いざ新天地へ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「き、今日……?
えっと、砂羽さんの誕生日、とか……」
「ちっがーう!」
その迫力に圧倒され、叔母の顔から視線を反らすと、
「いっ……だぁ、い!!」
今度は両頬を思い切りつねられ、再び 叔母の顔が視界に入ってきた。
「つばさ、アンタは年の割りにしっかりした子だから、大丈夫だと思っていたのに……
私、買い被り過ぎていたみたいねぇ。」
痛がる私の顔を見ながら、深く溜め息をつくと漸く解放してくれた。
「いっ!
ちょっ……いったい、何なんです……」
私は痛む両頬を撫でながら、恨めしそうに叔母を見つめると目の前にある形のよい唇がゆっくりと動く。
一瞬、何を言っているのか、わからずにぽかんとしていると、
「にゅ、う、が、く、し、きっ。」
先程と同じ言葉が聞こえてきた。
「えっ?
なっ……えぇっ!!」
「ええって、こっちの台詞よ。
私だって、今朝の打ち合わせで知ったの!
プロデューサーが『今日のテーマは入学式!』 って言うから、ビックリして学校に電話して確認したわよ。
県立高校は今日 入学式だって!」
叔母はぶつぶつと早口で何か言っていたが、頭の中が真っ白になった私の耳には全く届いていなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「お客さん……急ぎ?」
タクシーの運転手のおじさんがミラー越しにこちらをチラチラ見ている。
「ええ……まぁ、出来れば……」
私は額から流れる汗をハンカチで拭いながら、苦笑する。
私達は5分前から、この会話の繰り返し。
「だよねぇ。
おじさんも急いであげたいんだけど、この先 事故があったみたいでね、ずーっと渋滞。
おまけにここ、脇道がないんだよねぇ~
当分、このまま動かないんだけど……どうすっべ。」
駅前で仕事に戻る叔母と別れ、とりあえず入学式に出ようとタクシーに乗り込んだ。
駅前のロータリーを出て 順調に走っていたが、突然 渋滞に巻き込まれた。
朝のラッシュかと思っていたが、信号機の隣に設置された情報案内板には『車両事故発生 烏野方面 渋滞中』 の表示……
この渋滞は当分 解消されそうにない。
「あはは、どうしましょう……」
自分の運の悪さに、笑うしかない。
入学式の日付を間違えるなんて……
おまけにあと30分で式が始まってしまう。
楽しい高校生活を送ろうと、いろいろ考えていたのに!
初っぱなから遅刻なんて……耐えられない。
こうなったら、仕方ない。
「運転手さん、私 ここで降ります。」
「えぇっ、降りる?
いいの、ここで。
烏野、まだ少し先だけど……」
私の申し出にギョッとした表情でこちらを振り返る。
「はい。
ここでじっとしていてもメーターがどんどん上がるだけなんで。」
「まぁ、そうなんだけど……大丈夫?
お客さん、烏野まで行けるの?」
駅前からの道中、「東京から来た」 と話したせいか、おじさんは心配そうな顔で料金メーターの精算ボタンを押す。
「や……微妙ですね。
ここから、どう行けばいいですか?」
私は黒のコートのポケットから がま口を取り出して、運転手に料金を支払った。
「烏野は次の交差点を右に曲がって、ブルーの表示板通りに行けば、着けるが……」
運転手の指差す先、随分先の交差点手前に見える青の表示板。
目を凝らせば、そこに右矢印と『烏野』 の白文字が表示されていた。
烏野まで辿り着ければ、高校までの行き方は何とかわかる。
「ありがとうございます。」
私は座席傍らに置いていた鞄を掴んで、タクシーから歩道に降りると、助手席の窓が突然ゆっくりと開き、
「お客さん、気を付けて~」
運転手のおじさんが笑顔でお見送りをしてくれる。
私もそれにつられるように笑顔で会釈し、鞄の持ち手を肩に引っ掛ける。
烏野まであと少し……
軽く足首を回しながら、おじさんが言っていた言葉を思い返す。
「スニーカーじゃないけど、大丈夫かな……」
今日に限って、叔母から貰った 滅多に履かない3センチのヒールのローファーを選んでしまった。
とことんついていないと悔やみながら、
「仕方ない、行きますか!」
春の暖かな日射しの中、一人小さく呟きながらゆっくりと走り始めた。
えっと、砂羽さんの誕生日、とか……」
「ちっがーう!」
その迫力に圧倒され、叔母の顔から視線を反らすと、
「いっ……だぁ、い!!」
今度は両頬を思い切りつねられ、再び 叔母の顔が視界に入ってきた。
「つばさ、アンタは年の割りにしっかりした子だから、大丈夫だと思っていたのに……
私、買い被り過ぎていたみたいねぇ。」
痛がる私の顔を見ながら、深く溜め息をつくと漸く解放してくれた。
「いっ!
