ヅカとはなたか
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長いラリーが続いていた。
あと一点で終わってしまうという場面。
劣勢だったチームの反撃、エースが打ったその球は白帯に当たり、自分のコートの床に跳ねた瞬間、
『ピーーーーーーーーーーーッ!』
無情にもホイッスルが鳴り響く。
中学最後の公式試合開始を待つほんの短い時間、観客席から眺めていた女子の試合は呆気ない幕切れだった。
「やったーーーーー!!」
「次は決勝よっ!
この調子でいこうー」
「おーーーー!!」
勝者は次も戦えるという喜びで舞い上がり、敗者は今 自分の身に起こった事が信じられないという表情で立ち尽くし……
「……っく、うぅ……」
「ほら、整列しよう……」
徐々に訪れる事実を受け入れる他ない。
「ありがとうございました!」
選手達は観客席に向かうと整列して一礼……
「よくやった!!」
「おめでとう!」
観客席からは拍手と労いの言葉が掛けられ、選手達はそんな中 それぞれのベンチへと戻って行く。
当然、その姿にも明暗が別れる。
「この後、試合だからな。
それまでしっかり休んどけよ。」
「はい!!」
次に勝てば全国へ行ける!
勝った勢いのまま、笑みを浮かべて前を向く者もいれば、
「外でクールダウンした後、ミーティングするからな。
すぐ移動してくれ。」
「はい……」
敗れた選手達は項垂れながら去って行く。
実力を出し切った者、いつも通りにプレー出来なかった者、コートにも立てずにそれを見届けた者……
ここには、いろんな人間の感情が渦巻いている。
「花巻、もうそろそろ俺達の試合だからな。」
チームメイトが声を掛けてきた。
「ああ、すぐ行く。」
俺達の次の試合は準々決勝。
眼下での光景が自分の身にも一刻一刻近付いている事を感じていた。
そうならないようにと願いながら、俺は荷物を手にして立ち上がると、
「平岩 、外でミーティングだ。」
コートから話し声が聞こえてきた。
何の気無しに覗き込むと、先程の試合で敗れたチームの監督が立ち尽くしていたエースに声を掛けている。
小柄なチームメイトの中で一番の長身、長い髪を一つに結い上げ、整った顔立ちはプレー以外でも一際目立っていた。
レシーブで繋ぐというコンセプトのチームの主砲であるウイングスパイカーは、まだ敗れた事を受け入れられないといった表情で、
「監督、私……何がいけなかったんでしょうか?」
声を掛けた監督に背を押されて、一歩ずつ歩き始めた。
「お前はいつも通り、よく頑張ってくれた。
いけない事など何もなかったよ。」
試合中、何度もブロックに止められて、心折れそうな瞬間があっても彼女だけは諦めず、チームメイトをプレーで鼓舞し続けた。
俺はその姿に心奪われてしまった。
「でも、負けました。
いつも通りやったのに、負けてしまいました……」
さっきまでの鋭い眼光はなく、その瞳からは大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。
「そうだな。
だが、お前はこのチームの為に、出来る最大限の事をやってくれたんだ。
恥じる事はない……さ、胸を張れ。」
「……はい。」
その光景を見届けた後の試合は、中学最後の公式戦となってしまった。
✵✵✵✵✵✵✵
「では今日はここまで。」
「起立……気を付け、礼。」
いつもより長引いた帰り際のホームルームもやっと終わり、待ちに待った放課後を迎える。
荷物を手にし、部室棟に向かおうと教室を出た矢先、
「あのっ……これ受け取ってください!!」
突然 声を掛けられた。
その途端、甘い匂いが鼻を擽る……
振り向くと、真っ赤になった一年生とおぼしき女子が紙袋を差し出してくる。
手にしている紙袋、中身は恐らく授業の調理実習で作っているレーズン入りのカップケーキだろう。
今週に入り、こうして一年生女子に差し入れをもらうのは何度目だろうか……
「もらっていいの?」
「はいっ!!
