蜜蜂ノ針


 もはや勇作の自室は二人の愛の巣と化しており、尾形から進んでキスをもらいに行くこともあれば、勇作から誘われることもあり、大体のところは勇作から誘う方が多かったが、尾形が進んでいった時の勇作はとにかく激しい。
 ある時などはベッドに押し倒され、服を半分剥かれ愛撫の嵐に遭ったこともあった。今がまさしくそれだ。
 少し勇作の顔を見ていないと思い、愛の巣という勇作の自室に足を運んだ。居るかどうかは分かりかねたが、居なければ女を抱きに行ってもいいと思いながら扉を優しく叩く。
「勇作殿、尾形です。……居ますか?」
 するとすぐにでも扉が開き、頬を真っ赤に染めた勇作によって部屋に引き摺り込まれ、早速熱い抱擁に遭う。
「兄様っ……!! ああ、嬉しい。兄様が来てくれた。実は……今から兄様を探しに行こうと思っていたところだったので、余計に嬉しいですね。兄様、あにさまっ……!!」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめられ、若干苦しいが愛おしさの方が勝ち、尾形からも勇作の背に腕を回し、ぎゅっと抱きつくとかおる優しい勇作のにおい。
 一気に心に幸せが拡がっていく。
「はあっ……勇作殿……!!」
「あにさま、好き……いいにおいがする。兄様はいつも、温かなにおいがしますね。ん……いつまでも嗅いでいたいにおい。幸せのにおいです」
 妙なことを言うと思う。変態が過ぎやしないかと不安になるが、尾形もすうっと鼻を鳴らして勇作のにおいを嗅ぐと、それは優しいかおりがして勇作で言うところのずっと嗅いでいたいにおいが分かった気がして、自然と笑んでしまう。
「あにさま……」
 不穏に動く勇作の両手。その手は尾形の背中から腰へと移動し、さらさらと撫でられたと思ったら、いきなりだった。
 尻に伸びた手は性的な意味合いを含めた触れ方で優しく揉みしだいて来て、思わず身体を震わせてしまう。
 何処でこんなことを覚えてきたのか、最近の勇作の色事への上達ぶりは尾形も呆れるほどに積極的で、教えた尾形本人ですら引いてしまうほどに迫ってくるのだ。
 今も、尾形の尻を緩急つけて揉んできて、強く揉んだかと思えばまるで壊れ物を扱うように揉んだり、または潰れるほど両手で掴んできたりとやりたい放題だ。
 しかし、それに感じてしまっている自分がいて、痛いだとか気持ちイイだとか揉まれている最中はいろいろ思うが、総じていやではないので好きにさせてしまっている。
 それが勇作をさらにイイ気分にさせているようで、長い腕を利用して会陰部にまで指を突っ込んでは悶えさせられたりと、勇作は尾形と同じく色事に関しての関心が高いのではないかと睨んでいる。
 血は血だということだろうか。
 腹違いだが、兄弟なのだ。そこら辺が似ていても不思議ではないが、複雑な気分だ。あれだけ清いと思っていた勇作が実は、色事大好き兄様大好きの堕ち切った人間だとは。
 だが、悪い気はしない。寧ろいい気分だ。きれいな顔の皮一枚剥げば中身は淫乱そのものだとはまったく、笑わせてくれる。
 だが、そんな勇作も好きだと思う。というより、好き過ぎて困る。見た目のまま清いと腹が立つが、中身を見れば他の連中だとて呆れるほどの色事好きというのを、自分だけが知っている。
 なんていい気分なんだろうか。そんな勇作が好きなのは、実の兄である自分。退廃が過ぎているが、そんな勇作だからこそ愛おしいと感じるのかもしれない。
「はあっ、んっ、んっ、勇作、殿もっと、もっと揉んでください。気持ちイイッ……!!」
「はあっはあっ、んっく、あにさま……? はあっはあっ、兄様、あにさまっ!!」
 ぐいぐいと勇作が歩を進めて距離を無くしてくるものだから、自然と尾形が後ろに下がる羽目になり、よろよろと歩いていると足が何かにぶつかり、ひっくり返ると目を瞑るとふわっと背中が何か柔らかなものにキャッチされ、それが勇作のベッドだと分かると、ホッとすると同時にやりやがって、という気持ちも芽生える。
 ぎしっと音を立てて勇作がベッドへと乗り上げてきて、尾形に覆いかぶさる形で肩に手を置かれ、顔が近づいてくる。
 いつ見ても、きれいな造りの顔だ。
 思わずじっと見つめてしまうと、赤かった頬がさらに赤く染まり、困ったような笑みを浮かべた。
「あ、兄様……目を瞑ってください。は、恥ずかしいです。何か私の顔についていますか? 気になります」
「いえ、きれいなものだなと」
 思わず零れた本心に、勇作が少し目を見開き、それは幸せそうに顔を真っ赤にして笑った。
「他の人にも言われますが……兄様に言われると、ずっとずっと嬉しい。全然、嬉しさが違う……。兄様も、とても素敵ですよ。でもひげは剃った方がいいかもしれませんね。頬ずりすると、少し痛い」
 その笑顔に見惚れてしまい、言葉もなくじっと見つめてしまう。
「……あにさま? 兄様?」
「あ、ええ、そ、そうですか。ひげはでも剃れませんね。これも俺の個性です。それごと愛してはくれないのですか? 勇作殿は」
「それは、反則ですよ兄様」
 何か言い返す前に強引に唇を奪われてしまい、眼の前で勇作の長い睫毛が細かく震えている。これを見るのが愉しい。何故だか、ひどく尊く感じるのだ。
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