待チ焦ガレ


 押しが足りないのだろうか。何ともまどろっこしいことだ。未だ理性が邪魔しているらしい。
 その理性は今は邪魔だ。余計なものを剥ぎ取れば、きっと勇作の穢れた部分が顔を出すはず。
 尾形は自分がかなりムキになっているのが分かりながら、もう一度口づけを強請ることにする。これが今は一番効く気がするのだ。
「勇作殿……接吻してください。勇作殿とする接吻が俺は好きです。……して……」
 最後の言葉を耳に囁きかけ、ついでにふっと耳に息を吹きかけるとあっという間に耳が真っ赤に染まり、至近距離で勇作が興奮も露わの顔で尾形を見てくるのに、計算づくの妖艶な笑みを浮かべてみせると、とうとう我慢できないとばかりに唇に食らいつかれ、そっと瞼を下ろして触れ合った柔らかな唇の感触を堪能する。
 今まで感じたことのない柔らかさと、そして甘さだ。清潔な甘さとでもいうのか、こんな甘味が人体にもあるのだと、驚く尾形だ。
 唇も気持ちよく、だんだんと思考が蕩けていきそうな、そんな口づけだと思う。堕としに来たのが逆に堕とされてしまいそうだ。
「んっ……ゆ、さく、どのっ……んン、んっ……!」
「はあっ、兄様っ、あにさまっ……はあっはあっ」
 そのうちにだんだんと口づけが濃くなり、しきりに唇を吸われたので吸い返すと吸い合いになり、互いに息を弾ませながらしきりに角度を変えてそれしか知らない生き物のように唇を吸い、そして時には唇を舐めたりもした。
 官能的な口づけだ。
 今まで交わした口づけの数など三桁は越えるだろう尾形だが、この勇作との口づけは群を抜いて気持ちがよく、端的に言えば快感が強い。
 こんな風に感じるのも初めてで戸惑うが、元々快感には弱い方なのでつい夢中になってしまい、手で勇作の頬を情熱的にまさぐるように撫で擦ると、さらに触れ合っている唇と手のひらが熱くなる。
 その熱さに押されるよう、舌を勇作の咥内へと入れ込むと今度は舌の擦り付け合いになり、そこでも指南のつもりで誘導するように自分の舌を勇作の舌へと擦りつけると、初めは戸惑っている風の勇作だったがすぐに何をすればいいか分かったようで、尾形の舌を巻きこむように擦り付け始め、存外飲み込みがいいことに驚きながらその快感に溺れる。
 口づけでこんなに感じたことは勇作相手が初めてだ。舌も柔らかなもので、触れ合うとそれも気持ちがよく、天然の甘味も合わさってあまりの快感に舌が痺れてしまいそうだ。舌どころか、思考までもが蕩けていく感覚がする。
「はっ……ん、んン、んむっ……ん、ん、ゆ、さく、どのっ……!」
「あにさま……!」
 一旦口づけを解き、唇が触れ合う位置での見つめ合いは熱く、勇作のきれいな造りの顔には、すっかりと欲情が滲み出しており、それに満足を覚えた尾形はすりすりと手で滑らかな頬を擦り、ゆったりと笑ってみせる。
 漸くここまで堕ちてきた。
 そのことに満足が隠せず、自ら下に来ていたシャツのボタンを外し、だんだんと肌を露出していくと、ますます鳴る勇作ののど。
 視線は胸元に釘付けになり、息も甘く浅いものになっている。
 だが尾形はボタンを三つほど外したところで手を止めてしまい、指の腹で肌を擦って見せる。
「もっと見たいですか? だったら、自分で外してみてください。俺にばかりやらせるのは……不公平でしょう? これ以上、俺は動きませんよ」
 勇作はごぐっとのどを鳴らし、恐る恐る震える手でシャツのボタンを外し始める。だが、すぐに止めてしまい、息を荒くしたまま止まってしまっている。
 尾形は軽く溜息を吐き、両手で勇作の手を取りはだけた肌が見える胸元へと誘って、そしてぺたりと肌に手のひらを押しつける。
「あ、あにさまっ……!! そんなっ……!!」
「いいのですよ。触れたいのでしょう? 俺も勇作殿に触れられたい。今さら引き下がるなどとは言いませんよね」
 そう言って逃げ道を塞ぐと、興奮も露わに勇作の手が大胆に動き出す。
「はあっはあっ、兄様、あにさまっ……!!」
「……肌に、接吻してください。気持ちイイんです」
「は、肌に? で、でも……そんな」
 ここでも愚図る勇作に、尾形はまたしても軽い溜息を吐いて勇作の軍服のホックを指で跳ね上げ、露わになった喉仏に軽く唇を置き、そしてちゅっと音を立てて吸って離れるとビグッと勇作の身体が大きく動き「はっ……!!」と熱い吐息をついた。
「ほら、気持ちイイでしょう? それとも、俺がしましょうか。勇作殿の肌に、俺が接吻するんです。それでもいいですが……俺は勇作殿にされたい。いつか女を抱く時のための指南のようなものです。気分だけでも愉しみましょう」
「い、い、いいん、ですか……? 私が、兄様にそうやって触れても……」
「触れて欲しくて言っているんですから、当たり前です。勇作殿に、たくさん接吻されたい……」
 そう言ってまた一つボタンを外すと、ゆっくりと屈み込んできた勇作が鎖骨に唇を落とし始め、そのあまりの柔らかさと熱さに驚いてしまう。
「う、んっ……あぁっ……!!」
 あまりの快感につい声が出てしまう。感じやすい身体を持っているのは知っていたが、それが勇作にも通用するとは思ってもみなかった。
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