母と私
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チャリン、チャリン……
硬貨が跳ねる音が聞こえた気がした。
2LDKの自宅、狭い部屋の布団の中でふと目覚めると、身体をゆっくり起こす。
部屋は寝る前同様に薄暗く しんと静まり返り、畳の上に物が落ちた様子もない。
私の布団の隣へ視線を向けると、一組の布団……
それは私が夜に敷いたときのまま、誰も使っていない状態。
母はまだ帰宅していないらしい。
再び、横になろうとした瞬間、すぐ側にある襖の隙間から、突然 灯りが射し込んできた。
さっきのは、母が帰ってきた物音だったのか。
私はそう思いながらも、身体を襖へ寄せ、その隙間から隣の部屋の様子を覗き込む。
赤い財布。
私の視界に入ってきたそれは、ふわりと宙に浮いていた。
周りには誰もいないのに、何故?
『……えっ?』
驚いた瞬間、財布から紙幣や硬貨が次々に落ちていく。
先程耳にしたのと同じようにジャラジャラと騒がしい音を立てながら。
震える指をその隙間へ差し込み、襖を掴むとゆっくりと開く。
何かの見間違えだと自分に言い聞かせながら目を凝らす。
その途端、先程のものとは比にならないくらいの大きな音がし、目前では大小様々の硬貨が重力に逆らうことなく上から下へ、次から次へと落ちていく。
『……まただ……』
この光景を目にするのは初めてではない。
もう何度も何度も、嫌と言うくらい繰り返し目撃していた。
……これは夢。
気にしなければ、いつの間にか終わっていく。
そう 頭の片隅で自分に言い聞かせるが、音に掻き消されるように頭の中は混乱していく。
両目を固く閉じ、両手で耳を覆う。
呼吸も乱れ、心臓がバクバクと大きく跳ねる。
『ヤダ……』
夢なら、早く覚めてほしい!
強く念じた瞬間、漸くその音は鳴り止んだ。
これで終わった。
もう、大丈夫。
恐々と両耳から手を離し、再び 訪れた静寂に安堵して息をつく。
そのときだった。
『うちの家はね、これだけしか お金がないの。
だから、アンタにも我慢してもらわないといけないの。
わかる?』
抑揚のない母の声が聞こえてきた。
『わかるわよね、つばさ。』
いつも、私を追い詰める……
冷たいあの声が。
『つばさ。』
朝、玄関先でランドセルを背負っていたときのこと、背後から母に声を掛けられた。
さっきまで、夜勤明けでぐっすりと眠っていたはず。
この時間に起きてくることが今までになかったせいか、驚いて飛び上がってしまった。
『は、はい。』
返事はしたものの、昨夜見た夢のせいか、身体がすくんで動けない。
『学校で何かあった?
随分、うなされていたわよ。』
母はそう言いながら、こちらに近付いてくる。
足音はすぐ後で止まり、私の首元へそっと触れる。
何をされるのだろうか?
緊張しながら、母の指の感触に固まっていると、
『変な夢でも見た?』
ブラウスの襟を直された。
『み、見てないよ……何も。』
私は咄嗟に嘘をついていた。
『そう……なら、いい。
あ、今日は早く帰りなさい。』
母はそう言い終えると、部屋の奥へと戻っていく。
あっさり引き下がった態度に自分の嘘を見抜かれたような気分になりながら、私は学校へと急いだ。
硬貨が跳ねる音が聞こえた気がした。
2LDKの自宅、狭い部屋の布団の中でふと目覚めると、身体をゆっくり起こす。
部屋は寝る前同様に薄暗く しんと静まり返り、畳の上に物が落ちた様子もない。
私の布団の隣へ視線を向けると、一組の布団……
それは私が夜に敷いたときのまま、誰も使っていない状態。
母はまだ帰宅していないらしい。
再び、横になろうとした瞬間、すぐ側にある襖の隙間から、突然 灯りが射し込んできた。
さっきのは、母が帰ってきた物音だったのか。
私はそう思いながらも、身体を襖へ寄せ、その隙間から隣の部屋の様子を覗き込む。
赤い財布。
私の視界に入ってきたそれは、ふわりと宙に浮いていた。
周りには誰もいないのに、何故?
『……えっ?』
驚いた瞬間、財布から紙幣や硬貨が次々に落ちていく。
先程耳にしたのと同じようにジャラジャラと騒がしい音を立てながら。
震える指をその隙間へ差し込み、襖を掴むとゆっくりと開く。
何かの見間違えだと自分に言い聞かせながら目を凝らす。
その途端、先程のものとは比にならないくらいの大きな音がし、目前では大小様々の硬貨が重力に逆らうことなく上から下へ、次から次へと落ちていく。
『……まただ……』
この光景を目にするのは初めてではない。
もう何度も何度も、嫌と言うくらい繰り返し目撃していた。
……これは夢。
気にしなければ、いつの間にか終わっていく。
そう 頭の片隅で自分に言い聞かせるが、音に掻き消されるように頭の中は混乱していく。
両目を固く閉じ、両手で耳を覆う。
呼吸も乱れ、心臓がバクバクと大きく跳ねる。
『ヤダ……』
夢なら、早く覚めてほしい!
強く念じた瞬間、漸くその音は鳴り止んだ。
これで終わった。
もう、大丈夫。
恐々と両耳から手を離し、再び 訪れた静寂に安堵して息をつく。
そのときだった。
『うちの家はね、これだけしか お金がないの。
だから、アンタにも我慢してもらわないといけないの。
わかる?』
抑揚のない母の声が聞こえてきた。
『わかるわよね、つばさ。』
いつも、私を追い詰める……
冷たいあの声が。
『つばさ。』
朝、玄関先でランドセルを背負っていたときのこと、背後から母に声を掛けられた。
さっきまで、夜勤明けでぐっすりと眠っていたはず。
この時間に起きてくることが今までになかったせいか、驚いて飛び上がってしまった。
『は、はい。』
返事はしたものの、昨夜見た夢のせいか、身体がすくんで動けない。
『学校で何かあった?
随分、うなされていたわよ。』
母はそう言いながら、こちらに近付いてくる。
足音はすぐ後で止まり、私の首元へそっと触れる。
何をされるのだろうか?
緊張しながら、母の指の感触に固まっていると、
『変な夢でも見た?』
ブラウスの襟を直された。
『み、見てないよ……何も。』
私は咄嗟に嘘をついていた。
『そう……なら、いい。
あ、今日は早く帰りなさい。』
母はそう言い終えると、部屋の奥へと戻っていく。
あっさり引き下がった態度に自分の嘘を見抜かれたような気分になりながら、私は学校へと急いだ。