蜜蜂ノ針


 じっと勇作を見つめると、その眼は明らかに嫉妬に燃えていてゆらゆらと炎が燃えているように勇作の黒目が揺れている。
「ゆうさく、どの……?」
「そんなにしたいのでしたら、お付き合いします。挿れることはできなくても、イかせることはいくらでもできますから。それで兄様が満足してくださるなら、私はやります。絶対に、兄様は離さない……! 私の兄様ですから。女性の元になど、やるものかっ!! あにさまっ……!! 兄様は、私のモノだっ!! 誰にもやらない!!」
「ゆ、勇作殿っ……」
 そのままの勢いで首元に顔を埋められたと思ったら、ひどい痛みが首に走った。噛まれたのだと気づいたのは一拍後で、ぎりぎりと歯を立てられているソコは、痛いが何故か気持ちよく、思わず熱い吐息をついてしまう。
「は、はあっ……ゆ、さく、どのっ……!! あ、あっ」
「兄様は私のモノでしょう!? そう言ってください!! 兄様の口から聞きたい!!」
「勇作殿が誰のモノでもないように、俺も誰のモノでもない。……どうしてだか分かりますか。それは勇作殿に覚悟が足りないからだ。俺のために童貞を捨てる覚悟さえ無い人間に、こんなことされたくない。離してください。怒りますよ」
 一瞬、勇作が怯んだのが分かったが、すぐに立て直してきて今度は噛んだ部分を丁寧に舐め始める。あからさまな快感が首に走り、身を捩らせると勇作が顔を上げ、至近距離でじっと尾形を見つめてくる。
「こんなに、愛しているのに……何故……」
「勇作殿が子どもだからですよ。女を知らないという意味ではなく、ただの駄々っ子のガキだ。もう、止しましょう。どうせ、俺と勇作殿は腹違いとはいえ実の兄弟なんですから。結ばれるのは到底無理だった。そういうことにして、離してください。早く女を抱きたい」
 尾形は自分が何を言っているか、よく分からなくなってきていた。こんなことを言えば、大事に築き上げてきた勇作との関係がバラバラになってしまう。
 今度こそ、違う意味で後戻りできなくなる。先ほどの男は簡単に切ることはできるが、勇作までもを切り落として一体、何処へ向かうつもりなのか。
 離したくないという気持ちと、未だ身体に渦巻いてとぐろを巻く性欲がせめぎ合いを始め、ますます頭が混乱してくる。
 取りあえず、一旦性欲を治めないことには冷静に物事も考えられない。それほどまでに、この三月に一度の性欲は強いのだ。そして、粘っこい。
「黙ってください……兄様。分かりました、兄様の言いたいことは。けれど、私に兄様と離れる気は無い。離して、たまるものかっ……!! 兄様は、私の、私だけの兄様です。実の兄弟だから? 今さらでしょうそんなの。そんなに色事がしたければ、私が相手です。満足させてみせましょう。そしたら、兄様は私の兄様でいてくれますね? そうだと言って!! 言ってください!!」
「……勇作殿にできますか。何も知らないお坊ちゃんに、俺の相手ができるとでも? 勇作殿が相手なら、俺は抱かれたい。けれど無理。お話になりませんね」
 そう言って軽く笑ってやると、じんわりじんわりと勇作の切れ長の瞳に涙が盛り上がり、するっと頬の丸みに従って滑り落ちた涙はぽたぽたと尾形の顔の上に落ち、美麗な顔が目の前で悲しげに歪む。
「あにさま、これだけは知っておいてください。私はずっと、待っていると。兄様が誰を抱いても、私はずっと兄様を待っています。愛して、いるんです。これでも、兄様を愛してるっ……! どうか、忘れないで……忘れないでいて」
 ゆっくりと勇作が上から退き、泣き崩れるその身体を思い切り突き飛ばし、仰向けにさせて唇を奪う。
「あにっ、さ、まっ!!」
 強引に口づけると、勇作が動き素晴らしい身のこなしであっという間に尾形がベッドに沈み、逆に勇作から口づけてきて、夢中になってその柔らかな感触を受け入れ、そして溢れ出てくる涙もそのままに勇作の首に腕を回し、離れられないようにして改めて降ってくる情熱的なキスに溺れる。
 勇作はどうやら、泣きながら口づけているようでしきりにぐすぐすと鼻を啜っては尾形の唇を吸うたびに顔に涙の雫が落ちてくる。
 もらい泣きでもしたのだろうか。
 尾形の両眼からも涙が溢れ、それは重力に従ってこめかみを流れて布団に吸い込まれていく。
「はあっはあっ、あに、あに、あ、あにさまっ、あに、さまっ」
「ん、んンっ、ふっ、はあっ、ゆ、さく、どのっ……!!」
 身体を絡ませ合い、腰を使っての互いの猛りを押しつけ合いながらの口づけは激しく、尾形の思考さえも奪っていく。
 もうこのまま、身体だけになってしまいたい。余計な考えは捨てて、勇作の熱に蕩かされたい。溶けてしまいたい。
 欲望は果てしなく尾形の身体を焼き、ますます強くなった肉欲に歯噛みする。めちゃくちゃに抱かれたい。他の誰でもない、勇作にめちゃくちゃにされたい。
「はあっ、んっ、ゆうさく、どのっ……! ん、もっと接吻、接吻をっ、んむっ!! んむうぅっ!!」
 強請りの最中に激しくなった口づけは、痛みも混じったもので、まるで咎めるように舌を何度も噛まれた。そして、噛んだところは丁寧に舐め上げられ、そしてまたきつく噛んでくる。そして舐める。何度その繰り返しをしただろう。
 舌は食まれ過ぎて感覚が鈍くなり、ただただ快感だけが残ったその口づけは甘く尾形を蕩かしていく。
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