授業で作ったんですけど、先輩に食べてもらいたくて。」
あ……この子、時々練習を見学に来ていたな……
自分も一年の頃に実習で作ったが、焼きたては意外に上手かったのを覚えている。
この子も自分で食べればいいものを……
なーんて考えていた次の瞬間、差し出された紙袋を掴んだ彼女の手は僅かに震えている事に気付く。
学年の違う自分に渡す為、勇気を振り絞ってやって来たのは容易に想像出来た。
「ありがとう。
部活、終わったら頂くよ。」
だから、邪険にすることは出来ない。
「はいっ。
今日も頑張ってくださいっ、私っ…… 平岩先輩の事、応援してますっ!!」
「ありがとう。」
彼女の手から紙袋を受け取り、部室棟に向かう為に再び歩き始める。
「あすかっ、良かったねぇ!!」
「ちゃんと受け取ってもらえたじゃん!」
「うん!
平岩先輩、めっちゃカッコ良かった~」
背後では先程の一部始終を隠れて見守っていたらしい彼女の友人達が何処からともなく現れ、彼女達はワッと歓声を挙げた。
とりあえず、喜んでもらえて良かった……
ホッとしつつ、一歩踏み出した途端、
「相変わらず、モテモテだな、ヅカ~」
何処からともなく聞こえてくる冷やかし。
『ヅカ』→某音楽歌劇団の男役に居そうという自分の風貌から付けられたあだ名
大抵、あだ名とは自分の意に反するような物を付けられるのが、世の常である。
それは自分、 平岩 夏乃にも当てはまる話で……
サバサバした性格と女子の平均より少し高い身長、手入れし易さからショートカットにしている為にそう見える……らしい。
嬉しくもないあだ名で呼ぶのはアイツだけ。
声のする方へ視線を向けると、3年1組の戸口からひょっこりと顔を出した花巻がにやりと笑う。
「それ、止めろ、はなたか。」
一年の頃から呼ばれるソレに対抗する為、ヤツにお似合いの呼び名を投げてやる。
ちなみにヤツの名前が花巻 貴大 の名字と名前の頭文字をそのまま読んだだけだが、『はなたか』という単語に偶然なってしまった。
「それは出来ねぇな。
俺から止めたら、お前に屈した感じがする。」
「何だ、それ。
じゃ、二人同時に止めればいいのか?」
「それも出来ねぇな。
お前に恩着せられた感じがする。」
「何だ、それ。」
あと一点で終わってしまうという場面。
劣勢だったチームの反撃、エースが打ったその球は白帯に当たり、自分のコートの床に跳ねた瞬間、
『ピーーーーーーーーーーーッ!』
無情にもホイッスルが鳴り響く。
中学最後の公式試合開始を待つほんの短い時間、観客席から眺めていた女子の試合は呆気ない幕切れだった。
「やったーーーーー!!」
「次は決勝よっ!
この調子でいこうー」
「おーーーー!!」
勝者は次も戦えるという喜びで舞い上がり、敗者は今 自分の身に起こった事が信じられないという表情で立ち尽くし……
「……っく、うぅ……」
「ほら、整列しよう……」
徐々に訪れる事実を受け入れる他ない。
「ありがとうございました!」
選手達は観客席に向かうと整列して一礼……
「よくやった!!」
「おめでとう!」
観客席からは拍手と労いの言葉が掛けられ、選手達はそんな中 それぞれのベンチへと戻って行く。
当然、その姿にも明暗が別れる。
「この後、試合だからな。
それまでしっかり休んどけよ。」
「はい!!」
次に勝てば全国へ行ける!