ちょっ……いったい、何なんです……」
私は痛む両頬を撫でながら、恨めしそうに叔母を見つめると目の前にある形のよい唇がゆっくりと動く。
一瞬、何を言っているのか、わからずにぽかんとしていると、
「にゅ、う、が、く、し、きっ。」
先程と同じ言葉が聞こえてきた。
「えっ?
なっ……えぇっ!!」
「ええって、こっちの台詞よ。
私だって、今朝の打ち合わせで知ったの!
プロデューサーが『今日のテーマは入学式!』 って言うから、ビックリして学校に電話して確認したわよ。
県立高校は今日 入学式だって!」
叔母はぶつぶつと早口で何か言っていたが、頭の中が真っ白になった私の耳には全く届いていなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「お客さん……急ぎ?」
タクシーの運転手のおじさんがミラー越しにこちらをチラチラ見ている。
「ええ……まぁ、出来れば……」
私は額から流れる汗をハンカチで拭いながら、苦笑する。
私達は5分前から、この会話の繰り返し。
「だよねぇ。
おじさんも急いであげたいんだけど、この先 事故があったみたいでね、ずーっと渋滞。
おまけにここ、脇道がないんだよねぇ~
当分、このまま動かないんだけど……どうすっべ。」
駅前で仕事に戻る叔母と別れ、とりあえず入学式に出ようとタクシーに乗り込んだ。
駅前のロータリーを出て 順調に走っていたが、突然 渋滞に巻き込まれた。
朝のラッシュかと思っていたが、信号機の隣に設置された情報案内板には『車両事故発生 烏野方面 渋滞中』 の表示……
この渋滞は当分 解消されそうにない。
「あはは、どうしましょう……」
自分の運の悪さに、笑うしかない。
入学式の日付を間違えるなんて……
おまけにあと30分で式が始まってしまう。
楽しい高校生活を送ろうと、いろいろ考えていたのに!
初っぱなから遅刻なんて……耐えられない。
こうなったら、仕方ない。
「運転手さん、私 ここで降ります。」
「えぇっ、降りる?
いいの、ここで。
烏野、まだ少し先だけど……」
私の申し出にギョッとした表情でこちらを振り返る。
「はい。
ここでじっとしていてもメーターがどんどん上がるだけなんで。」
「まぁ、そうなんだけど……大丈夫?
お客さん、烏野まで行けるの?」
駅前からの道中、「東京から来た」 と話したせいか、おじさんは心配そうな顔で料金メーターの精算ボタンを押す。
「や……微妙ですね。
ここから、どう行けばいいですか?」
私は黒のコートのポケットから がま口を取り出して、運転手に料金を支払った。
「烏野は次の交差点を右に曲がって、ブルーの表示板通りに行けば、着けるが……」
運転手の指差す先、随分先の交差点手前に見える青の表示板。
目を凝らせば、そこに右矢印と『烏野』 の白文字が表示されていた。
烏野まで辿り着ければ、高校までの行き方は何とかわかる。
「ありがとうございます。」
私は座席傍らに置いていた鞄を掴んで、タクシーから歩道に降りると、助手席の窓が突然ゆっくりと開き、
「お客さん、気を付けて~」
運転手のおじさんが笑顔でお見送りをしてくれる。
私もそれにつられるように笑顔で会釈し、鞄の持ち手を肩に引っ掛ける。
烏野まであと少し……
軽く足首を回しながら、おじさんが言っていた言葉を思い返す。
「スニーカーじゃないけど、大丈夫かな……」
今日に限って、叔母から貰った 滅多に履かない3センチのヒールのローファーを選んでしまった。
とことんついていないと悔やみながら、
「仕方ない、行きますか!」
春の暖かな日射しの中、一人小さく呟きながらゆっくりと走り始めた。