kisses


 思わずじっと月島の顔を見てしまうと、柔らかく笑んでぎゅっと腰にしがみついてくる。
「好きです……音之進。あなたが、私は好きです」
「つきしま……? どうした、いきなり」
「いえ、いきなりなんかじゃなくずっと私はそう思ってますよ。愛してます、音之進……あなたのことを」
「嬉しいが……何か裏があるようで怖いな。もしかして、私の実家に行きたくないと思っていないか?」
「ただ、少し緊張してるのかもしれません。屋敷には誰も居ないのに、変な話ですが」
 そう言って俯く月島の身体を掴まえ、ぎゅっと腕に抱いてゆっくりとしたリズムで左右に揺らす。
「大丈夫だ。お前のことは、何があっても私が護る。だから、安心して出かけるといい」
「随分と、優しいんですね……」
「それはそうだろう。交際相手が不安になっているのを放っておく方がどうかしている。大丈夫だ。私のすべてはお前、月島のモノだからな。そのすべてのために動くのも、悪くはないだろう?」
「そうですね……そうでした。あなたはそういう人だった。では、出かけましょうか。……楽しみです」
「その調子だ。さあ、出かけよう。馬車はもう外に待たせてある。駅までは馬車を使おう」
 そっと身体を離すと、月島が少し惜しいような顔をしたのでもう一度だけぎゅっときつく抱きしめ、今度こそ身体を離して荷物を手に自室を出る。
 さて、旅の始まりだ。
 彼から鶴見の影を引き剥がすための、旅が始まる。
 馬車に乗り込み、出発を言い渡すとゆっくりとした振動が伝わり、それは次第に大きくなり、ガタゴトと揺れる馬車の中、二人は密室をいいことに手を握り合って過ごし、初めは向かい合わせで座っていたのだが、鯉登が強引に月島の隣に座ったため、こうして手も握れるわけだが。
 そのうちに鯉登のイケナイ手が月島の腰に回り、さらにぐいっと自分の方へと引き寄せると、月島が見上げてきたためそのままの流れで唇を奪い、ちゅっちゅと音を立てさせながら啄むように角度を変えて口づけると、最初は戸惑っている風の月島だったが次第に乗ってきて、二人で互いの唇を吸い、抱擁に明け暮れる。
「はっ……ふ、はあっ、おと、の、しんっ……んっ! んンっ、はっあっ……」
「つきしま……好きだ、好きだっ……!」
 つい太ももを大きく撫でてしまうと、ぴくりっと自分よりも小さな身体が跳ねる。
「んっ……いけません、ここでは……馬車の中です。自重してくださいっ……!」
「未だ駅には着かないだろう。いいではないか、外にまで声が漏れることはない。お前が、大声を出さなければな」
 そう言って不敵に笑い、戦慄く唇を齧りつくようにしてキスして塞ぎ、柔らかく唇を吸う。
 月島の唇は、いつも思うが柔らかくて甘い。そして何故が香ばしいのだ。その旨味とも呼べる甘味を感じたくてさらに強く唇を押しつけると、薄っすらと口が開いたのでするっと舌を咥内へと滑り込ませ、ナカを探るように舐める。
「ふっ……は、あっ……ん、いけ、ま、せんっ……! 止めっ……んンッ!!」
「声が甘いぞ月島。感じているならそうと言ってみろ」
「や……!」
 身体を両手で押し返されるが、力に任せてそのまま押し倒してしまい、上から覆いかぶさる形で両手首を握り、口づけようとするが避けられてしまって頬にキスする羽目になったがそれはそれで美味しいと、何度も頬に口づけるとだんだんと顔が赤く染まり、息も少し荒くなる。
 まさか、街を走る馬車の中でこんなことをしていると人が知ったらどう思うか。そんな背徳的な気分も入り混じり、つい興奮してしまって耳にも口づけるとすぐに真っ赤になって顔に朱を走らせ、懇願するように鯉登を上目遣いで見てくる。
 その眼がまた、嗜虐心をそそり、逃さないとばかりに無理やり唇を奪う。
 そうしたところで馬車がひどい揺れと共に止まり、駅に到着したことを知る。
 馬車代ということで金を支払い、早速二人並んで駅へと向かう。切符代は、鯉登が持つことにした。そうでなくても月島には金を払わせたくない。持っている自分が払えばいいことだし、何だか月島の男として、彼に金を払わせるのは間違っている気がするのだ。
 今回の旅も鯉登から誘ったことだし、駅弁もこの際、買っておけば汽車の中で昼食として食べることができる。
 もうじき出発の汽車に乗り込む前に、月島の分の弁当と茶を買い、駅のホームで所在無さげに立って待っている月島の元へと戻る。
 すると、何となくホッとした様子を見せた。なんだかんだと、彼も緊張しているのかもしれない。
「月島、弁当を買っておいた。あと、茶も忘れずに買ったぞ。長旅になるからな。昼食に食べよう」
「いいですね、駅弁。私は食べたことがあまりないので……楽しみです」
 そう言ってはにかむ月島は殺人的にかわいく、思わず抱きしめたくなるのを必死で我慢し、そっと手の甲を撫でて、そして離れた。
 汽車はすぐにやってきて、指定席に腰掛けると早速、出発の汽笛が鳴らされ、ゆっくりと汽車が動き出す。
 すぐに汽車はホームを抜け、街中の景色に移り変わり旅の始まりを知らせてくれる。
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