デキる月島は今日も憂鬱~金曜日の夜編~
コーヒーを飲み終わり、二人分のマグを洗っていると風呂が沸いた音楽が流れ出し、暗黙の了解で二人で脱衣所に向かう。
服も、カッターシャツ以外はハンガーにかけておかないとシワになってしまう。そう思うが、音之進さんは構わず全裸になって早速浴室に足を踏み入れている。
仕方なく脱衣所に置いてあるハンガーにスラックスを二枚分かけて並べておき、自分も全裸になって浴室へと行くと、やはりだった。
鏡の前にどーんと座って、こちらを見ている。
いつものことなので驚きはしないが、これは頭と身体を洗えという意味だ。初めて一緒に入った時からそうだった。
この人はそれが目的で俺と一緒に入りがっているということを知っているからああ言ったのに、結局これか……べつに、いいんですけどね。
「はい、じゃあ身体濡らしますよ。まったく……自分で自分の身体くらい洗ってください」
「いやだ! それは断る! お前がいるのに何故自分で洗わなくてはならないのか、そちらの方が不思議だ。さあ、月島、今日も頼む!」
「ああー……はいはい。じゃ、頭からいきますね。眼、瞑っていてください」
はあ……毎回こうだ。だからあんまり一緒に入りたくないのに、この人はこれが目的なんだもんなあ。
後、もう一つある。とにかく一緒に入りたがるわけというもの。これに関しては、俺が悪い。一度いい思いをさせてしまってから、何となく習慣になってしまってそれからずっと続いている、例のこと。
多分だが、身体を洗ってもらうという目的よりもこっちの方が理由としては大きいんじゃないかと思う。
まあ、仕方ない。俺から始めたことだ。これに関しては俺が全部悪かった。甘んじて、引き受けよう。
シャワーヘッドを持ち、温かい湯が出たことを確認してから髪を湯で流していく。真っ黒だけど、どことなく青みがかったその髪は不思議な色をしていて、この髪がすごく気持ちイイのを知っている。手で掬うと、さらさらと指の股から零れていく様がすごくきれいで、これは俺も気に入っている。
全体を濡らし終わると、音之進さん御用達のばか高いシャンプーを手に取る。するとふわっと甘くていいかおりが鼻に掠り、そのにおいを鼻に入れながら髪に滑らせていく。
このにおいは好きだ。音之進さんによく似合ってる。抱いた時、このにおいが髪からかおると、音之進さんのにおいと混じってすごく良いかおりがするんだ。
かしかしと頭皮をマッサージするように指を動かすと、上機嫌な声が聞こえる。
「いいなあ、いいぞ月島ぁ! 気持ちイイ。もっとこう、大胆に指を動かしてくれ。余すところなくな」
「はい、分かってますから。ちょっと待ってください」
青みがかった黒髪が泡の中で見え隠れして、手を動かすたびに髪が泡に塗れて揺れる。音之進さんの気持ちイイところは既に把握済みなので、敢えて触らなかった耳の後ろ部分を中心に指を入れて指の腹で擦ってやると「は、あっ……!」となんともいえない色っぽい溜息が漏れたのが聞こえた。
これは、感じたな。
以前のこと、髪を洗ってあげていたら音之進さんが感じてしまって勃ったことがあり、それ以来、頭で感じて勃つと、チンポを触って性欲処理をしてあげることがいつの間にか習慣になった。
多分だが、コーヒータイムにソワソワしていたのもこれが目的だろうと思われる。まったく、オスだ。オス丸出しだが、それも悪くないと思えてしまう辺り、惚れ切っていると自覚する。
ちらりと前を見ると、やはりだ。緩くだが勃って、チンポがピクンピクンしてる。べつに、性欲処理に俺の手を使ってもらっても構わないが、そうすると俺までつられて欲しくなってしまうのが少し、考えものだ。
金曜の夜はビールも解禁だがセックスも解禁なので、間違いなくそういうことになるだろうことは想像がつく。
この風呂場での色事も、彼にしてみれば前哨戦みたいなもので、一回でもいいから吐き出しておかないと治まりがつかないんだろう。
若いな。若い若い。そして、男だな……。俺も人のことは言えないが。
さらに耳の後ろを掻く力を籠めると、元々瞑っていた眼がさらに強く瞑ることによって目頭にシワができる。
「んっんあっ! あっあっ、月島っ、つきしまぁっ!!」
後は……あれか、爪の先で頭のてっぺんからマッサージするアレ。これもこの人が弱い責めだ。
頭皮に爪を立て、さああっと下に向かって引っ掻いていくと、ビグビグビグビグッと身体が捩れ、また色っぽい喘ぎ声を出した。
「あァッ……!! や、あっ、はあっああっ、はあっ、つきしまっ……だめだ、気持ちイイ……なんで、こんなに上手いんだお前は。いつどこでっ……!」
嫉妬が始まった。
この人はこれが厄介だ。それだけ惚れられているってことなんだろうが、一度妬くと宥めるのがなかなかに難しい。
こういうところも、面倒くさいが愛おしいと思う。惚れられて悪い気はしない。音之進さんに関しては特にそう思う。
「あなただけです。気持ちよくなって欲しくて技術が上がっただけですよ。俺には、あなただけです」
「んっ、つきしまっ……はあっ、好き……私も、お前が好き。んっ、は、あっ! ああっああっ、す、好きっ! ああっ、月島ぁっ!!」
いい気分だ。なんていい気分なんだろうか。この人のこういう素直なところ、すごく好きだ。あんまり好きって言葉を使う人間は信用してこなかったけど、この人の好きは他のやつらが使う好きとは違う。
根本的に、熱量が違うと思ってる。音之進さんの好きは、本当に真剣な好き。混じり気の無い愛情が芯にあるから信じられる。信じてしまう。
そしてまた、さらに惚れてしまうのだ。