All love forgotten
ただ、私は……彼と愛のあることをしたかったはずだ。こんな、一方的なものではなくて、二人で築いていくものとでも表現すればいいのか。
これが私のしたかったことならば、間違っているのは月島の方だ。
「止めろ月島っ!! もういい!!」
私の大声をなんと思ったのか、ずるずると口からアレが抜けていき、こぽっと大量の唾液と共に月島がアレから完全に離れると、その頬を両手で包み込み、親指の腹で赤く染まった頬を撫でる。
「これは、私のしたかったことではない。私は……お前を大切にしたいんだ。そんな、自分を苦しめるような真似はするな。しなくていい。そんなこと、強いていない」
「鯉登、少尉殿……?」
かなり月島は困惑しているようで、黒目が不安げに揺れている。
「け、けれど気持ちイイのでしょう? だって私は、こんな方法しか知らないし……だったらどうやって、私はあなたを、あなたを……」
俯いてしまった月島は、懸命に何かを考えている様子だったが、もう一度頬を手で包み直して顔を近づけると、強い抵抗に遭った。
「や、止めてください!! そんなことっ……あ、あなたは違うでしょう!? 違うはず!!」
「お前、誰と比べているんだ。何も違わない。私は……お前と接吻がしたい。お前の口はアレを舐めるためにあるわけじゃないだろう? お前の口は、私と接吻するためにある。違うか」
「な、なっ……なにを、訳の分からないことをっ……」
無理やり両手を頬から外され、月島はこれ以上なく顔を真っ赤に染めて、震える手を口元へと持って行った。
だがしかし、私は止まることをしなかった。あそこで止めておけば、関係が変わったかもしれないのに、その先へとどうしても進みたかったのだ。
その気持ちに負け、口元にあった手首を取り、ぐいっと自分の方へ引き寄せてもう片手を背に回し、しっかと抱きしめると月島が「ひくっ!」と声にもならない声を上げたのが分かった。
「やっ……は、離してください!! こんなの、ちがっ、違うっ!!」
そのまま体重をかけ、月島の身体を引き寄せながら布団の上へとその身体を転がし、下敷きになった彼の身体に手を這わせる。
もう、止める気は無かった。
正しくは、止める気を無くしてしまった。それを取り去ったのは、間違いなく月島だ。あんなに煽っておいて、無事で済むと思っていたのだろうか。
後から思えば、これが月島のしたかったことなのかもしれない。その答えは数日後に出たが、その時はとにかく衝動に負けてしまい、私がしたいこと、望むことをする気になった。
やり方なんて知らないし分からないが、とにかく彼を私の手でなんとかしたい。何とかされたいんじゃなく、私は何とかしたいのだ。彼、月島を愛してやりたい。
例え、それが独り善がりだったとしても、彼を愛したかった。その気持ちに偽りはない。それは、今でも変わらない想いだったはずなのに。
いつ、狂ったのだろう。
いや違う。もう、彼を想い始めた頃から狂っていたのだ。男が男に気持ちを寄せる、そのことの異常さにも気づかず、彼を見ていた私はきっと……。
そんな想いに気づいた動揺を隠すように、彼の胸をシャツの上から揉んでみる。やはり、平たい。けれど、どこか興奮すると思う。
シャツには彼のにおいがついていて、まさぐるとかおるのだ、欲情を運んでくるようなにおいが。
優しいにおいの中にどこか微かな男くささもあって、けれど決していやなにおいではなく、寧ろ私のすべてを包み込んでくれるような、そんな温みのあるようなにおいとでもいうのか。
優しくなるにおいだと思う。正しくは、優しくしたくなるにおいとでもいったらいいのか、まったく以って彼らしいにおいだ。
ずいっと顔を近づけて至近距離の吐息が触れ合うような位置にまで寄り、じっと彼の眼を見つめる。
静かな中にも、どこか獰猛さを秘めたようなそんな眼をしていて、やはり黒目が不安げに揺れている。
「つきしま……」
そっと両手で頬を包み込み、親指の腹で頬を撫でてやるとさあっと手のひらが熱くなった。照れているのか、恥ずかしいのかよく分からなかったが体温が上がったことは確かで、そのまますりすりと両手の親指の腹で暫く頬を撫でていると、ふっと視線を外されてしまった。
面白くなくてこちらを振り向かせようと額に軽く口づけると「あっ……」と微かな声が上がった。
「ちょ、や、止めてください。そんな、子どもみたいな……」
「私もお前も、子どもではないだろう。……こうされるのは苦手か? 私は、お前を愛したい。愛されるのではなく、愛したい……触れたい、お前に。月島に触りたい……」
「なっ、なにを、ばかなことをっ……そんな」
「嘘だと思うか? これでも、お前は私を拒絶するか、月島軍曹」
するっとシャツの下に手を潜り込ませ、下腹を大きく撫でるとビグッと月島の身体が大きく跳ね、次いで「はっ……」と熱いような甘いような吐息をついた。
「……脱がせるぞ。お前の裸が見たい。見て、興奮したい……」
先ほどと変わらず、至近距離でそう言うと、赤かった顔色がさらに赤くなり、戦慄き始めた唇へと口づける。
やはり、甘くて柔らかい。そして、香ばしい味。それに優しい感触だ。月島の優しさを煮詰めたような、そんな感覚が唇に拡がり、つい角度を変えて何度も口づけてしまうと、恐る恐るといった体で月島もだんだんと応えてくれるようになり、夢中になって唇を啄むように吸ってしまう。