kisses


 今この時間が永遠であれと、願わずにはいられない。だからこその、この問いだ。
「……月島。この世でお前が一番愛しているのは、誰だ?」
「なん、ですか。いきなりそんな……」
「聞いておきたいんだ。言ってくれ、いやでなければ……どうか言葉にして欲しい。先ほども聞いたが、勢いというものがあるからな。だから、そういうものが一切通用しない今、本当の心を見せて欲しい」
「だから、音之進はだめだというんです。改まって告白だなんて……恥ずかしいですよ」
「言ってくれ、なんだっていい、言葉は選ばないから言って欲しい。言葉をくれ、月島」
「好きですよ……何度も言っているでしょう? 私が好きなのは音之進、あなただけです。私にはもう、あなたしか残っていない……」
「本当だな? その言葉に、嘘偽りはないな? 誓うと言え。ちゃんと誓え」
「誓います。私にはあなただけ……あなただけの、私です」
 そう言って腕の中で穏やかに笑う月島に、愛おしさが募る。
「つきしまっ……!!」
 思わず感極まってぎゅううっと抱きしめてしまうと、腕の中でころころと月島が笑う。
「くるっ、苦しいですよ、音之進っ! 加減をしてくださいっ、まったく……子どもみたいな人だ」
「そういう私は、きらいか?」
「きらいなわけない……大好きです、音之進。あなたが、好き……」
 そして再び静寂がやってきて、月島を抱えながらじっとしているとぱかっと月島が連続して欠伸をしたため、時刻を確認してみると、とうの昔に午前を過ぎており、寝間着の下穿きを身に着けた鯉登はベッドを抜け出した。
「ちょっと待っていろ、枕をもう一つ取ってくる。二人でそのベッドで寝るのなら必要だろう?」
「はい、おねがいします」
 ちゅっと額にキスを落とし、ベッドから離れて来客用の寝室まで行って枕を調達し、自室に戻ったが月島からの反応はなく、不思議に思って枕元へ顔を寄せるとなんと、月島は既に枕をかって眠っており、その穏やかな寝息に少し笑って頬に口づけ、鯉登も月島の隣へ寝転び、持って来た枕をかってじっと月島を見つめる。
「……かわいいやつめ」
 頭をさらさらと撫で、鯉登も目を瞑りすぐにやってきた穏やかな眠りの暗闇へと身を投げたのだった。

 次に目を覚ましたのは明け方頃で、隣にあるはずの温みが無いことに違和感を感じ、薄っすらと眼を開けると隣に月島が居ない。
 裸で眠ったはずなのにあるはずのふんどしも寝間着の姿もなく、忽然と姿を消しており、慌てた鯉登は寝間着を羽織って部屋を飛び出して階下へ足を運ばせる。
 ただの用足しながらいいが、何となくいやな予感がするのだ。
 一階へと降りたが月島の姿は見えず、部屋の中をうろうろとしているとふと、窓際に眼が行って、そこには何かの黒い影が見える。
 足早に窓まで行くと、そこに月島の姿が見えたので一応はホッとするが、しかし、月島は鯉登に向かって背を向けており、そこで月島が見ているものに対し、燃えるような嫉妬を覚える鯉登だ。
 がばっと窓を開け、スリッパを履いたままひょいっと外へと飛び出てささやかな庭に着地する。
「……こんなところで、何をしている。風邪を引くだろう」
 まさか鯉登が来ると思っていなかったのだろう、月島が驚きの表情を見せ、そして慌てて手に持っていた物をさっと自分の後ろへ隠したが、もはや月島が何を見ているか知ってしまっている鯉登にとっては憎らしいものに他ならない。
 ずかずかと月島に歩み寄り、無理やりにその手の中にあるものを毟り取って改めて見てみると、それは鶴見と月島のツーショット写真で、縒れているそれはかなり大切にされていたと思われる。
「返してください!! それは、私と鶴見中尉殿とのっ……!!」
 だが鯉登は返すことなく、どころか腕を上げて高く掲げ、写真を揺らしてみせる。
「先ほど、貴様は言ったではないか!! 私だけだと、愛しているのは私だけで、お前にはもう私しかいないと言ったな!! だがしかしどうだ!? この写真はどういうつもりだ!! 私だけと言って、あんなに色事で乱れておきながら!! 私を愛していると言ったその身体で、誰のことを考えていたというんだ!! 鶴見中尉はもういない!! 私だけと、言っておきながらっ……お前はっ!! 私の家で、こんなものを愛おしげに眺めてっ!! 全部嘘だったというのか、貴様はっ!! すべて嘘で固めて、鶴見中尉が居なくなった淋しさから、傍に置いておきたいだけの存在か私は!!」
 マッチ箱を取り出すと、何をするのか月島も分かったのだろう、必死になって写真を取り返そうとしてくる。
 それに容赦はなく、背丈の優位を生かして腕を限界まで伸ばすと、月島が鯉登に縋りジャンプを繰り返してもぎ取ろうとしてくる。
 その際、顔や首を引っ掻かれ、月島が本当にその写真を惜しんでいることがよく分かるそれに、ますます嫉妬の炎を燃やしてしまう。
「つきしまっ!! 私は知っているんだぞ!! お前は私と関係を持ちながらも鶴見中尉ともそういった関係に溺れていたこと……私を裏切り続けていたことを知っている!! それを、黙っていた私の気持ちも考えず、貴様は鶴見中尉に抱かれ続けていたな!! 鶴見中尉に抱かれた身体で、私に逢いに来ては抱いてと背徳的なことも強請っていたな!! そういうことも、全部知っているんだぞ!!」
 その言葉に、月島はなにも言えなくなったようでただただ愕然と鯉登を見つめている。
25/27ページ