kisses


 急に元気になった鯉登は続けて熱燗を二本追加し、ほろ酔い気分で店から出ると、店の前には馬車が停まっており、鯉登が声をかける。
「鯉登家の使いの者か? 私は鯉登音之進だ」
「お待ちしておりました、では乗ってください。屋敷へ向かいます」
 その言葉に対して頷き、月島の手を引いて馬車へと乗せ、荷物も忘れず馬車の中へと入れると、早速ひどい揺れと共に馬車が動き出す。
「贅沢ですね……さすが鯉登家というべきか……」
「そうか? これくらい普通だろう。まあ、それより月島も充分飲んだか? 変な遠慮は要らないのだぞ」
「はい、美味しいものをたらふく食べましたし熱燗もしっかり、いただきました。もう腹がいっぱいです。汽車の中でもたくさん駅弁食べましたし」
「ん、結構。では、家に着いたらすぐに風呂だな。ああ、でもその前に屋敷の室内の説明の方が先か?」
「どちらでも。私は風呂に入ることができればそれでいいので。その時間が多少早かろうが遅かろうが、問題ありません」
 しかし、何だか月島の顔色があまり冴えない。
 それが気になり、そっと手を伸ばして正面に座る月島の手を握り、軽く揺らす。
「つ・き・し・ま。どうした、何だか顔色が良くない。そう言えば、駅でもそんな顔をしていたな。なにかあるか? 私の屋敷に」
「いえ……あの時は悪いことをしたと、昔のことを思い出したのです。鶴見中尉殿の命であなたたち親子にしたこと……未だ幼かったあなたに、随分とひどいことをしてしまった。そのことが、どうしても忘れられなくて。そんな私があなたの屋敷に足を踏み入れてもいいものか……今さらながら、後悔が……生まれてしまって」
「そのことか。それならば気にしていない。お前が命令してやったというのなら話はべつだが、お前はただ命令に従ってそれを実行したまでで、鶴見中尉はお前の中に浸り切っていたからな。だから、そのことで気に病む必要など、これっぽっちもないのだぞ。寧ろ、堂々としていればいい。お前は、言ってみれば被害者だ。そんな言い方をすると鶴見中尉が嘆くかもしれんが、いや、あの人はそんなことでは動じない人だ。だから、お前が気にする必要などない。それより、楽しみだと思ってくれないか。その方が余程、建設的だ。お前は今から、楽しいところで私と二人きりになれるのだぞ。……楽しみな気分にならないか?」
 すると、俄かに表情が明るくなり、顔色も戻ってきたのでそのまま手を恋人繋ぎにし、思い切り引くと月島がこちらに倒れてきたのでそれを抱き留め、そのままの勢いで座席に押し倒してしまう。
「っ……音之進!!」
「つきしま……愛おしいやつ。私はお前に、メロメロなんだぞ。分かっているか」
 片手で頬を包み込み、優しく撫でると途端に艶っぽい雰囲気が月島から流れ出し、その手に擦り寄ったと思ったら柔らかく笑った。
「知ってます、あなたが私に惚れていることくらい。けれど、私もあなたにメロメロなんですよ。ズブズブです」
「つきしま……」
 だんだんと顔を寄せていき、唇が触れ合う直前で止めると目を瞑ろうとしてただろう月島の眼が開き、じとっと睨みつけてくる。
「そういう焦らしみたいなこと、止めてくれませんか。こっちはもう完全にソノ気なのに……いじわるするようなことをして……」
 さらさらと親指の腹で頬を撫で、にかっと笑ってみせる。
「そう怒るな。接吻を待っているお前の顔が見たかった。艶っぽくて……好きな顔だ」
「なにが、す、きっ……んン、んっ……!! ちょ、おと、の、しんっ……!!」
 皆まで言わせる前に唇を奪い、強く押しつけながら啄むように唇を吸うと、すぐにでも反応してくれた月島も鯉登の唇を吸い、とうとう吸い合いにまで発展し、しきりに互いの唇を吸っては離し、角度を変えてまたキスして吸ってということを繰り返す。
 相変わらず、柔らかくて甘く、そして香ばしい唇だと思う。今は甘さの方が勝つが、それでも充分に心地がイイ。
 そのまま勢い余って咥内に舌を挿れ込むと、ピクッと月島の身体が跳ねるがそれは無視し、ナカを探る感じで舌を動かし、上顎を舐め始める。
「ん、んっ……ちょ、まっ……おとの、しんっ……待っ、待って、まっ……! んっ!!」
 うるさい口は塞ぐに限るということで舌を軽く噛むと、とうとう観念したらしい月島が大人しくなったので、噛んだところを丁寧に舐めてやるとさらに大人しくなり、その両手が上がって鯉登の肩に引っかかる。
 ますます気分は乗るばかりで、ベロベロに月島の咥内をテクニックもなにもなくしゃぶり尽くしていると大きな揺れと共に馬車が止まり、下男が声をかけてくる。
「到着しました! では、お迎えに上がるのは六日後の朝ということでよろしいでしょうか?」
 何気ない顔をして月島から離れ、荷物を持って馬車から降り、適当に金を渡して頷く。
「ああ、その通りに頼む。朝は少し早いので、そこだけ気を付けてくれ。ご苦労だった」
 馬車はそのまま走り去ってしまい、真っ暗な鯉登邸の前に二人取り残される。
「さて、では中へ入ろうか。お茶の一杯でもしてから風呂だな。お前も少しゆっくりしたらいい。どうせ、屋敷には私とお前、二人だけだ。気兼ねすることはないから、のんびりするといい」
 そう言って月島の分の荷物も持って玄関へと回り、送ってもらった鍵で玄関扉を開け、そして玄関の電気をつけてから月島を先に中へと通す。
「さ、入るといい。いらっしゃい、月島。我が家へようこそ」
 月島は一つ大きく腰を曲げてお辞儀をし、緊張気味に早速家の中へと入ってくる。
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