kisses


 愛しているが故に、悔しさが残る。
 彼の気持ちを手に入れたと思ったその瞬間から、あっという間に手から零れ落ちていくような、そんな感覚とでもいえばいいのか、月島に関しては鶴見が居なくなってからは、そんな風に感じることも少なくなったが、鶴見が居た頃の月島はひどかった。
 躍起になって月島の心を動かそうとしたが、鶴見が生きていた頃は無理だった。だが、もう鶴見はいない。
 今度こそ、取り逃がしたりしない。
 月島を一番愛しているのは自分だとでも言いたげに、頬から手を離しがっしりとした身体を掻き抱き、さらに濃い口づけを迫る。
 月島は従順な様子で受け止めてくれ、口を大きく開いてくれたのでまるでその誘いに乗るようにして咥内へと舌を滑り込ませてナカを探る。
 まずは大きく咥内を舐めてから、舌に乗った唾液をぢゅぢゅっと音を立てて啜り飲むと口のナカいっぱいに月島の唾液が流れ込んできて、のどを鳴らしてそれを飲み下すとのどを鳴らすたびにふわっふわっと月島の味とにおいがして気持ちがよく、鯉登も月島の咥内へ自分の唾液を送ってやると、月島も同じようにのどを鳴らして飲んでいる様子。
「ん、んむ、んっ……んンッ、んっんっんっ、は、あっ……おと、の、しんっ……」
 名を呼ばれたが無視をし、そのまま舌を上顎へと移動させざらざらとした舌に乗る感触を愉しんでいると、ぶるっと月島の身体が震える。
 どうやら、感じてしまったらしい。
 それに気を良くしてしまい、頬の裏側や舌の下まで舌を挿れ込んで掻き混ぜ、最後に舌を甘く噛んでから唇を離すと、そこには頬を紅潮させ、眼には涙を溜めた月島が息も荒く鯉登を見上げてくる。
「つきしま……かわいいな、お前は。かわいい……」
「こんな男に、かわいいもへったくれもないでしょう……? 音之進の方が、かわいいですよ」
「私がかわいいと言ったらかわいいのだ。月島、少し話があるが……聞いてくれるか」
 腰を抱き、身体を揺すらせると月島は動じた様子もなく、揺さぶられるがままになっており、ゆらゆらと二人の身体が同じように動く。
 月島の手は鯉登の上腕部に置かれており、柔らかな笑みを浮かべながら今の状況を愉しんでいるようだった。
 確かに今この部屋には鯉登と月島しか居ない。リラックスするには充分な空間だが、今日の月島はよく笑う。
 あれだけ淋しそうに空を眺めておきながら、今は鯉登のモノだと言いたげに、好きにさせているその理由は何なのだろう。
 不思議に思いながらさらに身体を揺らすと、笑みは深くなるばかりで抵抗すらしない。抵抗というのは月島はあまりすることは無いが、鯉登があまりにしつこいと咎めの言葉が入る。だが、今は機嫌がいいのか、ひたすらに身を任せてくれてその事実に喜びの心が芽生える。
 そのままの勢いで、鯉登は誘いの文句を口にした。
「なあ、月島。今月……六月の十一日から六日間ほど、私の実家に来ないか」
 それにはさすがの月島も驚いたようで、身体を揺する手を止められてしまい、じっと鯉登を見つめてくる。
「それは、あなたの母に私のことを紹介すると言った意味でしょうか。ならば、お断りします。私にはあなたの未来を潰す気はありません」
 急に硬くなった声色と顔に、鯉登も月島をじっと見つめ表情を緩めてみせる。
「違う、そういう意味ではない。もちろん、家の中は人払いがしてあるから私とお前だけだ。もう、準備は整えてある。だから、お前が行くと言えば、私たちだけの、二人だけの二人のための六日間が待っていることになるが、来てくれるか」
「音之進の、実家……」
「そうだ。一度な、呼びたいと思っていたのだ。温泉へ行くことも考えたのだが、やはりな。人目があるのは私的につらいものがあるから、どうせならと計画を立ててみたのだ。母には温泉旅行を宛がってある。女中もその間は居ない。どうだろうか、無理か?」
 月島は暫く眼を揺らしながら鯉登を見つめていたが、そのうちに表情も元通りに柔らかなものに戻り、小さく頷いてくれた。
「そ、そうか! 来てくれるか!! ああ、良かった。本当は、断られるかもと思っていたのだ。お前は私に……いや、なんでもない。そうか、ではその日にはお前の予定と私の予定は入れないでおく。……本当に、いいんだな?」
「はい、お邪魔します。その……私も、嬉しいので。実は一度行ってみたかったのです。あなたの過去が、少しでも見られるのは楽しみです。私の方こそ、いいんですか? 呼んでしまって……」
「ああ、構わない。それでは、お茶にしようか。月島、クッキーだぞ」
 そう言って身体を離そうとすると、すぐにでも腰に腕が回り引き寄せられてしまう。
「っ……つきしま?」
 月島は顔を赤くし、唇を少し尖らせてこんなことを言って鯉登を喜ばせた。
「もう少し……このままで、いさせてください……未だ、くっ付いていたい」
 その言葉を耳に入れた途端、情熱が弾けぐいっと月島の腕を引いて腕の中に囲うようにして抱きかかえるとすぐにでも背中に月島の手が回り、二人は一部の隙間もなく抱き合うことになり、鯉登は月島の頭に頬ずりをする。
 すると、月島も同じく擦り寄ってきたのでますます抱く力を強いものにして抱擁に明け暮れる。
 このまま時が止まってしまえばいい。
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