待チ焦ガレ


 尾形は何か考える間もなく、両手を伸ばして勇作の頬を包み込みそのままの勢いで口づけてしまう。
「っん!! あ、あに、さまっ……!! ちょ、んむっ、んンッ!!」
「はあっ……勇作殿っ」
 勇作の唇は思ったよりもずっと柔らかく、そして甘かった。その甘い味に誘われるよう、唇を舐めると強い抵抗に遭ったが、気にせずさらに迫り咥内に舌を捻じ込むと、両手で包んでいる勇作の頬が熱くなるのを感じた。
 これは、いける。
 そう確信した瞬間だった。
 両手が燃えるように熱い。勇作の熱だ。何故か、今はこの熱が愛おしく感じる。それは、堕ちてきたと感じたからなのかどうなのか分かりかねるが、初めて感じる気持ちだ。
 そのまま何度も啄むように唇を吸い、口づけを重ねると思い切り身体を押され、尻もちをついて倒れると、勇作が真っ赤な顔をして唇に拳を当てている。
「あ、あ、兄様っ……なに、なにをっ……」
 身体を起こしながら勇作を見てにたりと笑ってみせる。
「接吻ですよ。知りませんか、接吻。ああ、未だ経験がありませんでしたか。いいものでしょう? いかがですか、俺とする接吻の味は。お気に召していただけました?」
「あ、兄様……?」
「お嫌いですか、接吻は。俺はもっと、勇作殿と接吻がしたい」
 そう言い募るとさらに勇作の顔が赤くなり、赤いどころかどす黒く見えるほどにまで顔色を変え、そののどが大きく上下したのを見逃さなかった。
 あれは、期待だ。期待で、のどが鳴ったのだ。
 訳の分からない確信の中、尾形はゆっくりと身体を起こして勇作の両肩に手を置き、顔を近づける。
「素直になったらどうです。あなたも俺と接吻、したいのでしょう? ほら……顔を近づけるだけです。何も難しくありません。……してみて」
 最後の『してみて』は囁くようにして言葉に出す。
 すると、勇作の唇が戦慄き始め、眼は潤んでしまい涙が零れそうだ。そうしてまた、のどが鳴った音が聞こえた。
 ごぐっと、大きく一回。
「い、いけません兄様。わたしたちは……兄弟ですよ。そんな、背徳的なこと……」
「今さらここへきて貞淑ぶるのですか? 父は同じでも母は違うでしょう? そんなつまらないことよりもっと、考えることがあるでしょう。俺のことです。……勇作殿から接吻されたい」
「そんなっ……」
「したくありませんか、俺と接吻。先ほどからのどが鳴っていますよ。したいのでしょう? 兄弟なんてつまらない理由は捨てて、俺と接吻しましょう。顔を近づけて……怖くありません。ほら……」
 もう一押しとばかりに、さらに顔を近づけてふっと唇に吐息を吹きかける。
「して……勇作殿。接吻、して……怖くない。待っているんですよ、俺は。ほら……して」
 吐息が降りかかるまで顔を寄せ『して』と囁きかけると、ぎゅっと勇作が目を瞑ったと思ったら、いきなりだった。肩に勇作の手がかかったと思ったら体重をかけられ、そのまま押し倒されてしまう。
 そして驚く間もなく、ずいっと顔が迫ったと思ったらふわっと唇に真綿の感触が拡がり、次いで甘い味もして勇作に口づけられたことを知る。
 堕ちてきた。
 漸く、最初の一歩だ。だが、大きな一歩だと言える。
「んっ……ゆ、さく、ど、のっ……」
「はあっはあっ、兄様、あにさまっ……!!」
 積極的に唇に吸いつかれ、存外にもなかなかに上手いソレについ感じてしまう自分もいて、驚くがこれもまた一興だと勇作との口づけを愉しむことにして、尾形からも勇作の唇を吸うと、我に返ったように勇作が上から退いてしまう。
 だが、尾形は笑みながら両手で勇作の首を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめると触れている場所がかなり熱いことが分かる。
 興奮を、しているのだろうか。そうだろう、この息遣いの荒さ。発情しているオスそのものだ。
 しかしこの先どうしていいか分からないのだろう、ぺたぺたと尾形の胸に手を置くばかりで、欲情している自分を明らかに持て余している。
「勇作殿、俺は逃げませんからゆっくりいきましょう。ゆっくりでいいんです、どうせ朝まで兵営へは帰ることができないのですから。じっくり二人だけで愉しみましょう」
「まさか、これが目的で私を……?」
「さあ、どうでしょう。そんなことより、もっと接吻して欲しいです。勇作殿の接吻、俺は好きですよ」
「あ、兄様もう、これ以上は……いけません」
 まだ清いままでいようとしている。そのことにイラつきが増し、さらにこちら側に堕とすべく、尾形は勇作の首を性的な意味合いを含めた手つきで撫で、その手を頬へと持って行って包む。
「つまらないですよ、勇作殿。兄弟だからなんだっていうんです。そんな下らないこと、忘れて愉しみましょう。もっと……勇作殿を知りたい。こういった、意味で……」
 顔を徐々に近づけ、眼を開けたままさらに近づくと勇作の真っ赤な顔が眼に入り、つい浮かべてしまった笑みを、どう取ったのかいきなり唇にむしゃぶりつかれ、今度のキスはテクニックもへったくれも無く、ひたすらにぐりぐりと唇を押しつけられる。
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