勝った勢いのまま、笑みを浮かべて前を向く者もいれば、
「外でクールダウンした後、ミーティングするからな。
すぐ移動してくれ。」
「はい……」
敗れた選手達は項垂れながら去って行く。
実力を出し切った者、いつも通りにプレー出来なかった者、コートにも立てずにそれを見届けた者……
ここには、いろんな人間の感情が渦巻いている。
「花巻、もうそろそろ俺達の試合だからな。」
チームメイトが声を掛けてきた。
「ああ、すぐ行く。」
俺達の次の試合は準々決勝。
眼下での光景が自分の身にも一刻一刻近付いている事を感じていた。
そうならないようにと願いながら、俺は荷物を手にして立ち上がると、
「平岩 、外でミーティングだ。」
コートから話し声が聞こえてきた。
何の気無しに覗き込むと、先程の試合で敗れたチームの監督が立ち尽くしていたエースに声を掛けている。
小柄なチームメイトの中で一番の長身、長い髪を一つに結い上げ、整った顔立ちはプレー以外でも一際目立っていた。
レシーブで繋ぐというコンセプトのチームの主砲であるウイングスパイカーは、まだ敗れた事を受け入れられないといった表情で、
「監督、私……何がいけなかったんでしょうか?」
声を掛けた監督に背を押されて、一歩ずつ歩き始めた。
「お前はいつも通り、よく頑張ってくれた。
いけない事など何もなかったよ。」
試合中、何度もブロックに止められて、心折れそうな瞬間があっても彼女だけは諦めず、チームメイトをプレーで鼓舞し続けた。
俺はその姿に心奪われてしまった。
「でも、負けました。
いつも通りやったのに、負けてしまいました……」
さっきまでの鋭い眼光はなく、その瞳からは大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。
「そうだな。
だが、お前はこのチームの為に、出来る最大限の事をやってくれたんだ。
恥じる事はない……さ、胸を張れ。」
「……はい。」
その光景を見届けた後の試合は、中学最後の公式戦となってしまった。
✵✵✵✵✵✵✵
「では今日はここまで。」
「起立……気を付け、礼。」
いつもより長引いた帰り際のホームルームもやっと終わり、待ちに待った放課後を迎える。
荷物を手にし、部室棟に向かおうと教室を出た矢先、
「あのっ……これ受け取ってください!!」
突然 声を掛けられた。
その途端、甘い匂いが鼻を擽る……
振り向くと、真っ赤になった一年生とおぼしき女子が紙袋を差し出してくる。
手にしている紙袋、中身は恐らく授業の調理実習で作っているレーズン入りのカップケーキだろう。
今週に入り、こうして一年生女子に差し入れをもらうのは何度目だろうか……
「もらっていいの?」
「はいっ!!
授業で作ったんですけど、先輩に食べてもらいたくて。」
あ……この子、時々練習を見学に来ていたな……
自分も一年の頃に実習で作ったが、焼きたては意外に上手かったのを覚えている。
この子も自分で食べればいいものを……
なーんて考えていた次の瞬間、差し出された紙袋を掴んだ彼女の手は僅かに震えている事に気付く。
学年の違う自分に渡す為、勇気を振り絞ってやって来たのは容易に想像出来た。
「ありがとう。
部活、終わったら頂くよ。」
だから、邪険にすることは出来ない。
「はいっ。
今日も頑張ってくださいっ、私っ…… 平岩先輩の事、応援してますっ!!」
「ありがとう。」
彼女の手から紙袋を受け取り、部室棟に向かう為に再び歩き始める。
「あすかっ、良かったねぇ!!」
「ちゃんと受け取ってもらえたじゃん!」
「うん!
平岩先輩、めっちゃカッコ良かった~」
背後では先程の一部始終を隠れて見守っていたらしい彼女の友人達が何処からともなく現れ、彼女達はワッと歓声を挙げた。
とりあえず、喜んでもらえて良かった……
ホッとしつつ、一歩踏み出した途端、
「相変わらず、モテモテだな、ヅカ~」
何処からともなく聞こえてくる冷やかし。
『ヅカ』→某音楽歌劇団の男役に居そうという自分の風貌から付けられたあだ名
大抵、あだ名とは自分の意に反するような物を付けられるのが、世の常である。
それは自分、 平岩 夏乃にも当てはまる話で……
サバサバした性格と女子の平均より少し高い身長、手入れし易さからショートカットにしている為にそう見える……らしい。
嬉しくもないあだ名で呼ぶのはアイツだけ。
声のする方へ視線を向けると、3年1組の戸口からひょっこりと顔を出した花巻がにやりと笑う。
「それ、止めろ、はなたか。」
一年の頃から呼ばれるソレに対抗する為、ヤツにお似合いの呼び名を投げてやる。
ちなみにヤツの名前が
「それは出来ねぇな。
俺から止めたら、お前に屈した感じがする。」
「何だ、それ。
じゃ、二人同時に止めればいいのか?」
「それも出来ねぇな。
お前に恩着せられた感じがする。」
「何だ、それ。」
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