kisses


 玄関には絵画が飾ってあり、入り口も広いものだ。
 少し恐縮している様子で若干もたついている。
「なんだ、どうした。入らんのか」
「いえ……靴を、脱ぐものなのか履いて入っていいものか……」
「うちは西洋式でな、靴は履いたままでいいぞ。なんだそんなことか。さっさと入れ。ここは少し寒い」
 そして二人で屋敷の中を歩くが、月島は物珍しいのかきょろきょろと辺りを見回し、その口は半開きだ。
「……広い、家ですねえ……外から見たことはありますが、これはすごい……」
「そうか? 鹿児島の家など、もっと大きかったぞ。ここは土地が高いのでこの屋敷が精一杯だった。父上はもっと大きな屋敷にしたかったようだが、充分に事足りていると私は思っているがな。さて、ではまずはお茶でもしようか。そしたらお前の大好きな風呂の時間だぞ。居間に案内しよう」
 そこでは、今度こそ月島は大きな口を開き、突っ立ってしまっている。その身体を後ろから押して、ソファに座らせると漸く我に返ったようでそれでも、居心地悪そうに身体を縮こまらせている。
「こ、こんな豪奢な部屋に来るのは初めてで……何だか、緊張します。私なんかが居ていいのか」
「何をたわけたことを言っている。いいに決まっているだろう。私はここでお前とのんびり過ごすつもりなんだぞ。まあ、肩の力を抜いていろ。さて、コーヒーにするか紅茶にするか、なにがいい?」
「えっと……できれば、ほうじ茶がいいです。安心するものが飲みたくて……」
 ほうじ茶と言われるとは思ってもみなかったので、一瞬なんのことだか分からなかったがすぐに思い当たり、軍帽を脱いだ月島の頭を軽く撫で、額に一つキスしてから離れる。
「今淹れてくるから待っていろ。ほうじ茶だな?」
「……すみません、何から何まで」
「気にするなと言っただろう? すぐに戻ってくるから、ゆっくり背もたれにでも凭れて座っていろ」
 離れようとしたところで、くんっと着ていたコートを引っ張られてしまい、何事かと後ろを振り向くと、月島が何か思いつめたような表情をして鯉登を見ているのですぐにでも腕に抱き、優しく背中を叩いてやる。
「なんだー、未だ何か不安でもあるか? 甘えてくれるのは嬉しいが、戸惑うな」
「もうちょっと……このままでいてください。ずっと、抱きしめて欲しかったんです。汽車の中でも、ずっとずっと、こうしてもらいたかった」
「つきしま……」
 すりっと腹回りに擦り寄られ、大きく溜息を吐く月島の身体を優しく抱き、背中を撫でるとほうっと息を吐いたのが分かった。
「やはり、ここは安心しますね。音之進の腕の中は、とても気持ちがイイです。何もかもが大丈夫だと思わせてくれるような温かさがあって……好きな場所です」
「随分と、かわいいことを言うんだな。襲ってしまうぞ、月島は襲われたいのか?」
「襲われ……たいとは思っています。今ではないですが、その……あと、後で」
 下を見ると月島の耳は真っ赤で、多分顔も赤いだろう。その様があまりにもかわいく、必死で勃ってくるペニスを気にしながら頭をくりくりと撫でてやる。
「時々……大胆になるお前が、私は好きだ。小悪魔だな、お前は。その素質がある」
「悪魔でも構わない……あなたが、傍に居て抱きしめてくれるなら、悪魔にでもなんにでもなります」
「本当に、かわいいことばかりを言いおって……本気で襲われたくなければ、少し離れろ。理性に自信が無くなってきた。お前があんまりにもかわいいからだぞ月島ぁ」
 すると、するっと腰から手が外れ、その手はずいずいと鯉登に迫り、なんだろうと屈むと頬に宛がわれ、すりすりと熱い手で擦られる。
「そういうあなたが見たくて、つい意地悪したくなるんです。かわいい子には、意地悪したくなるものでしょう? どうでもいい人の反応なんて見たくないけれどあなただから……何だか、時折ものすごく、意地悪したくなるんです」
「この、小悪魔めっ……!!」
 屈みこんだそのまま、月島の唇を奪い啄むようにして吸っては角度を変えて口づけることを繰り返す。
「ん、んはっ……は、はあっ、ん、お、と、の、しんっ……んンッ、ンッ!!」
「お前が煽るからいけないんだぞ、月島」
 唇を触れさせながらそう言うと、その口を塞ぐように月島からキスしてきて、あまりこういうことが無いので驚いていると、さらに強く唇を押しつけられ、唇を舐められてしまう。
「……美味しい……音之進は、すごく美味しい……」
「言ったなっ……」
 指先で軍服の首元についているホックを跳ね上げ、ちゅっと音を立てて肌の露出した部分に吸いつくと、それは驚いたのか「あっ……!」と声を出したが、純粋に驚いただけでいやがってはいない。
 それをいいことに、中に着ていたシャツのボタンも次々外し、だんだんとはだけていくと見える肌に吸いついてはキスをして離れることを繰り返すと、さすがに抵抗の色が見えた。
「い、いけませんっ! 未だ、風呂にも入っていないのに……それに、茶を……」
「茶も風呂も後でいいだろう。もう少し愉しませろ。お前が私を誘ったのだろう?」
「ちがっ……あっ!! あ、ああ、ンッ……!! あ、はあっ……!!」
 さらに軍服のボタンを外し、下のシャツも剥いていくと傷だらけの上に鍛え上げられた胸が露わになり、ずぼっと服の中に顔を突っ込むとふわっと月島のにおいが鼻に掠り、顔を押されて退かそうとしてくるその手を掴まえて握り、見えている肌に口づけを落としては小さく舐めることを繰り返し、羞恥を煽ってやる。
 後は純粋に、愉しいからだろうか。こうしたくなってしまうのは愉しいからに違いない。月島が感じるところを見るのは愉しい。いつも澄ましているあの月島の色の乗った顔は何物にも勝るほど大人の色気があり、そそられてしまうのだ。
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