秋が見ている
そして強引に立ち上がらされ、ふらつく身体を抱えられたと思ったら月島が勢いよく襖を開け、そのまま柔道の要領で布団の上へと放られ、間髪入れず月島が覆いかぶさってくる。
「やっ……! 月島、軍曹っ……! やっ、いやっ……止めっ、止めてください! やっあっ」
首元のホックがピンッと音を立てて跳ね上げられ、手際よく制服のボタンが外されていく。必死でそれを止めようとする鯉登だが、月島の方が圧倒的に場慣れしており、一枚も二枚も上手で、鯉登の官能を引き出すように手のひらではだけた肌を舐ってくる。
「い、や、だぁっ……! ぐん、軍曹っ! いやっ……!」
身を捩って何とか月島の下から抜け出そうとするが上手くいかず、次第に息が荒くなってくる。
「おい、暴れるなよ。コトが運びにくいだろうが。大人しくしてろ。大事に扱ってやる」
その言葉遣いも態度も、普段の月島とまるで違う。別人のようだ。
「やっ……!」
もがきたくり、やっと月島の腕の中から抜け出ることができたと思ったが、すぐに片足を引かれて布団へと逆戻りしてしまい、ぎゅっと目を瞑って身を硬くすると、まるで先ほどの月島とは思えないほどの柔らかい声色で名を呼ばれる。
「音之進、済まない。俺が少し性急すぎたようだ。怖がらせてしまって済まないな。眼を開けてこちらを見なさい」
「やっ、いやですっ……! あなたは軍曹じゃない! オイの知ってる、月島軍曹じゃないっ……!」
「音之進。俺だから、いいから眼を開けてこちらを見ろ。怖くないから。……音之進」
恐る恐る硬く瞑っていた眼を開け、薄目で目の前を見ると、そこにはいつもの月島がいて、何となくホッとしてしまう。
「あ……」
「済まない。随分と怖がらせてしまったようだ。いや、俺も男だからね。溜まる時は溜まる。お前にだって分かるだろう?」
「わ、分かりません……」
「女性経験が無い、か。そうか。だったら、今から俺の馴染みの店にでも行くか? 童貞喪失だ」
「そうすると、軍曹は自然と女を抱くことになる。それは……いやです」
「なら、女になれ鯉登。覚悟を決めて、俺の女になりなさい」
「それはっ……」
堂々巡りだ、これでは。いつまでも続くこの不毛なやり取りに、いい加減決着をつけたい。
「分かり、ました……。月島軍曹のお好きになさってください。けれど、オイは女にはなりません。男のまま、あなたに抱かれます」
「よし、結構。じゃあ、続きいくぞ。ああ、少し緊張してるみたいだから、あれか、接吻でもするか。鯉登、俺とする接吻は好きか」
「それは、好き……です」
すると、あごを掬い上げられてしまい、自然と月島と視線が交わる。至近距離にあるその黒目はなにを考えているのか分からない色を宿していて、ついじっと見つめてしまうと目の前の顔が僅かに笑み、それに見惚れていると唇に柔らかな感触が拡がる。
「んっ……ん、んンッ! んっ……」
月島と、接吻をしている。大好きな、月島と。そのことが鯉登の気持ちを官能的に押し上げていく。
自然と、両手が持ち上がり月島の首に絡めてしまう。
しかし不思議な味がすると思う。月島と口づけるのはこれで二度目だが、やはり同じことを思う。大体がして、口づけしたのが月島が初なので他の人間と交わしたことが無いのでそう思うのか、クセになる味、そして感触だと思う。生温かくて、湿っていて、そしてひどく柔らかなそれはあっという間に鯉登を虜にし、さらに先を強請ってしまう。
しかしどうしていいかも分からないので、取りあえずきつく唇を月島のソレに押し付けると、まるで落ち着けと言わんばかりに優しく唇を啄まれるようにして吸われ、その優しい感触にも感じ入ってしまう。何度も唇を吸われ、鯉登からも恐る恐る月島の唇を吸ってみると、これまた柔らかで甘いような感触がしてつい、何度も吸ってしまうと今度は唇を舐められてしまう。柔らかな舌の感触が気持ちよく、つい口を開けてしまうとするりっと月島の舌が咥内へと入り込んできて、ナカをべろりっと舐められる。
「んンンッ! ん、ふっ……は、あっはっ……!」
そのまま舌はナカを探るように動き、上顎を丁寧に舐めてくる。その初めて感じる感触に、鯉登は身体を震わせた。すると、月島の手が不穏に動き出し、先ほど開かれた胸元へと手が差し入れられる。そして、ざらっと肌を撫でられ、そこでも反応してしまい身体が勝手にビグッと跳ねる。
「んンッ! ん、あっ……や、ソコ、ぐんそうっ……!」
「肌がきれいだな、お前の肌はイイ。まるで手に吸い付いてくるようじゃないか」
「し、知らないっ……! ぐ、ぐんそうっ、月島、ぐんそうっ、はあっはあっあっあっ」
思わず身を捩ると、まるで許さないとばかりにさらに手は服の奥へと入っていく。
勝手に息が上がってしまう。この愛撫に関して、特に快感を感じ取っているわけでもないのだが、何故か呼吸がひどく乱れる。
「興奮、してるのか?」
「ちがっ……! なんか、変っ……! カラダ、熱っ……あっ」
さらにボタンが外され、だんだんと服装が乱れてくるにつれ、月島の手が這う部分もその分多くなり、色黒の肌が次第に部屋の冷えた空気に晒されていく。