秋が見ている

 だが、身体は燃えるように熱く、寒いと感じることは無くそれどころかどこもかしこも熱くてたまらない。まるで、サウナにでも入っているような気分だ。頭のてっぺんからつま先まで、至るところに熱が拡がり、苦しくそしてひどく心地いいこれは一体なんだろうか。
 月島の手が肌を撫でると、そこから一気に熱が拡がるのだ。その正体が快感だということを未だ感じ取ることができない鯉登にとっては、何をされているかが分からないのでただ、恐怖しか感じない。
 だが、そんな鯉登とはべつに、月島も息を荒くしつつひたすらに鯉登の肌を手で犯してくる。そういった言い方が正しいくらいにひたすらに、撫で擦っては手のひらに感じるその温度と手触りを心底から愉しんでいるようにも思える。
 羞恥と恐怖でどうにかなってしまいそうだ。
 そんな鯉登の気持ちすらも奪うよう、制服のボタンはすべて外されてしまい、無骨な月島の手が滑らかな鯉登の若い肌の上を、味わうように撫でてくる。その触り方一つとっても性的な意味合いを含んでおり、その官能的な雰囲気に押されるよう、つい熱い吐息をついてしまう。
「あっ……は、あっ……ぐん、そうっ」
「どうした、感じたか? んじゃあ、コッチはどうかな」
 コッチとはどっちだと聞く前に、するすると月島の手が鯉登の下肢に伸び、いきなり股間を握り込まれ、思わず身体がビッグンと大きく跳ねてしまった。
「あぁっ……! やっ、いやだっ!」
「いやじゃなくて、イイだろ? ココ、男だったら感じる場所だもんな。お前も例外じゃない。だろ?」
「はあっはあっ、も、もう止めっ……いいでしょう? もう、止めても」
 すると、月島は軽く笑って下穿きのボタンを外し始めてしまう。
「まだ何も始まっていないじゃないか。もう終わりって、始まってもいないよ鯉登。分かるか」
「分からないっ……! なにも、知りたくないっ……!」
 必死になって拒否するが、股間を握っていた手はリズミカルに揉むように動き、思わず身を捩ると、くすっと月島が笑ったのが分かった。
 それに悔しさを覚えないでもないが、しかしこの先に行くのが怖い。とてつもなく、怖く感じて仕方がない。
 一体、月島はなにをするつもりなのか。自分の身体を使って、月島がなにをしようとしているのかが分からない鯉登にとって、この行為はただの恐怖でしかない。だが、身体はしっかりと快感を感じ取ってしまっている。
「ん、勃ってきたな。膨らんできてるぞ、下。気持ちイイか、音之進。イイんだろうが」
「それはっ……ち、違っ……! 良くないっ、良く、なんかっ」
「俺も気持ちよくしてくれるか?」
 ずるっと下穿きをずらされ、膝下まで降ろされたところで鯉登の股間に月島の股間が押し当てられ、そこで月島の興奮を知る。かなり膨らんで、勃っているようだ。
 しかし、オス二人で一体何ができるというのか。
 思わず月島の顔を確認すると、それは完全に征服者の笑みを浮かべており、ニヤニヤと笑いながらさらに股間を押し付けてくる。
 そのたびに快感が湧き上がってはさらに鯉登は身体を熱くしてしまう。
「はっはっ……や、いやだっ! も、止めてください、ホントに、止めて……!」
 だがしかし、無情にも拒否の言葉は無視され、鯉登の股間を覆っているふんどしに月島の手がかかる。
 そこで、一気に感情が弾け、ぶわっと眼に涙が湧き、それは重力に従ってこめかみを伝って流れ、布団の上に染みができる。
「ふっふっ、や、いやだっ……! も、いやだっ……! こわ、怖いっ、軍曹が、怖い」
 ぐすぐすと泣き出した鯉登をどう思ったのか、月島の手が止まりそして身体の上から退き、布団の上でなく鯉登の隣へと乱暴に胡坐をかいて腰を下ろした。
「泣きじゃくる者を無理やり犯すほど、俺も鬼畜ではないのでな。というか、泣くな。これはお前が望んだことだろうが」
「違うっ、こんな、こんなことしてくれなんて、言ってないっ!」
 またしても、月島の大きな溜息が聞こえ、思わず身体が震えてしまう。怒らせたのだろうか。だとしたら、この後が怖い。
 そう思って身体を固くしながら泣いていると、くるりと振り向いてきた月島の顔はいつもの月島で、呆れ顔で鯉登の身だしなみを整えていく。
 そしてそれが終わると、無言で布団の中へと潜り込んでしまったので、その後を追うように涙も拭わず、慌てて月島の隣へ寝転ぶと、身体に腕が回り抱き込まれてしまう。
「今日は、これで終わりだ。だが、今度こそこれで済むと思うな。さ、寝るぞ。明日も早い」
 ぐすっと鼻を啜り、目を瞑ってしまった月島の唇を、鯉登はじっと見た。
「……眠るんですか?」
「ああ、寝るな。お前が抱かせてくれないから、もう寝る」
「だったら……寝る前に、一つ接吻をください。そしたら、オイも寝ます」
 すると、月島の片目が開く。
「なんだ、お前俺が怖いんじゃなかったのか」
「怖かったけどでも……寝るなら、接吻して欲しい」
「仕方ないな……とは言っても、俺も嬉しいか」
 そっと目を瞑ると、唇に優しい感触が拡がる。
 この先に行けばなにがあるのか分からないが、今度こそ怖がるのは止そうと決めた鯉登だった。
 そうすればきっと、月島のいろいろなことが分かる気がして。
 彼のすべてが、手に入ればきっと、幸せだろう。そんなことを想いながら、鯉登は隣で寝転ぶ月島に寄り添い、そっと目を瞑ったのだった。
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