kisses


 鯉登は腰に回っている月島の手を取って恋人繋ぎをし、顔を近づけてその頬へと口づけると、それは幸せそうに月島が甘い笑みを浮かべる。
「うふふっ……やはり、かわいいなお前は。かわいいかわいい、私の月島だ。このままずっと、こうしていたいがそういうわけにもいかないのがつらい。時間は無情だ」
「でも、限りある時だからこそ、大切にできるものもあります。無限に時間があったら愛は惰性に変わる。そういう意味では、私は時間を尊びます。あなたとこうしていられる時間に限りがあるからこそ、全力で愛そうと思える。……この考えは、お嫌いですか?」
 片手を解き、その手で月島の頬を包み首を横に振ってみせる。
「いいや、お前らしい考えだと思っただけだ。確かに、言われてみればそうかもしれないな。限りある時間だからこそ、か。いいな、その考え。私も乗ってみようか。……月島、愛してる……私の永遠は、お前のモノだ」
「わたしは……」
「いい、何も言うな。聞きたくない。こういうことはな、私が言っていればいいんだ。お前が言うべき言葉じゃないことくらい、私にも分かる。だから……言わなくていい」
 すると、月島は頬に宛がってある手に擦り寄り、ほうっと甘い吐息を漏らして繋いでいる手を握りしめた。
「……すみません……けれど、これだけは言えます。私もあなたが好きです。本当に……好きなんだ」
「ん、分かっている。疑っているわけではないんだ。お前の愛を疑うつもりはないが……ただな、私だけのお前じゃないことが、少し……いや、少しでもないか。歯痒いだけだ」
「それはっ……」
「いい加減そろそろ、お茶にするか。月島、手を……離してくれ」
 しかし、月島は離そうとせずどころか顔を寄せてきて鼻と鼻が擦り合うところまで近づき、微かな吐息が唇にかかる。月島は薄っすらと笑っていて、目を伏せて鯉登の胸元辺りを見ている。
「なんだ、挑発してるのか?」
「……どうでしょう? あなたがそう取るなら、そうなのでしょうね」
「言ったなっ……!」
 眼の前にある唇に齧りつくように口づけると、月島はこれ以上なく甘い吐息をつき、鯉登はその甘さに夢中になり、深くなっていくキスに溺れるのだった。
 握り合った手もそのままに、深く深く月島の中に入っていく。その感覚が、今はやけに感傷的に鯉登の心に映るのだった。

 そして、日にちが飛ぶように過ぎ去り、月島との約束の日がやってきた。
 移動は、汽車を使うことにした。兵営の前から馬車に乗って出発というわけだ。
 因みに朝食は、兵営で摂った。
 かなりの長旅になるだろうから、汽車の中で駅弁を食べつつ、ゆっくり向かおうというわけだ。何しろ片道十二時間の旅だ。
 鯉登は着替えが実家に置いてあるので荷物も少なく屋敷に向かうことができるが、月島の荷物はどうなのだろうと思っていたが、何とも少ないものでバッグ一つで鯉登の自室へやってきて、早速朝の抱擁を交わす。
「おはよう、月島。よく眠れたか?」
「はい、おはようございます。大丈夫です、眠れています」
「今日は長旅になるからな。汽車の中では尻が痛くなるだろうが……我慢してついてきて欲しい」
 それに月島はくすっと笑い、さらにぎゅっと抱きついてくる。
「旅ならば、樺太にも一緒に行きましたし……それにここは日本ですから。心配はさほどしてません。音之進こそ、眠れましたか?」
 それに、鯉登は苦笑いで答えた。
「いや、私は……楽しみ過ぎてなかなか眠れなかった。初めてお前を実家の屋敷に招待するので、若干、気が落ち着かんのだ。さて、では出かけるとしようか。なに、のんびりした旅だ。ゆっくり行こう」
「はいっ……!」
「その前に、接吻……しておかないとな。夜までお預けだ」
 月島の両肩に手を置き、顔を近づけると月島からも寄ってきてくれたので、背を屈めて口づけるとふわっと鼻に月島のかおりが掠り、次いで唇に柔らかで温かな感触が拡がる。すると追ってすぐに甘い味を感じ、ぢゅっと唇を吸うと唾液が咥内に流れ込んできたのでそれを味わった飲み下し、そっと唇を離すと、未だ何だか物足りなさそうにしていたのでまたキスを仕掛けてやる。
 すると、ひしっと背中に月島の手がかかり、両手で背中をしっかり抱き込まれてしまい、身動きの取れない中、ただひたすら月島の唇を追い回し、そして啄むようにして口づける。
 触れては離れ、離れては触れ合い、まるで遊んでいるようなキスを繰り返し、鯉登が追いかけたり、月島が追いかけてはくすくすと笑いながら互いの唇を捉えて、そして吸い合う。
 ふとした瞬間に顔が離れ、額と額をくっ付けて笑う。
「こんなんじゃ、いつまで経っても出発できないな。お前を離したくない」
「いけませんよ、音之進。いい加減にしないと、汽車に乗り遅れてしまう。困るでしょう……? それは」
 そう言いつつ、また二人は顔を寄せ合って口づけ合い、互いの唇を吸いたいだけ吸い、またくすくすと小さく笑う。
 このかわいい男を、今から独り占めできる。何たる贅沢か。
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