晩秋の百合


 両手で掴んでいた軍服を離し、その手を月島の首へと回して引き寄せるように爪で引っ掻くと、さらに強く唇を吸われてしまい思わず息が上がる。
「はっ……ん、ん、んむ、んっんンッ! はっあっ……つきし、ま、ぐん、そうっ……」
「音之進……」
 月島の両手が上がり、それは鯉登の両頬を包み込み、冷たいその手はすぐに鯉登の熱で温まって、二人の体温が溶けあうような、そんな官能がじわりとやってくる。
 いつも思うことだが、ここまでで済んでそれで月島の心が手に入るのならここで終わりたいと思う。だが、彼の求めているモノと鯉登が求めているモノは違う。
 何故、身体と心は常に一体ではないのだろうか。鯉登の月島に寄せる想いは本気で、本物だ。けれど、身体の繋がりとなるとそれはまたべつの話で、応えられないとハッキリ言ってしまえばきっと、関係は終わる。
 この心地いい口づけも二度と、してくれなくなるだろう。それが、怖い。離れていって欲しくないが、性交自体は恐ろしい。男同士で、あんなところを開いて月島のソレが胎内へと入る。
 無理だ。
 できないと言いたい。けれど、言ってしまえば終わる。このジレンマは一体何なのか。これが、男で、そして上官に恋した罰なのか。
 そんな鯉登の気持ちとは裏腹に、早速不穏に月島の手が蠢き出し脇腹のラインをざらっと性的な意味合いを含めた撫で方で触れられ、思わず身体がビグッと跳ねてしまう。
「んっ! ん、ん、んンッ! やっ……や、止め、ぐん、そ……つき、し、ま」
 身を捩る鯉登だが、月島はさらに迫ってきて口づけが深くなる。強く唇を吸われ、時々舌が口を開けと言わんばかりに唇を舐めてきて、開けないといつまででも吸うだけの口づけが続く。
 それも、ただ吸うだけじゃなくねっとりとした、言ってみればかなり性交に近いくらいの濃密さとでも表現すればいいのか、とにかくいやらしいのだ。月島から施されるのはそういったものばかりで、慣れていない鯉登にとっては、ただただ戸惑うしかなく懸命に彼について行くのが精一杯で、本音を言うと、口づけも怖い。
 だが、軽いものじゃ満足できない。ここでもまた、ジレンマが発生する。己のわがままさ加減がこんなところで発揮されるとは思ってもみなかった。
 もっと素直になれば、受け入れられるのだろうか。彼の口づけも愛撫も、彼の中心で息づく、彼自身も、己の身体で受け止めることができるのか。
 分からない。
 そんな迷いに気づいたのか、月島の口づけが少しだけ優しいものに変わるが、離れてはくれない。
 少し手で月島の肩を押すが、それは単に彼の中の男を刺激しただけでさらにしつこく唇を吸われ、首を振って離れたくとも頬を包まれているのでそれもままならない。
 完全に逃げ道が塞がれている。
 諦めの気持ちを胸に、少しだけ口を開くと間髪入れず、すぐに月島の舌が咥内に入り込んできてナカをべろりと大きく舐められる。その生温かで柔らかな舌が動き回る感触に身体を震わせると、それはどうやら快感によるものと取られ、もう一回、今度はもっと深く舐られる。
 月島の味が口全体に拡がり、まるで咥内が犯されているようだ。いやな味ではないし、寧ろどことなく日向のようなその温もりを感じる味に不服など無いが、それでもやはり、鯉登には未だ未だ慣れない口づけで、深く探られれば探られるほどに、泣きたくなるほど恐ろしくなるのだ。
 この先へ行くのが、心底に怖い。鯉登の中の誰かが言う。すると勝手に身体が硬くなり、口づけもぎこちなくなっていく。
 そのことに気づいたのか、徐に口づけが解かれ、眼を開けると月島も眼を開けていて見つめ合いになる。
「……どうした」
「いえ、なにも……た、ただ、月島軍曹は、慣れているのだなと。接吻はいろんな人としましたか」
「まあ、それはそこそこ数はこなしているが。なんだ、気になるか、俺の過去がそんなにいやだと?」
 それは大いに間違っているので慌てて首を横に振る。
「ち、違っ……ただ……何故、オイにこんなことをするのか、聞きたくなって。オイの気持ちに応えようとしてくれているのは分かります。けれど……あまりに、月島軍曹は慣れ過ぎてて、オイは……少し、怖いです」
「怖い? 誰が、俺がか」
 無言でこくんと頷くと、目の前で大きな溜息を吐かれる。
「だったら、無理やり犯してやろうか。その方が手っ取り早い」
「えっ……」
「俺の気持ちがどこにあるのか、身体で思い知れ音之進」
 言うが早いか、いきなりタックルを食らわされたと思ったら、ばさっと布団の上へと押し倒され、そのまま軍服を毟り取られるようにして脱がされてしまい、月島の武骨な手が鯉登の色黒の肌に早速這い始める。
 全部剥かれたわけではないが、上半身は殆どはだけていると言ってもいい。
「……きれいなカラダだな。未だ、誰の手も触れていない俺だけが触れている、肌か……これは随分と、汚し甲斐がある」
「よご……? 汚し、なに? なんです、オイに一体、なにをっ……っあ!! 止めっ、て!」
 突然のことで頭がついていかず、混乱して戸惑っているのをいいことに、いきなり首元に顔を埋められ、熱い息が降りかかる。そして、下から上に向かって何度も舐めしゃぶられ、思わず身体を震わせてしまう。
「あぁっ……! 止め、止めてください!! いやっ……いやです!!」
「いいから感じてろ。そのうち何も分からなくなる。分からなくしてやるから大人しくしろ」
「いやっ……!! やぁっ……!!」
 懸命に月島の身体を両手で押し返そうとするが、明らかに押し倒されている鯉登の方が分が悪い。何しろ、体重をかけて身体の上に乗っかられているのだ。
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