投げキッスはきみだけに

 そして、首元に顔が埋められすんすんとにおいを嗅がれたと思ったらくすっと微かに笑った。
「なにがおかしい。笑うところかこれが!」
「いえ、今日は少し汗のにおいが強いと思いまして。何しろ、大活躍でしたからね。私的には良かったのか悪かったのか分かりませんが」
「良かったに決まっているだろう。あそこまで華麗な私を見ることができるのはあそこに居た人々だけだからな。そこにはお前も混ざっている。想い人を素敵と思えることは大切だぞ」
 ちゅっと首の付け根に口づけられ、身体が勝手にピクッと動いてしまうのを感じながら腕を月島の背に回すと、やはり同じく月島からも少しの汗のにおいがする。
「お前も少し、汗のにおいがする」
「風呂行きますか。夜は長いですし、ああでも、今日は早く休みたいですね。疲れたでしょう?」
 それには不服を申す鯉登だ。背中に回した腕に力を籠め、月島の頭に擦り寄りながら歌うように言葉を口にする。
「私たちは交際しているのだぞ。夜は長いのだろう? だったら、もう少し……こうしていても、罰は当たるどころか私は未だ全然足りていない。分かってるか、月島ァ。この、鈍感め」
「鈍感はそちらでしょう? あなたこそ、私がどれだけ我慢してるか知らないくせにそういうことを」
「……下、脱がせてくれるか。未だ食事までには時間がある。お互い、欲求不満の身だろう?」
 そう言って挑発すると、徐に月島が首から顔を上げ、じっと鯉登の顔を見つめてきて、複雑そうな顔には明らかに困惑が浮かんでいる。
「どうした。何を迷うことがある。お前はあれか、気持ちイイコトはきらいか? 私は好きだ。お前とする気持ちイイコト……好きだが?」
「あなたは……本当にどうしてこうも、こうなんだか」
「なんだその日本語は! なっとらんぞ! 言いたいことがあるならハッキリと言え!」
 するとずいっと月島が近づいてきて、耳元でこんなことを囁き鯉登の顔を赤くさせた。
「……鯉登少尉殿、淫乱だ、あなたは」
 その低い声が何故だか感じてしまい、思わず身体をビグッと跳ねさせてしまうと下穿きに月島の手が伸び、ぎゅっと股間を握られそこでもビグビグっと身体が動いてしまい、腰が少し反り上がる。
「うぁっ!! あ、あ、あぁっ……!! あ、やっ!! い、きなりっ……!!」
「お気に召しませんか、こういう触れ方は。あなたは助平なのでお好きかと思ったのですが」
 胸を激しく上下に動かし、甘い吐息をつきつつ、負けん気の強い鯉登は吐息と共に言い返す。
「助平はお前の方だろう……! 私の舞台衣装姿に欲情したくせに、自分だけいいようなことを言って」
「身体が正直なのはあなたの方が上です。確かにあなたの舞台衣装はかなりキますが、剥いてしまえば同じこと」
「剥っ……!? い、言い方を考えろ!! 大体、脱いでしまったらいつもと同じ私の裸だ。意外と間抜けだな、月島ァ」
 話している間も股間を揉む手は止んでいなかったので、快楽に顔を歪ませながらも強気な発言をすると、月島がハッとした顔を見せ、腕を引いて鯉登の上半身を起こすと、いそいそと脱がせた服を着せにかかっている。
「そうでした、これを着ていないと……私としたことが」
「……暑いぞ。それに、動きにくい」
 だがしかし、月島はしたり顔でさっさと服を着付けてしまい、前だけをはだけたなんとも言えなく中途半端な中にもエロスが見え隠れするような着せ方をして、うんうんと頷いている。
 それに満更でもない気持ちを抱いたのでちょっとしたいたずら心も含めて投げキッスをしてやると、一気に月島の顔が真っ赤に染まる。
「……っそれ、止めてもらえません……? ホント、ちょっとマズイです」
「なにが。これがか?」
 もう一度、今度こそ遊びのつもりで投げキッスしてやると、そのまま月島ががばっと抱きついてきてそのまま床へと押し倒されてしまう。
 そのなんとも鮮やかな身のこなしに、抵抗どころか驚いて固まってしまう。だが、すぐにその手は下肢に伸び、すりすりと股間を撫で回され、思わずのどを反らして「はっ……!!」と大きく息を吐くと覆いかぶさってきた月島に耳たぶを齧られ、その舌は迷わず耳の中へと入っていく。
「あっ、やっ……! き、汚いぞ! た、多分……洗ってはいるが、そこはだめだ!! 止せ月島!! つ、つきしま!!」
「耳、美味いです。ちょっと脂っこいですが、鯉登少尉殿の味がして……美味い」
「こ、この変態っ……!!」
 何とか月島の顔を押し返そうとするが、股間をさらに揉み込まれることで抵抗も薄くなり、そのうちに下穿きの帯に手がかかり、しゅるっと音を立てて解かれ、ゆるっと衣装の形が崩れ出す。
「はっ、はあっ……ん、つきしま……ふっ、ふっ、はあっはあっ、時間が、無いぞ。そろそろ夕食の時間だ。どうするつもりだ? こんなことまでして」
 そう言って手を伸ばし、逆に月島の股間に手をやって揉んでみると、そこは硬くなっていて、膨らんでいるようだった。こうなってしまえば、どちらも後には引けない。
「挿れ……はしないな? 挿れないな? い、挿れるのはその……風呂、風呂の後がいい」
「……そうですね。私も風呂の後がいいですが……この始末をつけないことには夕食もなにもあったもんじゃありませんよ」
「挿れるのか!? む、無理を言うな!」
「いえ……じゃあ、これでいきましょう。あなたも結構好きなアレです。私が下になりますから、あなたは上に乗ってください」
 そこで、月島がなにをしようとしているのか察する鯉登だ。
「アレ……兜合わせ、というやつか。アレ、か……ま、まあいい。風呂の後にするんだったら、私も今はこれしか無いと思う。引けないのだろう? 私もだ」
「積極的ですね。そんなあなたもきらいじゃないです。寧ろ……好ましいですね。淫乱は好きです」
 淫乱と言われ、一気に鯉登の怒りが頂点に達してしまう。元々導火線が短いのだ。すぐに怒るクセを何度かしろと月島に口うるさく何度も言われているが、これはきっと性質だろうと思う。
「淫乱とはなんだ、淫乱とは!! 私の何処がいやらしいんだ! いやらしいのはお前の方だろう! この、ド助平!! 変態!!」
「……言ってくれますね。そんなにひどくされたいんですか? 挿れますよ、そんな口叩くと」
 その言葉に、ぱくっとすぐさま口を閉じる。挿れるのだけは阻止せねば。流されて挿れられて夕食が台無しになるのだけはゴメンだ。
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