kisses
暫く号泣していた月島を、見守るつもりでずっと背中を撫で続けていると、徐に顔を上げた月島の顔は情けない泣き顔だったが、鯉登には愛おしい姿に他ならない。
「……どうだ。未だ泣き足りないか? だったら、泣くといい。たくさん泣いて、強くなれ月島。そして、もう一度言おう。私の力になって、生きてくれ。一緒に居て欲しい。ずっと、ずーっと一緒に、生涯一緒に、居て欲しい」
「おとのしんっ……!!」
「あーあー、また泣いて。まあ、泣くのは結構だがあんまり泣かれるとこちらも少しだが、困る。優しくしたくなってしまう。私は、お前を愛しているからな。変わらない想いだ、これは。お前が鶴見中尉と関係を持っていた過去があっても、それが許せるほどにはな、お前が好きだ。裏切られていると知っていながら、それでも傍に居て欲しかった。お前は、どちらに傍に居て欲しい? 鶴見中尉か、私か。どちらか今すぐ選べ」
「……音之進……おとのしんがいい……私は、やはりあなたがいい。あなたに、傍に居て欲しいと願います。やっぱり……あなただっ……!! あなたが、私は好きだっ!! 大好きなんです、好きなんですっ……!! 好き、なんですっ……!!」
そう言って泣き崩れる月島の身体を全身で包むように抱きしめ、鯉登は涙を零した。この涙は間違いなく、嬉し涙だ。
「私も、お前が好きだ月島。誰よりも、何よりもお前が好きだっ……!! 傍に、居て欲しい。もう、二度と離れることなどないよう、手を繋ごう。物理的にじゃなく、心の手だ。お前も手を伸ばして私の手を掴め。怖いなら、離さなければいい。お前の心は私が護る」
「音之進っ……!! おと、おと、おとのしんっ……!!」
「一緒に居よう、ずっと私たちは一緒だ。生きる時も死ぬ時も、一緒だぞ月島。分かるか? 私たちは、もう離れることはないだろう。妙な確信があってな。だから、大丈夫だ。私は何処にも行かない。お前と居る」
鯉登の言葉に、無言で何度も頷く月島の頬を両手で包み込んで上げさせると、涙でぐちゃぐちゃになった顔が露わになる。
「一生、一緒だ」
「はいっ……はいっ!! 一生、一緒ですっ……!!」
もはや何も言うことはなく、二人とも示し合わせたように顔を寄せ合い、そして真綿のキスを繰り返す。
その甘いキスはトロトロに鯉登を蕩かし、月島の涙で濡れた両手で顔を擦ると擦り寄ってきたので、そのまますりすりと撫でてやると口づけの合間から月島が僅かに「ふふっ」と笑ったのが分かった。
思わず唇を離して月島を見ると、今まで見たことも無いような柔らかで優しい笑みを浮かべており、伏せた瞼に涙が光ってとてもきれいだ。
それは自然と言葉になる。
「きれいだ……月島は、とてもきれいなのだな」
しかし、月島は首を横に振り、さらに笑ってみせる。
「あなたの心ほどではありませんよ。きれいなのは、あなたの方なんです、音之進……きれいな心で、私を救ってくれた……一生、この恩は忘れません」
「ん、そうか。では……仲直りとして一緒に私の部屋へ行こう。……分かっているな?」
「……抱いてください。この身体も、あなたのモノです。誰のモノでもなく、あなただけのモノです」
「随分とかわいいことを言うようになったな。そうか、私のモノか。では、私の身体もお前だけのモノだな、そういうことだぞ、分かっているのか」
すると、月島はきょとんとした顔を見せ、泣き笑いの表情に変わる。
「そうですか、私のモノですか……! 私は今まで、何も手にしたことが無いと思っていたけれど、ここに来て漸く、私だけのモノが手に入った気がします。あなたの気持ちも、身体も私のモノ。……嬉しいです、とてもとても、嬉しいですっ……!!」
「泣くなっ……!! 泣くならベッドでイイ声で啼け。そういうことだろう?」
「ええ、そういうこと、ですね。そうですか……あなたが、私のモノになってくれると……」
月島は自分の両手を見つめ、さらに涙を零した。
「さあ、泣いてないで自室へ行くぞ。立て月島」
二人してふらふらと立ち上がり、鯉登が先に立って後ろ歩きで月島の両手を取り歩き出す。すると、それが存外楽しく自室を通り越して廊下の突き当りまで歩いたことで背中に壁が当たり、そこで月島をきつく抱きしめる。
「つきしまっ……!! 愛しい愛しい、私の月島。……愛してる……」
「私も、音之進が大好きです。好きで、好きで好きで、大好きでそして、あなたと同じ。愛してる……あなたを、愛してる」
自然と顔を寄せ合い、唇を触れ合わせると柔らかな感触が拡がり、薄眼を開けて見ると月島も同じように眼を開けていて、その眼が柔らく弧を描いたので鯉登も同じように笑みながら口づけを交わす。
自然と唇が離れると、今度こそ自室に月島を招くべく、手を繋いだまま扉を開け、先に月島を入れて鯉登も後から入って扉を閉めると、月島がぐいっと腕を引いてきたのでそのまま引き返すと、まるでダンスを踊っているようなステップを踏んでしまい、引っ張ったり引っ張られたりしながら部屋の中を歩き回り、最終的にベッドの上に月島を乗せてやる。
すると、すぐにでも鯉登の頬に月島の両手が伸びてきて、頬を包んでくる手に自身の手を重ね、引き寄せられるがまま口づけると、そのまま月島が後ろに体重をかけたため、二人一緒にベッドに沈むことになり、鯉登は馬乗りになった状態で月島とのキスを愉しむ。
彼と交わす口づけはこんなに愉しいものだっただろうか。眠る前の出来事が遠く思え、上手く記憶に起こせない。
それならそれで構わない。
彼とは、過去とではなく未来に向かって歩んでいくのだから。
何度も角度を変え、啄むように唇を吸い合う。どちらからともなく唇を合わせては離れ、そしてまた触れ合わせる。
その時の甘さをきっと、一生忘れないだろう。鯉登は、いつか月島と行き着く永遠を想い、甘い口づけに溺れ、そして月島の手を握ると、同じくらいの力で握り返されてきたその手に、この世の幸せを煮詰めたような感覚を覚える。
もう離れることはない。二人だけの永遠を、手に入れに行こう。手を繋いで、二人で。
どこまでも、二人一緒に。
Fin.
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