのボルテージと反比例するように私は先頭集団から徐々に遅れていく。


「目標タイムに間に合わなかったら、もう一周追加っ！」


「はぁ？」


脅しとも取れる発言が聞こえてきた途端、皆 火が着いたようにペースを上げる。
今までどこにその力を隠していたのだろう。
悠長にそんなこと考えている間にも差は次第に開いていく。


ヤバい。
皆、マジだ。
このペースじゃ、目標タイムギリギリか？
ペナルティを逃れたい一心で私も必死で走り続ける。

しばらくして、先頭集団は次々とゴール。
その瞬間、ペースを急激に落として気だるそうに歩きながら、その先の芝のあるグラウンド脇に向かっている。

何をしているのだろうか？
目を凝らせば、そこで男子がサッカーの試合をしているようだ。
一瞬、脳裏に岩泉くんの顔が浮かぶ。
バレー以外のスポーツをしてる彼見たい！
その途端、私の足は力強く地面を蹴り、思い切り駆け出す。


「あと一分！
顔上げて、手を振れっ！
ほら、あと少しっ！」


後続グループの生徒にアドバイスする体育教師の言葉通りにし、何とかゴールの白線を越える。
目標タイムギリギリ間に合った。


「はぁ、はぁっ、はぁ……」


もう走れないと思っていた両足は意外にも軽かった。
本当に現金なものだ。
乱れる呼吸を整えながら、走り終えた女子達が群がるサッカーグラウンド脇へ速足で向かう。


「「「「キャーーーッ！！！」」」」


今が授業中ということを忘れている女子達の歓声の大きさに驚きながら、その隅っこに陣取り彼を捜す。

……いた！

ちょうど岩泉くんにパスが通り、ドリブルをしながら敵のタックルを交わし、右サイドから敵の陣地へ切り込んでいく。
そのままゴール前でシュートを決めるかと思いきや、


「岩ちゃん、ここは通さないよ！」


及川くん登場。
ボールをキープしている岩泉くんの前に立ちはだかると、及川くんファンの女子が黄色い声をあげる。
すると、


「上等だ……取れるなら取ってみろ。」


サッカー漫画の主人公みたいな台詞を口にする岩泉くんが向こう正面にいる及川くんをキッと睨み付け、ドリブルで向かっていく。
それを目の当たりにした女子の歓声が更に大きくなる。
その瞬間、腕にゾクゾクっと鳥肌が立つ。

行く手を阻む及川くん、走って抜こうとする岩泉くん……
本当に絵になる。
二人はしばらくボールをめぐる争いをしていたが、隙を突いて岩泉くんがシュートを放つ。
だが、そのコースを読んでいたのか、


「させるか！」


及川くんがすかさず左足を出し、ボールの軌道を塞ぐ。
さすが、バレー部主将。
凄い反射神経だ。
彼の読み通り、ボールは彼の太腿に当たり、ゴールから大きく逸れ……
何故か、私 目掛けて飛んでくる。


「あ……っ……」


ヤバいと思ったが、時 既に遅く……
激しい痛みに襲われていた。