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【触れたい】

 犬橇が怖い。
 月島はそう思いながらエノノカの祖父が操る犬橇に乗っかっていた。
 なんというか、言ってみれば地に足のつかない乗り物が苦手なのだ。けれど、鯉登のわがままで犬橇に乗ることになり、まったく以って、月島は溜息しか出ない状況下にある。
 犬たちは元気よく走っており、かなりのスピードが出ている。クズリでさえ追いかける気にならないほど早い乗り物になど、乗りたくない。
 それを、月島は誰にも言ったことが無い。
 誰にも弱みなど見せたくない。見せた時点で、終わりだと思っている。
 だがこの犬橇だけはべつだ。
 月島は前に座っている鯉登の身体にしっかりと腕を回し、振り落とされないようにと願いながら必死になってしがみついていると、風によって鯉登の髪がさらさらと流れているのを見つけた。
 それは何ともきれいな様で、鯉登の髪がとても不思議なことを月島は知っている。
 純粋な黒髪かと思えば、陽の当たり具合によっては青みがかって見えたり、紫っぽく見える髪はとても魅力的で、流れるその髪を見ているうち、触りたい欲求がせり上がってきてつい、手を伸ばして握ってしまうと、鯉登の大声が耳を劈いた。
「いたたたたた!! 痛いっ! 痛いぞ月島っ!! なにをするっ!!」
「えっ……あ、す、すみません。その……」
「今度やったら切って捨てるぞ!! なんなのだ一体……!!」
「いえ、流れる髪が……とても、きれいだなと。すごくきれいで、つい手が出ました。すみません……」
「私の髪? ああー……まあ、そう言ってくれるのは嬉しいがな。だが、引っ張ることはないだろう。なに、髪ならば二人きりになった時、いやってほど触らせてやる。だから、今は我慢だ。分かるな?」
 それに月島は言葉なく頷き、風になびく髪を眩しそうな目で見つめるのだった。
 早く二人きりにはなりたいが当分は無理だ。
 ああ、早く早く早く、鯉登と二人きりになりたい。
 旅は未だ始まったばかりだ。あの髪に触ることができたなら、自分の想いを伝えよう。
 鯉登は知っているが、交際しているからとて油断はできない。何処の誰に掠め取られるか分かったものではないから、今すぐに好きと言いたい。
 好きと言って、抱きしめてキスをしてそして、あの髪に触れたい。
 ずっと触れていたい。

Fin.

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