デキる月島は今日も憂鬱~金曜日の夜編~


 嫉妬というのは裏返せば淋しがりの心が表に出て、妬くという形で責められるものだ。それに、彼の場合男性社員にも容赦がないので、結局のところ、それだけ好かれているんだろうと思うことにして、なるべく会社では人と関わらないようにしている。
 それで彼の気が済むのなら、俺はべつに構わない。なんだかんだと、俺も彼を愛しているのだ。この気持ちに、偽りはない。
 そんなことを考えていると、どうやら舌の動きが疎かになっていたらしい。舌をきつく噛まれ、思わず眼を開けると、きつい眼をしてこちらを睨んでいる彼と眼が合い、さらにぢゅぢゅっと舌を吸われ、慌てて舌の動きを再開させて優しく彼の舌を食み、食んだところを丁寧に舌の先で舐めると「んっ……!」と鼻にかかったような甘い喘ぎが聞こえる。
 その声に気が良くなり、さらに食んでやって舐めることを繰り返していると、何だか細かく音之進さんの身体が震え出してきた。ああ、これはあれか、もう限界ですの合図だ。
 止めてやらないと、後の色事が怖い。
 というのも、金曜日の夜は所謂そういうことをする日だといつの間にか決まってしまい、夜、彼を抱く時に今責めてしまうと、夜の燃えが激しくなりひたすら責めさせられる。
 そうしないと、いつまで経っても満足してくれない。彼が満足するまで奉仕させられるのが常だ。
 そっと顔を離して唇も離すと、俺と彼の唇がヨダレを引いてぽたっと床に雫が落ちる。
「は、はあっ……はあっはっ……ん、つきしま……」
「あっ、ちょっ……ま、待ってください、お、重いっ……!! 倒れます!!」
 顔を真っ赤にし、いきなりこちらにしな垂れかかってきて、何しろ身長差があり過ぎる。上から乗られるように体重をかけられると、さすがに支えきれずどさっと大きな音を立てて身体が崩れ、音之進さんに倒れたままぎゅっと抱かれてしまう。
「好きだっ……!! 大好きだ、月島……好き」
「はい、分かりました。分かりましたから、退いてください。おなか減ったでしょう? 夕食の仕上げをしないと。後のお愉しみは……夜に」
 この最後の「夜に」は耳元で囁くようにしてやると、身体が戦慄いてこくんっと勢いよく頷いたのが分かった。
 そして身体を上げた音之進さんはとてつもない色気を放っていて、甘い息をしきりに吐いてほっぺたは真っ赤っか。唇はヨダレでてかてかと光り、どことなくぼんやりとした顔つきでじっとこちらを見てくる。
「あの……音之進さん? どうかしました?」
「月島が好き過ぎて……離れたくないっ!! いやだっ!! もうずっとこうしてる!!」
 ぐうー!! かわいい!! かわいいぞ、なんだ今日のこの人のかわいさはっ!! 度を越している。俺には止めることができないっ!! だが、ごはんの支度がある!! 俺は腹が減っているのだ!!
「夜、夜にたっくさんイイコトしてあげますから! ねっ? 離れてください。俺もあなたが好きですから。ちゃんと、愛してます!」
「……本当か? 嘘じゃないだろうな。私を謀ると、ただではおかん。噛み殺してやるぞ」
「謀るなど、誰がするんですか! 疑うのもいい加減にしてください! 腹が減っているから気が立つんです! ほらっ、退いてください。あったかいごはん、一緒に食べましょう。ね?」
「つきしまー!! 月島の作る料理は大好きだ!! 月島も、もちろん好きだ!」
 どうやら、機嫌が直ったらしい。どころか、かなりの上機嫌だ。やはり、腹が減っていたんだな。まあ、若いからな、音之進さんは。なんだかんだ言って。
「さ、上から退いてください。あなたはとにかく、うがいと手洗いをして来てください。あ、後……今日の夕食はシチューですが、飲み物はどうしますか? 茶? コーヒー?」
「あー……両方だな。食事の時は茶で、食後にコーヒーがいい」
 身体を起こしながらそう答え、俺も一緒に起き上がろうとしたところで不意打ちを食らい、ちゅっと唇に柔らかな感触が拡がる。
 思わず目の前を見ると、そこには悪戯が成功したようなそんな表情を浮かべた彼がいて、手が伸びてきたと思ったらぽんぽんと頭を軽く叩かれた。
 くそっ、俺の方が年上で大人なのに。なんだ、今のは。ちくしょう、無駄にときめいてしまう。というよりも、ときめくって……俺は頭がどうかしている。音之進さんとこういう仲になってから、何だか俺はおかしくなっている。
 だが、そんな俺も好きなんだからしょうがない。
 洗面所に消えていく彼から上着を受け取り、ハンガーにかけてから料理の最後の仕上げに入る。
さーて、忙しくなるぞ。
 まずはっと……サラダの盛り付けからかな。
 そうしてできあがった夕食を、二人掛けのテーブルの上に並べると、手洗い、うがいを済ませた音之進さんが目をキラキラさせてテーブルの上を見ている。
「美味しそうだ……!! 食べてもいいか? いいな? いただきます!!」
「ああ、はい。どうぞ、食べてください。俺も、いただきます」
 まずは、シチューから。スプーンでジャガイモを掬い、口に運ぶとほろほろと口のナカで崩れ、シチューの旨味が溶け込んだ具材はどれも美味い。
 次に根菜サラダ、ローストビーフの順に箸を運ばせていくが、どれも及第点で美味い。これなら満足してくれるはず。
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