待チ焦ガレ


 尾形はそれを余裕で受け止め、指南とばかりに柔らかく何度も唇を吸ってやると、だんだんと勇作が落ち着いてきて、尾形と同じように優しく唇を吸い始めた。
「はっ……ん、んン、はあっ、ゆう、さく、どのっ……」
「ん、ん、兄様、あにさまっ……あにさまっ」
 互いに名を呼び合いながら、ひたすらに口づけを交わす。
 また一歩、こちらに堕ちてきた。ほくそ笑む尾形だ。
 わざと感じている風の吐息を零すと、さらに勇作に余裕がなくなったのが分かる。口のナカに、甘い吐息がしきりに入ってくるのだ。それもまた気持ちがよく、今度こそ尾形にも欲情といった感情が芽生え始め、つい我を無くしてさらなる口づけを強請ってしまう。
「ん、んは、はあっはあっ、んン、ゆ、さくっ……どのっ、んっ!」
 すると大胆にも勇作の舌がしきりに尾形の唇を舐め始め、どうやらナカへ入りたがっている様子。随分と積極的なものだ。これは、かなり意外と言える。
 驚きを隠せないまま、招くように口を大きく開いてみせると恐る恐るといった体で咥内へと生温かくぬるついた舌が入り込んでくる。
 だが、そこでもどうしていいか分からないようで、動きの悪い舌を絡め取ってやるとおずおずと絡ませてきて、そのぎこちない動きがまた、被虐心をそそる。
 非常にいたぶりやすい。
 思わず浮かんでしまう笑みを抑え、さらにリードするように勇作の舌と自分の舌を絡めて唾液を吸うと、咥内に甘い味の生温い唾液が流れ込み、躊躇もなく飲み下すと、ふわっと勇作の味が鼻に立ち上り、何とも言えない気分になる。
 果たして女の唾液はこうも甘かっただろうか。勇作しか出せない、勇作の味だ。
 さらに味わいたくなり、大胆に舌を絡めると今度こそ勇作も尾形と同じことをしてきて、慣れない舌使いで尾形の舌を吸い、そして唾液を飲み下している様子。
「んっ……んン、んは、ゆ、さく、どのっ……!」
「あに、さまっ……あにさまっ」
 唇を触れ合わせたまま互いの名を呼ぶと、何故か体温が上がった気がした。しかし、気のせいだとその感覚を振り切り、両手を勇作の頬へと移動させ、わざと情があるように見せかけるために親指の腹ですべすべの頬を撫でると、さらに体温が上がったようで両手が熱い。
「っは、んは、あにさまっ……! あにさまっ……!!」
「勇作どの……もっと、したい? したいですか?」
 堕ちて来いと思った。いいから早く、こちらへ来い。
 その想いを含めつつ、自分で首元のホックを外し両手で前を寛げていく。そして、つつっと指の腹で露出した肌を撫でると、すぐにでもひたりっと燃えるように熱い勇作の手が触れる。
「あ、兄様……わたしは、わたし、私はっ……!!」
 言葉を遮るようにわざと熱い吐息をつき、あごを上げてみせる。
「はっ……!! んっ、はあっ、いいです、触ってください。勇作殿に触られたい……もっと、触れてくれますね?」
「い、い、いいのでしょうか、こんなことをして……兄様は」
「いいのです。俺がいいと言っているのですよ。大丈夫、このことは誰にも漏らしません。俺と……勇作殿の秘密です。秘密は、誰にも話してはいけないでしょう? だからほらもっと、来て……」
 ゆったりと笑ってやると、またしても勇作ののどが大きく動き、そろりと大きな手が動いて尾形の肌を撫で、その手は徐々に大胆さを増し、まるで肌で尾形を味わうように非常にゆっくりと動き、撫で擦ってくる。
 意外にも、その手が気持ちよく勝手に身体が熱くなってくる。
「ん、は、はあっ……ん、上手ですよ、勇作殿。気持ちイイ……すごく、イイです」
「ほ、本当に……? いやでは、ないですか? いやなら、すぐに」
「いやなんかではないですよ。誘ったのは俺ですし。もっと、勇作殿を感じたい、そう思っています。ほら、接吻しましょう? もっともっと、たくさんのいろいろなコトを教えてあげます。知りたくないですか……? 何だか、意外にもとても大胆ですし、勇作殿は」
 そう言って挑発すると、かあっと勇作の顔に朱が走りあっという間に真っ赤に染まり、唇が戦慄く。
「そ、それは兄様がっ……!」
「俺が、なんです? そそられますか? いいんですよ、正直に言ってもらっても。俺に欲情してるって、言っても怒りませんし。そうなんでしょう?」
 するとその言葉が気に食わなかったのか、勇作は横を向いてしまい眼に涙を溜めている。尾形は、無意識のうちに身体を動かし、目尻に浮かんだ勇作の涙を唇を当てて吸い取ってしまう。
「えっ……」
 勇作の戸惑った声でふっと我に返り、自分の取った行動に驚いたが、また薄く笑って両手で勇作の頬を包み込み、引き寄せて頬ずりする。
「あ、あの兄様っ……」
「勇作殿は、してくれないのですか? 残念です」
 するとすぐにでも勇作が動き、尾形の額に額を当ててくる。その熱さとも呼べる温かさを感じ、つい笑んでしまうと勇作もぎこちないが笑みを浮かべてさらに擦り寄ってくる。
「兄様は……あたたかい。すごく、温かいのですね。気持ちイイ……」
「もっと温かいところがありますよ。知りたくないですか? 勇作殿、もっともっと俺のコト、知りたくはない?」
 そう言ってはだけた軍服をぴらりと捲ってみせると、ごぐっと勇作ののどが大きく鳴る。そして、その手は細かく震えながら動き、尾形の着ている軍服のボタンを一つだけ外し、さらにはだけた胸元へ手を差し入れては引っ込めることを何度も繰り返している。
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